会計コラム國井 隆氏・第2回 電子インボイスの普及により何が変わるのかコラム執筆者:國井 隆氏 掲載日:2021年9月10日
2023年10月施行の消費税法改正に関連して、適格請求書はデジタル化、いわゆる電子インボイスになり、バックオフィス業務は変わるのでしょうか。まずは、電子インボイスとは何か、その普及の状況について理解してみましょう。

電子インボイス普及に向けての背景
消費税課税事業者の消費税に関する計算・納税に関して、2023年10月から「適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)」が導入されます。適格請求書等保存方式においては、現行の区分記載請求書等の保存に代え、適格請求書等の保存が仕入税額控除を行うための要件とされています。つまり、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書のみが仕入税額控除の計算対象となり、段階的ですが免税事業者の請求書では仕入税額控除が受けられなくなることになります。
この適格請求書に関連して、消費税も払う側(買い手)・消費税も受け取る側(売り手)に大きな事務的負担が発生することが予想されています。具体的には消費税を払う側は、仕入税額控除を受けるために税区分ごとに会計処理を行い、税率ごとに仕入税額控除の計算をする必要があり、免税事業者からの仕入は仕入控除対象外取引として区分して処理する必要があります。消費税を受け取る側(売り手)は、適格請求書発行事業者として登録し、適格請求書には登録番号を記載して用税率と税率ごとの消費税額の表示をする必要があります。
この「適格請求書等保存方式」への移行に関連して事務負担が増大することから、請求にかかわる業務プロセスのデジタル化および共通化、事業者間で共通的に使える電子インボイスの普及に期待が寄せられています。
電子インボイスとは
では、電子インボイスとはいったいどのようなものでしょうか。電子インボイスとは、「適格請求書等保存方式」において仕入税額控除に必須となる適格請求書を電子化する仕組みのことをいいます。
日本のソフトウェア会社の団体は、日本国内で活動する事業者が共通的に利用できる電子インボイス・システムの構築を目指し、電子インボイスの標準仕様を策定・実証し、普及促進させることを目的として、「電子インボイス推進協議会」(英語名称:E-Invoice Promotion Association、略称EIPA)を2020年7月29日に設立しました。
政府も2020年12月25日に「デジタル・ガバメント実行計画」を閣議決定し、内閣官房は、関係省庁および民間団体などとの総合調整を行うとともに、グローバルな経済活動にも対応できる標準仕様となるよう、必要に応じて国際標準団体との交渉を行うとされています。経済産業省においては、中小・小規模事業者の実態を踏まえ、中小企業共通EDIとの相互接続性確保のための取り組みを行うほか、標準化ソフトの導入を促すための環境を整備するとしています。デジタル改革担当大臣は、デジタル化を通じたバックオフィス業務の効率化実現は非常に重要な課題であり、「デジタル化のフラグシッププロジェクト」だと考えていると発言しています。
インボイス制度に関する情報はこちらのページでもまとめております。ぜひご覧ください。
特集!!インボイス制度
想定される電子インボイスの標準規格
EIPAは、2020 年 12 月 14 日に行政機関のオブザーバーを交えて検討し、電子インボイスの普及に向けて、国際規格「Peppol(ペポル):Pan-European Public Procurement On-Line」に準拠した「日本標準仕様」を策定することを決定したと公表しています。既存の電子帳簿保存法で認められている範囲の中での「電子取引」の中には請求書も入っているので、現在、EDI取引などで利用されている請求データが要件を満たしていれば、そのまま電子インボイスとして利用されることもあると思われます。
では、国際規格「Peppol(ペポル)」に準拠した日本版Peppolを普及させる狙いはどこにあるのでしょうか。Peppolとは、欧州の公共調達をオンライン化する標準規格を基に、国際的な非営利組織「OpenPeppol」が民間事業者も対象に含めて管理する電子インボイスの仕様をいいます。日本国内で電子インボイスの仕様を共通化することで、中小企業を含めたすべての事業者のデジタル化推進を加速させる目的があると思います。
2021年6月28日には、電子インボイス推進協議会は日本版 Peppol 実現に向けた業務要件を公表し、例えば日本の商習慣で行われている合計請求書の発行実務(月に1回に締めて、まとめた請求書を出す実務)についても、一旦はサポートすべきと提言しています。電子データのやりとりなので、そもそも発送実務や集計実務を効率化する必要はなく合計請求書自体発行する必要はないとも考えられますが、普及のスピード化を図るため企業の現行の商習慣にも配慮しての構想と思われます。
