日経MJ紙面広告(2007年9月発行)
対談 「PC-POS MATE」にみるPOSの進化
POS(販売時点情報管理)システムはデータの収集・分析にとどまらず、マーケティングにフル活用することで顧客に一層近づき、快適なショッピング環境を提供するためのシステムに進化している。小売業に何よりも求められているのは、正確なデータを基にした顧客とのインタラクティブ(双方向)な関係を事業戦略に活かし、精緻(せいち)な顧客主義経営を実践することだ。それを支援するための新たな技術、RFID(Radio Frequency Identification=無線ICタグ)をPOSに取り込む動きも始まった。そこでPOSシステムの将来像などについて、上田雅夫・財団法人 流通経済研究所主任研究員とPOSソリューション事業を展開しているNECソリューションイノベータの石川剛・第三産業ソリューション事業部シニアマネージャーに語り合っていただいた。
バックヤードから店頭へ
RFID活用に大きな夢
上田 POSが導入され始めてから二十年以上たっているのですが、データを上手に活用している企業と、そうではない企業に分かれているのが現状です。例えば仮説を出して検証するというのも重要な使い方の一つですが、そういうチェーン店がある一方で、いまだに売れ筋、死に筋商品という見方しかしていないところもあります。
これまでは小売業の方からPOSデータを開示することはあまりなかったのですが、メーカーに開示し、お互いに協力して消費者価値を訴求していこうという動きも出ています。経験や勘だけに頼らず、科学的に売り場をつくっていこうという流れの一つです。
石川 専門店でのPOSの大きな役割として、簡単な操作でスピーディーに決済を行うということが挙げられます。決済をできるだけ素早く行えば、それによって生まれた時間をお客さまへの接客に回すことができます。
私どものソリューションの一つである店舗運営パッケージソフト「PC-POS MATE」は、専門店向けに力を入れています。専門店というのは、さまざまな商品をコーディネートしてライフスタイルを提案します。商品知識、専門性を高めて、スタッフのみなさんの力で商品を売るというやり方です。これをいかにサポートするかという視点で、顧客管理などを含めてパッケージ化しています。
ビジュアル化が効果
上田 そうですね。決済は重要なポイントです。例えばコンビニエンスストアのお客さまの不満で多いのがレジで待つ時間なのです。決済はPOSの基本であり、消費者満足に直結しています。この基本がいかにスムーズにできるかは大きな差になります。
またもう一つのPOSの側面としてサービスを提供する側の満足感も重要です。いま特にサービス業は人材募集が難しい状況ですから、お客さまへのサービスのレベルを保つ工夫が求められます。スタッフがだれであれ、一定以上のサービス提供を実現するのは、教育なのか仕組みなのかということになるわけですが、現状ではやはり仕組みにならざるを得ません。お客さま、パート・アルバイトなどのスタッフ、経営側、三者の満足度を上げるのは優れた仕組みなのです。そういう意味でPOSの進化が求められてきました。
POSシステムへの要望はたくさんあり、それに対応するのは大変だと思います。NECソリューションイノベータさんとして、いまどういうところに力を入れていらっしゃるのですか。
石川 「PC-POS MATE」は専門店向けのパッケージですので、売上分析や顧客管理に力を入れていきます。顧客の特性、売り上げの傾向を分析する手法や見せ方を重視しています。例えばデータそのものを、だれにでもわかりやすくビジュアル化することなどを進めています。
上田 いま小売業界ではFSP(Frequent Shoppers Program=ポイントカードなどを発行して固定客の維持・拡大を図るマーケティング手法)による顧客の囲い込みを行う企業が増えてきました。私はよく「お客さまは一様ではないですよ」と言っているのですが、一様でないお客さまに向けたサービスというのは非常に難しいのです。専門店は豊富な商品知識を基に、このお客さまにはA、あのお客さまにはBが売れそうだと分析し、検証することが大事ですし、顧客管理というのは難しいですね。
石川 大企業をベースに考えると、データを分析する担当者がいることを前提にしてもいいですが、中小だとそうはいきませんから、ディスプレーを見て、この色が突出していればこうなのだ、といったビジュアル化が効果を発揮します。パッケージを買ってくださるお客さまは、個別の機能を重視するのではなく店舗運営全般のソリューションを求めていらっしゃるのだと私は理解しています。ここをどう強化するかが差別化につながります。
専門店は、販売スタッフがどう売ったかをデータとしてみることを求められますし、一般小売店だと商品をどうさばくか、粗利をすぐみたいという具合に、決済の方に主眼を置かれます。
顧客カードをRFID化
上田 なるほどベクトルが違うから取るべきデータ、情報が変わってくるのですね。となると単純にパッケージをつくりましたといっても、すぐ活用できるとは限りませんね。
石川 それを補うのがカスタマイズのノウハウなのです。最低限必要な機能を盛り込んだ後に、もっとお客さま毎に使い勝手を良くするためにカスタマイズで対応します。現在、約百社二万セットの納入実績があり、カスタマイズのノウハウもかなり蓄積されています。
