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コラム
売らないお店「体験型店舗」とは
ミレニアル世代やZ世代が求める新たな価値

UPDATE : 2021.09.17
今、リアル店舗の役割が大きく変わろうとしています。これまでは販売の場であったはずが、顧客体験を高める場になろうと変化しているのです。そうした中、小売業の間で注目を集めているのが「体験型店舗」という考え方。特にミレニアル世代に“刺さる”とされるこの取り組みについて、実際の事例を交えて紹介します。
INDEX
- モノを売らない「体験型店舗」とは
- OMOにより見直される実店舗の役割
- 消費動機は「体験」
ミレニアル世代とZ世代の新たな価値観 - 新たな購買体験を提供する体験店舗の注目事例7選
- 公式アプリと連動したメイク体験などを提供(オルビス)
- 最新技術を駆使したビューティアトラクションで話題(コーセー)
- 原宿旗艦店を「体験型店舗」としてリニューアル(ナイキ)
- 自分好みのコーヒーを専用ロッカーで受け取り(サントリー)
- ネットで話題の商品に触れられる体験型セレクトショップ(b8ta)
- 渋谷一等地に顧客ネットショップのリアル店舗を提供(BASE)
- 最低限の在庫でリアル店舗出店が可能になる(PATRA)
- まとめ
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無人店舗最新事例Book無人店舗の最新事例および、顔認証決済を使ったレジレス型店舗や無人スーパーなど、NECグループの事例をご紹介します。
モノを売らない「体験型店舗」とは
欲しい商品が翌日に届くフットワークの軽いECサイトの拡大や、外出がためらわれる昨今のコロナ禍によって、今、リアル店舗は厳しい淘汰の時代に突入し、その存在価値が問われ始めています。そのような中で、小売店舗の未来形と言われているのが「体験型店舗」です。
体験型店舗とは、リアル店舗最大の優位点とされている“実際に商品を触って試せる”機能をより強化したもの。特に何事においても「体験」を重視するミレニアル世代(2000年以降に成人を迎える年齢となった世代)から強い支持を受けています。
ちなみに、体験を重視する購買体験の中でも、特にエンターテインメント要素を強く押し出したものは「リテールテイメント」と呼ばれており、海外ではすでに定着。日本でも大きなブームを起こしていくと言われています。
OMOにより見直される実店舗の役割
今、リアル店舗の役割が見直されている理由は、大きく2つあります。1つは、消費者の利便性において、ECサイトがリアル店舗を大きく上回ってきたからです。圧倒的な品揃えや、欲しい商品をすぐに探し出せる検索性の高さ、商品レビューの豊富さが挙げられます。
もう1つが、消費者が商品やサービスの価格や機能など、物理的な価値観だけでは満足できなくなってきたからです。購入に至る顧客体験の向上が不可欠になってきているのです。顧客体験の向上はリアル店舗だけでなく、ECサイトにも求められています。
顧客体験を向上させる店舗づくりの“解”の1つとして注目を集めているのが「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方です。OMOは直訳すると「オンラインとオフラインの融合」という意味。従来はオンライン(ECサイト)とオフライン(リアル店舗)を異なるチャネルとして分けるのが一般的でしたが、OMOでは顧客がチャネルの違いを意識せずにサービスを受けることを可能にします。

OMOの手法の一つである「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」は、ユーザーがECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取れるようにするもの。
ユーザー側のメリットは、送料負担がない、自分の好きなタイミングで受け取れる、商品検索や決済がオンラインで行えるため買い物がスムーズになる点です。商品受け取り時に実物を確認でき、その場で返品可能な点もメリットと言えるでしょう。店舗側のメリットは、他のEC事業者との差別化が図れる、顧客満足度の向上につながる、物流コストが削減できる点が挙げられます。
それとは逆に、リアル店舗で店員に相談しながら商品をじっくり体験・検討した後、手元のスマートフォンから購入して自宅に配送する、といった方法も存在します。
両者に共通するのは、リアル店舗とECサイトで在庫の取り扱いが異なるなどといったチャネルの都合ではなく、顧客満足度の最大化を何より大切にしていること。そうした枠組みの中で、リアル店舗に求められる顧客体験の向上を具現化したものが「体験型店舗」なのです。
関連記事:OMOとは?小売業界で注目されるのはなぜ O2Oやオムニチャネルとの違いをわかりやすく解説
消費動機は「体験」
ミレニアル世代とZ世代の新たな価値観
体験型店舗を作り上げるには、メインターゲットとなるミレニアル世代とZ世代と呼ばれる若者の価値観を知らなければなりません。
ミレニアル世代とは、2000年以降に成人を迎えた1980年〜1995年頃生まれの世代。現年齢では26〜41歳の層を示します。彼らの特性は、成長過程にインターネットが飛躍的に普及したこと。時代の急激な変化を体感していたこともあり、高い情報リテラシーを備えた世代と言われています。消費行動としてはその後のZ世代よりも「体験」を重視していることが特徴的。よりよい「体験」を得るためには出費を惜しまない世代です。
その後の世代であるZ世代は、1996年〜2015年頃に生まれた世代を示します。生まれた時からインターネットが身近にある、いわゆる「デジタルネイティブ」な世代。彼らもミレニアル世代同様、「モノ」よりも「コト」つまり「体験」を重視する傾向が強いのですが、物心ついてからずっと不況が続いていることもあり、消費行動についてはやや現実的。「体験」と同じくらい「コストパフォーマンス」を重視する傾向にあるようです。
これから体験型店舗を展開する場合は、世代ごとに異なる特性を踏まえた計画を立てる必要があるでしょう。

