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人事コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第14回 データードリブン人事 第2回目: データードリブン人事が必要な理由 コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏  掲載日:2020年12月23日

1回目は、公平な制度や仕組みが作れない原因や課題を考えてみました。
人事は、「公平さ」を公平な制度だけを目指して制度を導入するわけではありません。ただ、公平というだけでも多くの課題も対応も求められていることが理解できたのではないでしょうか。

そのなかでも重要な課題として浮き彫りになっているのが、“エビデンス”がない、または、不十分である課題と、“バイアス”という人の思い込みや先入観、評価する者の偏った思考や印象論という2つの課題です。
これらは、人事制度の運用面で問題になります。
人事制度では、「評価となる根拠・証拠・記録・成果物などのエビデンスを確認したうえで、評価基準のモノサシで評価すること」と定義する企業は多くあります。また、評価者訓練でも、「ハロー効果や中心値化傾向などのバイアスに気を付けて、客観的に評価すること」と何度も説明し、評価者も意識していますが、一向に改善の気配は見受けられません。

人事もこれを言い続けて何年、何十年。今後の研修でも、また、同じ内容が繰り返されていくのでしょうか。本当に、これを続けていくだけで、公平な仕組みを実現させることができるのでしょうか。

人事がいつまでも公平な制度・仕組みが作れない理由

データードリブン人事とは何か

読者のみなさんはデータードリブン人事という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。

英語では、Data-Driven Human ResourcesとかData-Driven HRMSなどの表記で、欧米では10年以上も前から優良企業で採用された仕組みです。ほぼ同時期に、米国ハーバード大学やカリフォルニア州立大学などの多くの米国大学で、MBAはもちろん、一般コースにおいても、組織開発や組織マネジメント、人材マネジメント、業績マネジメントにデータードリブン人事が習得単位となりました。米国の大学も企業も、“人事の役割”は、もはや戦略的パートナーであることが当たり前になっています。戦略的パートナーであることが条件になっています。
人事が戦略的パートナーとなることの意義については、本人事・総務コラムの「人事に期待される役割とは」に記載していますので、併せて読んでいただきたいと思います。

戦略的パートナーの人事の役割を果たすためには、「人事アナリティクス」、または「ピープルアナリティクス」、または「データードリブン人事」であることが必須となります。これらの言葉は、「人事データによる統計分析」と言う意味で同意語としてもよいでしょう。欧米では、一般的にビジネスの世界では、「ピープルアナリティクス」と言われ、人事の世界では、「データードリブン人事」とか、「人事アナリティクス」と言われています。しかし、明確な定義や範囲はありません。欧米の有名な団体やコンサルティング企業が、それぞれの商品やサービスに合わせて定義をしているのが現状です

データードリブン人事を一般的に言うと、

  • • 組織開発や組織マネジメントにおいて、組織の役割、使命、機能を定義し、それを果たすために必要な人材を定義する。その人材を登用する場合、人事データを分析しマッチする人材を選定し、それを活かす取り組み
  • • 人材の採用から、適材適所の配置、人事異動、昇格・昇進、教育研修、サクセッションプラン(後任者選定)、退職防止などに至るまでの各場面で活用できるように人事データを分析し活かす取り組み
  • • 人事上の各意思決定を、人事データ分析の結果からそれを判断の根拠とするエビデンスとして活用し、客観的で公平な判断をすることができる取り組み
  • • 人事の過去データや現状データから人事分析を行い、さらに、予測データを分析し、想定され起こり得ることを事前に検討、処置する取り組み
  • • 人材分析では、特定の結果を出す人材の共通項、原因分析を行う。特に、因果関係分析には高度な分析を用いて追求する。例えば、過去5年間に昇進した社員に共通する能力や行動、仕事観などを分析する取り組み
  • • チーム作りにおいては、人事データを利用して最適な人間関係を事前に検討したうえでチーム編成を検討する取り組み

特殊な活用や取り組みとしては、

  • • スマートフォンや携帯電話を利用する活用、または、社員証ICとセンサーを利用する活用。例えば、各個人の行動をモニターし、社員の動線分析を行い、効率的かつ効果的で理想的な動線が取れるように動線に合わせた配置を修正し、組織全体の労働生産性の改善に活用する取り組み
  • • 成果を出し続けている特定の優秀な人材は、具体的に、日々どのような行動をしているのか、どのようなメールをどのように記述して受け答えしているのか、どのような会話や発言(チャット)をしているのかなど、コンピテンシー分析に活用する取り組み
  • • メールやチャットをモニターし、分析し、従業員の本音の満足度を測定する、または、退職やストレスなどの早期発見に活用する取り組み

