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導入事例 山形市様
保育園AIマッチング現場の想いを“カタチ”に、
AIと人が紡ぐあたらしい業務効率化の物語
- 結果は変えずに、複雑な業務を9割削減 -

山形市
- 所在地:〒990-8540 山形県山形市旅篭町二丁目3番25号
- 市制施行:明治22(1889)年4月1日
令和元(2019)年に中核市 - 面積:381.58平方キロメートル
- 人口:246,421人(令和3年4月1日現在)
- 特徴:市民憲章に「わたくしたちは,樹氷とべに花の里」とあるように、霊峰「蔵王」をはじめとする山々に四方を囲まれた自然豊かな県都。江戸時代は紅花商人で栄え、城下町の風情を残した街並みがあり、さくらんぼをはじめとする果物、そば、山形牛、地酒などは全国でも有名。

事例のポイント
課題背景
- 繁忙期には超過勤務が増えることもあり、保育所の入所調整業務を効率化したい
- AI任せのブラックボックス化の不安をなくし、人手によるきめ細やかな選考に近づけたい
- 効率化によって得られた時間を有効に使いたい
成果
- 約95.5%の業務時間を削減する効率化を実現
AIシステム導入により、業務時間外に15人が約100時間要していた選考時間が、2人で業務時間内の4時間30分(うちAIによる選考時間は49分)で完了し、約95.5%の業務効率化を実現した - 選考過程で必要なときに職員が加わる機能を実現
きょうだいや同点競合など複雑でセンシティブな選考に職員が介入できる“止め”機能を持たせることで、安心感を持って選考を行えるだけでなく、ほぼ人手による選考と同一の結果を実現した - 削減時間を日常業務や子育て支援事業に充当
効率化で生まれた時間で日常業務の充実化を図るとともに、保育士確保対策事業の拡充を行った
導入前の背景や課題
保護者の複雑な要望に応えるため、
15人が年間のべ500時間以上を費やして手作業で選考
効率化したいが、AIに対する不安も...
山形市は『山形市発展計画2025』を策定し、重点施策に「安心して子育てできる環境づくり」を掲げ、計画推進のための共通基盤として「行政のデジタル化」を推進。その一環として「AI等の活用による行政事務の効率化」があり、「保育所等利用調整AIマッチングシステム導入事業」に取り組んだ。令和2年度に、人手による選考調整作業をAIで再現する実証実験を行い、その成果を製品化したシステムを本格導入。導入の経緯や感想、効果について担当職員に聞いた。
山形市では、10月から90を超える認可保育所等の次年度の入所申し込みを受け付け、約1,500人もの申し込みがある。こども未来部 保育育成課 主任 鈴木幸希氏は語る。「令和元年度は、15人が作業に取り組み、年間のべ500時間以上要していました。職員はそれぞれ担当施設を持つため、総合的に判断するには、一堂に会して調整する必要があり、集中してかかれる時間帯も考慮すると、時間外に行わざるを得ませんでした。」

山形市
こども未来部 保育育成課
主任
鈴木 幸希 氏
負荷の高い業務を効率化したいという思いと同時に、AI活用には複雑な気持ちもあったと鈴木氏は言う。「入所受付では、保護者が複雑なお願いをしてくることがあります。例えば、きょうだい別々に申し込むとき、こことここの園ならば別でもOK、あるいはこことあちらはダメ、下の子を優先したいなど。希望を受け、細心の注意を払ってきめ細やかに調整します。」
AIがどこまできめ細やかな対応を再現できるか不安は消えなかったが、一方で「AIを活用すれば、効率的に調整でき、空いた時間を新たな施策展開に活用できるのではないか。」という期待もあり、実証実験は幕をあけた。
導入の決め手
業務効率化はもちろん
職員が選考に加わる“止め”機能で
きめ細やかな配慮を実現
実際に実証実験でシステムを操作したこども未来部 保育育成課 主任 斉藤はるな氏は、鈴木氏と同じような不安を実証実験に抱いていたと言う。「AIというと、人の手を介さずスムーズにコンピュータがすべて判断してくれるイメージがありました。
今までの利用調整は、職員15人全員で、この子は希望する園が空いているかどうか、配慮が必要なお子さんがいるかどうかなど、順に一人ずつ見ながら調整してきました。
AIならばスピーディに調整できるだろうと思っていましたが、人の配慮が一切できなくなってしまった場合、今までと同じような基準で見られるのかが心配でした。」さらにこう続ける。「例えば、障がいを持つお子さんや、複雑な家庭状況のお子さんなどについては、やはり調整の段階で一人ひとり丁寧に見ていく必要があります。きょうだい入園などの高度な希望についても同様です。そうした環境などへの配慮はコンピュータではできません。機械的に流れてしまうと、保育における子育て環境の整備という市の方向性とは異なってしまうのではないかと考え、どうにかできないものかと選考業務を統括する本市職員が御社に相談を持ちかけました。」と、このふとした相談がきっかけとなり、職員が選考に一部加わることができる“止め”機能が誕生。現場の想いが“カタチ”になった瞬間だった。この機能のみならず、実証実験では、現場の不安や課題が共創によりひとつずつ丁寧にシステムに組み込まれていく。