電子インボイスのメリットと業務への影響
消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達(2018年6月6日)では、適格請求書は電子データとして提供してよいことになっており、光ディスクなどのほか、EDI取引を通じた提供、電子メールによる提供、インターネット上のサイトを通じた提供が認められています。しかしながら、EDIや電子メールなどだけでは成しえない以下のような大きなメリットが電子インボイスにはあるといわれています。
① 仕訳入力および仕入税額控除の判定業務の自動化推進
実際の仕入税額控除の計算では、複雑になった複数税率ごとに会計処理を行い、仕入税額控除の対象かどうかを判断し、入力処理する必要があります。適格請求書と免税事業者などからの請求書との分類に始まり、仕入税額控除の計算に必要な情報を会計システムに入力する業務は、相当の工数が必要です。会計システムの多くは複数税率に対応しているため、電子データを直接システムに取り込むことができれば、仕訳入力から仕入税額控除の計算まで業務を自動化することができるものと思われます。
ほとんどの会社が電子インボイスを採用するということになれば、上記の経理業務だけでなく、入金消込などの債権管理を含めた業務の自動化がさらに進むでしょう。
② 真正性に関する共通化
請求書自体が本物であるかは、紙ベースの場合でも変わりませんが、先行している国では、この真正性の担保の方法は若干異なっています。タイムスタンプの付与や電子署名などがありますが、電子インボイスでは適格請求書発行事業者情報を付与した電子署名(eシール)の導入が検討されています。これにより、書類の適正保存や適格請求書発行事業者の確認事務など、インボイス制度導入後の事務負担を減らすことができると期待されています。
電子インボイスの真正性が担保されれば、請求業務の自動化がさらに進み、請求書の発行側、受取側での業務効率化に寄与するものと思われます。他方で、その請求内容が正しいかどうかの判断は、別次元の問題であり課題の一つです。
③ 適格請求書の保管・管理・検索の迅速化
現在でも請求書には、一定期間の保存が義務付けられており、適格請求書でも同様です。
これまでの紙ベースの請求書の場合には、保管する場所やファイリングなどの手間、保管のための経費が発生していたのですが、電子データで保存すれば、保管スペースも経費も少なくなり、検索については圧倒的に便利になるでしょう。
この点は、経理業務にとっては大きなメリットです。他方で、外部ストレージなどのバックアップ体制の強化は必須と思われます。
④ 多様な働き方への対応(在宅勤務やテレワーク)
現状の新型コロナウイルスの影響下で、テレワークになじみにくい業務の一つに「請求業務」がありました。いわゆる「ハンコ文化」呪縛からの解放が、多様な働き方の推進にも寄与するでしょう。電子インボイスに対応するクラウドサービスを使うことにより、会社以外からインターネットを介してアクセスできるため、在宅勤務やテレワークでも請求業務に従事することができます。
他方、在宅勤務などでのセキュリティ対策は、なおいっそうの強化が必要と思われます。
電子インボイス導入後に何が変わるか
消費税率を上げる時には国民的関心事になっていたのに対し、いわゆるインボイス制度は、さして大きな議論がされずに消費税法が改正されました。
ただ、軽減税率が導入されたことによって、消費税への対応が複雑になり、新たな適格請求書も、中小企業も含めたすべての事業者にとって業務負荷がかかるのは明らかでしょう。
電子インボイスは、業務負荷を最大限減らし、業務のデジタル化を推進する鍵になります。間違いなく電子インボイスの導入で、請求業務・入金管理業務の自動化は進むことになるでしょう。
しかしながら、単純に手作業が自動化するだけでは大きな変革はもたらさず、会社にとって現状の業務を見直しすることが重要なのです。電子インボイスの普及が、業務のデジタル化を推進することは間違いないのですが、人がかかわることがゼロになることはありません。どこに不具合、エラーや不正が生じる可能性があるか、これを機に十分な検討をして業務のデジタル化を推進することが肝要と思われます。
執筆者プロフィール
NECソリューションイノベータではインボイス制度に対応予定の統合会計システム SuperStream-NXをご提供しております。会計システムに関するご相談や電子インボイス制度へのご対応に関するご相談など、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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