などがあります。

データードリブン人事は、ファクト(事実)とサイエンスに基づく統計分析、さらに人の行動心理に基づく行動統計分析のアプローチを取っています。経営陣・役員も管理職も人事も、的確に公正に判断できる手法として、データードリブン人事は浸透しています。人事データの分析で、客観的でロジカル思考による意見交換で判断ができるようになると、これまで悩み続けてきた“思い込み”や“バイアス”の問題も大きく解消できるようになります。これで、今まで堂々巡りの多かった何とも言えない議論とストレスからは解放されるでしょう。

なぜ、それが今の人事には必要なのか

人事や経営を取り巻く内外環境に、人材のグローバル化、雇用の多様性に加えて、人材の多様性、人材の流動化の加速、仕事観の変化、従業員の高齢化などの取り巻く環境がこれまでになく大きく変化し続けています。デジタル技術の加速も、人事だから関係ないと無視することはできません。
人事だから関係ない、と思っている読者の方は、本人事・総務コラム「第3回目:DX時代における人事の役割と価値とは何か」も読んでいただきたいと思います。

人事のなかには、残念ながら、人事制度や規程を作れば、あとは現場の管理者に丸投げの人事もあります。そのような人事の方の言い分を聞いてみると、驚きの声も聞こえました。例えば「人事がやりたくて人事に来たのではない」「人事異動で来たけれど、あと3年すれば、また異動で元の部署に戻ることになっている」。このような声はほんの一握りですが、事実です。

1回目のコラムでも書きましたが、公正さを求めて作ったはずの制度が、仮説通りに現場で機能しているのか。人事も、初めて運用してみて仮説通りだったのか。経営も運用に課題は抱いていないかなどの検証は行ってほしいものです。でも、実は、すでにお伝えしたように、顧客の8割の人事は、これをしていません。なので、人事におけるPDCAマネジメントもできていないのです。これでは、人事が戦略的パートナーとして認められることはありません。人事が戦略的パートナーとして認められない場合は、人事には労務管理機能と入社手続き、退職手続きだけ残して、あとは解体されるかもしれません。しかし、2014年に英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン氏による「雇用の未来」や2020年のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査でもデジタル技術による自動化やAIによって10年後には、約1,660万人が雇用の機会を失うと報告しています。入社手続きや退職手続きはセルフサービス機能で完結し、行政ともネットでオンライン雇用変更手続きなども自動化が可能となるでしょう。給与担当者、福利厚生担当者、人事手続担当者は、時代の変化と共に雇用がなくなると予測しています。

日本能率協会が、2006年に、「人事部の役割の進化の調査」で“人事が戦略的パートナーになれるか”を人事部に問うています。さらに、組織の横異動の人事異動の機能と組織の縦異動の昇格・昇進の機能を人事部に置くことにより、官僚的機能となっていると指摘さえしています。この時から、これまで長く触れてはいけない“聖域化された人事”を解体し、人事ビッグバンが叫ばれるようになりました。つまり、人事部の機能の重要な一部を分散化する議論や動きがこの時代から行われるようになったのです。

とにかく、まさに今、人事が経営の戦略的パートナーの役割を担う期待に応えられないとすると、人事の機能の解体化か分散化がされると思われます。

日本企業でもすでに、人事が戦略的パートナーに変革している事例も増えています。それを目指すために、人事変革を起こして取り組んでいる人事もあります。しかし、多くはその必要性を感じながら着手していないのです。その必要性・重要性を感じていない人事は、機能が分散化されている例があります。戦略的人事の役割を、人事には任せられないので経営戦略室や経営企画室などに移管されています。人事に残った労務管理も、やがてセルフサービス化されるでしょう。労務管理もAI処理され、給与計算業務と連動、または、シェアードサービスによる完全な外出しになることでしょう。

通常、人事が戦略的になるためには、思考やスキルなどの習得に数年は掛かります。さらに、データードリブン人事の機能を得るには、統計学、データーサイエンスの専門性も必要となります。データードリブン人事の担当は、データーサイエンティストが採用され、担当しているのが一般的です。問題は、データーサイエンティストに何を分析させるか、彼らをどのようにマネジメントするのか、人事責任者の新たな力量が試されます。

執筆者プロフィール

鬼本 昌樹

鬼本 昌樹戦略人財コンサルタント 代表

京都大学理学部、カルフォルニア州立大学ロングビーチ校理学部卒。
日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスにて、人事部長、経営企画部長、人事役員、取締役副社長を経験。強い企業を作る人材の活性化、人事部の役割の高度化で貢献する。
現在、人材活性マネジメント、労働生産性、人事部の戦略的役割への変革支援を経営人事コンサルタントとしておこなっている。
タレントマネジメントは10年以上の実績を持つ。
中小企業診断士、社会保険労務士、ファシリテーター(米国資格)、行動心理学(米国資格)