山形市
こども未来部 保育育成課
主任
斉藤 はるな 氏
実証実験を終えた感想として、「実際にAIによる調整を行ってみると、時間の大幅な削減ができましたし、自動的な判断だけでなく、必要な場合にいったん“止め”て、確認・承認しながら選考を行える機能があることで、AIを導入しても選考結果が手作業と変わらないんだという安心感を持ちました。」(斉藤氏)、「AI導入についての不安は、選考結果が一つずれると玉突きのように影響を及ぼしてしまうのではないかということでした。しかし、“止め”の機能があるとそのようなこともなく、安心感につながりました。」(鈴木氏)と実施前の不安はどこ吹く風、きめ細やかな配慮も実現できることから、山形市はAIシステムの導入に踏み切った。
導入後の効果
AIによるあたらしい驚き
結果を変えずにプロセスを進化
効率化で生まれた時間の有効活用へ
山形市は、令和2年度にAIシステムを本格導入し、令和3年4月の入所希望者の選考を人手による調整作業と並行で選考した。その結果について、鈴木氏は次のように成果を語る。
「令和3年4月の入所希望者の選考を、令和2年12月に調整作業したときは、人手の場合は15人全員が取りかかって約100時間を要しました。これに対しAIマッチングシステムの場合は、わずか2人で作業をして選考時間は49分、準備やチェック作業も含め約4.5時間で終了しました。人員も時間も大幅な削減ができたことに驚きました。」(鈴木氏)と、本番稼働したAIシステムを使うことで、業務時間の削減率は約95.5%になり、大幅な業務効率化を実現したという。「また、選考結果については、手作業で行った結果との一致率もほぼ100%でした。(鈴木氏)、「短時間に処理できるので、従来のやり方に比べると、人手も労力もまったく違います。処理スピードは格段に速くなりましたが、人手による調整とほとんど同じ結果が得られることが本当に驚きでした。」(斉藤氏)と人手による結果と変わらなかったことに両者とも驚きを隠せなかった。

令和3年4月の2次選考以降は、AIマッチングシステムが主役を担っており、2次選考は約10分で選考が完了、その後もトラブルなくシステムが本番稼働している。選考が早く終わることで、「効率化により生まれた時間や余力を、入所受付業務やその他の日常業務のいっそうの強化につなげ、全体的な課の業務の効率化も図っています。またシステムにはレポート機能がありますが、データ活用方法の検討を進め、今後は子育て支援を中心とする行政サービスの向上につなげていこうと考えています。」と将来構想を斉藤氏は語る。
最後に、AI導入に向けたプロジェクト全般について、「常に迅速かつ臨機応変に対応していただきました。一連の実証実験から本格稼働まで、スムーズにプロジェクトが進んだことを高く評価しています。」と鈴木氏は感謝の意を表した。
本事例は、新聞記事等でも取り上げられており、自治体のDX推進において注目を集めている。しかしながら、AIに対する抵抗感を感じる方もまだまだ多いだろう。そのような方に向けて、「AIはブラックボックス(中身がわからなく、不気味なもの)とお思いの方が多くいらっしゃるが、人の手が介入できることが魅力のシステムなので、安心感があります。」(斉藤氏)とメッセージをいただいた。本システムは、多くの自治体が本格導入に向けて、興味を持っており、「すでにいくつかの自治体からシステムについての問い合わせがきています。その場合は、AIと職員による共同作業の成果をお伝えしています。」と鈴木氏は付け加え、にこやかに取材を締めくくった。現場の想いがきっかけとなり、AIと人が紡いでいく業務効率化の物語は、まだまだ始まったばかりなのである。