新たな購買体験を提供する体験店舗の注目事例7選
今、国内のさまざまな業界で盛り上がり始めている「体験型店舗」。ブランドの世界観を顧客に感じでもらったり、ブランドストーリーを伝えたりするブランド体験型店舗をはじめ、特に注目度の高いユニークな事例を紹介します。
公式アプリと連動したメイク体験などを提供(オルビス)
化粧品通販のオルビスは2020年7月、東京・表参道に独自の体験型店舗「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」をオープンしました。明るく開放的な空間の中央に大きなトライアルスペースが設けられた店舗構成は、化粧品販売店というよりショールームのような造り。訪れた顧客はここで肌診断を受けて正しいスキンケアを学んだり、オススメ商品を購入したりできます。さらに店舗の2階にはオルビス公式アプリ会員向けのフロアを用意。「パーソナルカラー診断」といったアプリ機能と連動したメイク体験などを楽しめます。
最新技術を駆使したビューティアトラクションで話題(コーセー)
「ルシェリ」や「雪肌精」など、多彩なブランドを展開する化粧品製造・販売大手のコーセーは、2019年12月よりブランド横断型のコンセプトストア「Maison KOSÉ」(メゾン コーセー銀座)を運営中。AR(拡張現実)技術を使ってリップやファンデーションの色味を肌に合わせて確認できるタブレット端末や、3Dスキャンで撮影した一人ひとりの顔の形にパーソナライズされたパック用シートマスクを出力できる「フェイスマスクファクトリー」など、デジタル技術を活用した「ビューティアトラクション」を来訪客向けに提供しています。
原宿旗艦店を「体験型店舗」としてリニューアル(ナイキ)
スポーツ用品大手のナイキは世界中でリアル店舗の見直しに取り組んでおり、2019年7月に原宿旗艦店を体験型店舗「NIKE HARAJUKU」としてフルリニューアルしました。シューズのデザインを自由にカスタマイズして購入できる「Nike By You(旧・NIKEiD)」など、かねてよりECサイトでの顧客体験向上施策で大きな効果を上げています。
原宿旗艦店ではNIKEアプリ登録者専用のサービスを多く提供しており、店外からの在庫確認・取り置きが可能なほか、店内でも商品に添えてあるバーコードを読み取ることで店員を呼び出すことなく商品の詳細情報を確認できます。またAR機能で足のサイズを計測する「Nike Fit」サービスなども提供中です。
自分好みのコーヒーを専用ロッカーで受け取り(サントリー)
ビールやウイスキーなどの酒類をはじめ、ソフトドリンクの缶コーヒー「BOSS」などでも有名な飲料大手サントリーは、2019年6月に体験型コーヒーショップ「TOUCH-AND-GO COFFEE」をオープンしました(惜しまれつつ2021年8月31日に閉店)。同ショップではLINEを使って好みの味わい(ローストタイプや甘さ、フレーバーなど)を指定したコーヒーおよびラテをリモート注文し、店頭のロッカーで受け取れます。自分のためだけに作ったコーヒーを、朝の忙しい時間に店頭に並ぶことなく購入できることが高く評価されていました。
ネットで話題の商品に触れられる体験型セレクトショップ(b8ta)
有名テック企業の新製品やスタートアップ企業のテスト中の商品など、今までの小売店では見たことのない最先端プロダクトが並ぶ体験型ストア「b8ta(ベータ)」。国内では東京・有楽町と新宿にリアル店舗を構えています。その最大の特長は、ブランドコンセプトが伝わる店づくりをしていること。ブースごとにタブレット端末を設置し、動画や画像を通じて世界観を堪能しながらプロダクトを体験できます。2021年7月に行われた日本上陸1周年を記念したイベントでは、アウトドア愛好家に向けたアウトドア商品の体験コーナーなどを設置し話題となりました。
渋谷一等地に顧客ネットショップのリアル店舗を提供(BASE)
2012年にサービス開始したネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」が2018年5月にリアル店舗「SHIBUYA BASE」を渋谷マルイにオープンし話題になりました。SHIBUYA BASEは BASEでネットショップを開店した顧客を対象に、リアルでの販売の場をレンタル形式で提供するというもの。
約3年間で170店が出店したという実績を受け、2021年6月には場所を渋谷モディに移転し、敷地面積を4倍以上に大幅拡大(約22坪)するなど大幅リニューアルを敢行しました。新店舗では飲食の提供も可能になるなど、今後、さらなる体験を拡充していく予定です。
最低限の在庫でリアル店舗出店が可能になる(PATRA)
最先端のD2Cブランドが集まるショッピングモール「PATRA MARKET」や、アパレルの仕入・生産から在庫管理・販売まで行えるプラットフォームを運営するPATRA。新たな試みとして、同社プラットフォーム上に展開する20以上のブランドの体験型店舗を全国の小売店に展開する「CONTACT STORE」を2021年6月より開始しました。顧客はお店で実際の商品を試着できるほか、併設のフォトスポットで写真を取ったり、カフェスペースでスマホから商品情報を見ながらゆっくり検討したりできます。ポイントは無在庫店舗だということ。商品の注文・発送は全てWebから行われるため、各ブランドはサンプル品を並べるだけでリアル店舗の展開が可能になります。
まとめ
すでに多くの事例が動き始めている「体験型店舗」。体験型店舗のかたちは多種多様で、さまざまなアプローチがありますが、全てに共通しているのは顧客満足度の最大化を何よりも重視していること。顧客満足度の最大化を目的とする店舗づくりには、デジタル技術の駆使が欠かせません。OMOのアプローチを主軸に、リアルとデジタルを融合させ、購買体験の向上を目指しましょう。