上田 POSシステムをネットワークにつなげて、いかにスピード処理するかということも一つのテーマになっています。例えば棚札を電子棚札にして価格の付け替えを一元管理できるようになりました。店舗毎に手動で実施しているとけっこう間違えることもあるのです。また店内テレビカメラを本部で一括管理し、きょうはこういうお客さまが多いから、こういう商品を……といったプロモーションへの活用も面白いですね。
専門店では例えばカスタマー(お客さま向け)ディスプレーを、「以前こういう商品をお買いになっていますから、これをコーディネートすればいかがですか」といった使い方も可能じゃないですか。
石川 店舗でお客さまが商品を選ばれるのは、POSの端末のそばではないので、その距離をどう縮めるかという問題があります。百貨店でPDA(携帯情報端末)を使ったPOSが出てきているのもそれを解決する一つの手段でしょう。POSシステムに携帯性を持たせるにしても胸ポケットに入るぐらいでないと使いづらいと思います。
携帯性という意味でお客さまのカードをRFIDのシステムで読み取り、活用することが考えられます。RFIDを接客支援にも使うわけです。
上田 それは面白いですね。RFIDというと、物流を効率化するための使い方が多いわけですが、せっかくいろいろな情報が貯められるのだから、新しい活用法を考えるべきですよね。
石川 カードにICチップを入れさえすればいいわけですからね。そういうカードをお客さまに提供したいと考えている企業へのソリューションを積み重ねつつ、さまざまな機能を標準化していけたらと考えています。
標準コードなどが課題に
上田 標準化に関しては、流通業界で共通化できるところは共通化していただきたいですね。だれが使ってもわかりやすいものが結局は顧客価値の増大につながるわけですから……。
NECグループではRFIDの実証施設を設置してデモ展示を行っているそうですね。
石川 「NEC RFIDイノベーションセンター」(東京都大田区平和島)は、実環境に近い条件下で検証を行う施設として二〇〇六年十一月にオープンしました。小売業向け活用システム、物流領域向け活用システムのデモを行っています。個別の商品にRFIDタグを付ければ、これまでのように一点一点スキャンする必要はなく、ゲートを通すだけで一括して読み取れますから、大幅な効率化が図れます。
顧客管理や商品情報の提供というのは、RFIDを活用したPOSソリューションの第二ステップと位置づけられます。
上田 商品が店舗に入ってから売られるまでというのは意外とブラックボックスになっています。ここをRFIDを活用して可視化するのは大きな意味があります。小売業ではどんどん人が少なくなっていますから、バックヤードでの作業をできるだけ効率化し、接客サービスを向上することが大切です。バックヤードでの作業もこなしながら少ない人数で店舗を運営するには、RFIDのような技術革新の申し子的なツールがあってこそということになりますね。そういう意味で小売業におけるRFIDの可能性は非常に大きいと思います。メーカー、卸も含めてRFIDを標準化し普及を図るのだという意識が求められます。
石川 確かにある個別の商品が、メーカー、卸、小売りのどこから見ても同じものだということが認識できるコード体系が必要です。マスターをいかに整備するかというのが一番の課題です。ただ効率化という大きなメリットを活かそうと、すでに導入する企業も出てきました。これが呼び水となって普及が進み、標準化もされていくという動きになるのは間違いないと思いますので、私どももRFIDを活用したPOSソリューションをどんどん提供していきたいと考えています。
「PC-POS MATE」
ニーズ、規模に応じてカスタマイズ
専門店など約100社2万セットの実績
店舗運営パッケージソフト「PC-POS MATE」には店舗管理、商品・在庫管理、顧客管理、情報分析など様々な機能がサブパッケージ化されており、ニーズに合わせてピックアップできるためセミオーダー方式でシステム構築が可能。
例えばPOSレジ機能、売上情報管理といったサブパッケージをワンパッケージにした単店舗用の最小構成から、バックヤードであるオフィス、倉庫での顧客管理・在庫管理まで広げた標準構成、本部機能を盛り込んだ多店舗展開ユーザー向けの最大構成まで、規模に応じて自在に構成することができる。また電子マネーへの対応など新たな機能の追加の際にも柔軟なカスタマイズと、短期間で対応する体制を整えている。
RFIDを活用したPOSソリューションの取り組みとして、①商品の入荷検品②POS販売業務への応用③盗難・万引き防止への応用④商品棚卸業務への応用――などがある。入荷検品については、アパレル業を想定すると、入荷した個品全数(サイズ、色、柄などによって異なる商品)の検品作業工数の大幅削減が図れる。POS販売業務の応用では、決済時にRFIDタグの情報を書き換え、万引き防止ゲートとの連携で万引き防止タグ機能をRFIDタグにより包含する。棚卸業務での応用では、定期的に実施する店舗での棚卸作業にRFID対応ハンディー機器を使えば、個品の一括読み取りができるため、これまでのように全商品のバーコードの読み取り確認作業による店舗休業ロスを削減できる。また、今後の取り組みとして顧客管理、商品情報提供への応用を予定している。
「PC-POS MATE」は開発以来十年余りの間に、各種専門店、アパレル、雑貨、レジャー関連企業、高速道路サービスエリア売店、学校、病院など約百社に二万セットを納入、NECグループのノウハウ、システム構築力を活かして実績を伸ばしている。
「NEC RFIDイノベーションセンター」(東京都大田区平和島)は、実環境に近い条件下で検証を行う施設(右下は商品に付けられたRFIDタグ。通常のタグとほとんど変わらない)