人事・総務コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第4回成長戦略を実現する人事とは コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏 掲載日:2018年12月7日
はじめに
欧米企業の優良企業のトップ100社の全ては、タレントマネジメントを導入し、人事の役割を見直し、高い成果を上げている。日本においてもタレントマネジメントは、徐々に普及してきているものの、それでも、欧米のマネジメントと比べてみると大きな違いがあるように思える。個人的な感覚として、15年の差を感じてしまう。これは、人材マネジメントの本質的なマネジメントの差と言ってもいいのかもしれない。

米国タレント開発協会(ATD)などの世界規模の団体は、タレントマネジメントとは何かを定義している。一方、この定義を業務で活かすための製品化が進み、多くのソフトウェア開発企業(ベンダー)が乗り出している。ATDなどが提唱している機能をほぼ製品化しているパッケージもあれば、ごく一部の機能だけのものもある。いずれのパッケージにおいても、それらがタレントマネジメントであると紹介している。そのためか、元々のATDなどの定義が、今では非常に広大化されてしまったと感じる。さらに、日本においては、タレントマネジメントは、人事パッケージの一部だと思っている人も決して少なくない。日本では、タレントマネジメントの導入検討をする際、必ずと言っていいほどパッケージ選定から始まっているのではないだろうか。日本語の書籍も英語と比べてみると圧倒的に少ない。少ないながら日本語の書籍を読んでみても、残念ながらタレントマネジメントの全体のイメージがつかめない。そのためか、導入を検討する際は、各社のパッケージを勉強しながら、機能比較しながら理解を深めているように思える。このやり方は、決して間違いとは言わないが、これだけだと、ベンダーの情報が中心となり、タレントマネジメントの本質を見失って導入する可能性がある。もちろん、理想的には、タレントマネジメントの本質を理解した上で、会社が目指す「ありたい人材マネジメント」を検討し、それが実現できる最も近いパッケージを選定していくのが理想的である。
このコラムでは、まず、タレントマネジメントの本質を理解できるように重要なテーマを3つに絞り、これから導入を検討したい人、すでに進行している人の役に立てばと思いつつ筆を進めてみたい。
1回目:成長戦略を実現する人事とは
2回目:人事に期待される役割とは
3回目:ぶれない人事戦略とは
成長戦略を実現する人事とは
タレントマネジメントの本質は、従業員のそれぞれの強みとなる能力(タレントと言う)を最大限に活かし、それを武器に戦略的に事業の継続と成長に向けて人材マネジメントを行う仕組みである。
戦略に合わせた人事のあり方の重要性とは何か
企業は、その業界や規模、扱う商品やサービス、国に関係なく、共通した重要な責任がある。その一つが、企業を成長・拡大させ、継続させる責任だと思う。そして、これを実現させるためは、明確な目標や戦略が必要となってくるのではないだろうか。
戦略の言葉の定義は省くが、経営戦略の中で一番基本となる戦略が、成長戦略であると言う。企業が成長・拡大してくために、目標を達成するためには、どのような経営資源を使って達成しようとするのか、経営三大資源の「ヒト」、すなわち人材に対する明確な方針と軸が必要となる。
経営において、この「ヒト」の価値や役割は言うまでもなく非常に重要である。ここで考えてみたい。経営戦略を実現・達成できる「ヒト」とはどのような人材なのか。また、どの「ヒト」に任せれば達成できるのか。これらを明確にしておかなければならない。例えば、商品開発が必要であれば、商品開発ができる人を募集し、選定しなければならない。商品内容や開発の難易度、品質レベルなどの要件と予算(人件費)に応じて選定が決まってしまう。人的要件には、技術力、専門知識や資格、開発経験と言った条件を決めておく必要がある。さらに、能力的な要件だけではなく、人物的な要件、例えば、価値観や性格・資質と言った、いわゆる人柄も含めて要件に入れておく必要がある。
人材が社内にいれば人事異動が優先されるかもしれない。社内に人材がいないのであれば、外部からの採用やコンサルタントに依頼することもある。時間が許せば、要件に近い従業員を選定し、教育研修で対応する選択肢もある。いずれの場合でも、必要な人材の要件をなるべく具体的にまとめた資料を用意することは大切となる。欧米企業では、全職務の要件を定義し職務定義書として言語化している。
欧米企業での職務定義書は、日常の定型業務の定義で「仕事基準」である。やるべき仕事が定義してある。単純作業や定型業務には適している。しかし、ハイレベルな企業戦略を実現する、たとえば、新規事業やイノベーション、変革を起こす、新たな市場開拓、シナジーを増大させるM&A、さらには、次期リーダーの育成戦略と言った場合では使いづらい。なすべき仕事(仕事基準)と、どのような人材(人基準)に任せたいのか、2軸の「求める人材像」が必要となる。
経営目標の達成、戦略の実現にはどのような人材が必要なのかを検討しなければならない。この場合、視点は現在ではなく将来にある。そのため、業務内容を定義している職務定義書はない。必要な「求める人材像」を決める必要がある。人材像を明確にさせ、成長戦略に応じて、人材を厳選し、採用し、登用し、配置する人事の仕組みがあって、はじめて戦略的な人事としての価値が生まれてくる。これらの人事が、1つの部門内だけで完結できていれば、大きな問題にはならないが、部門を超える、さらに、国内外の関連企業・グローバル規模となると、人事のレベルも一気にハイレベルになってしまう。
経営の成長戦略を具現化させる人事とは何か
経営の成長戦略を具現化させるためには、求める人材像の「ヒト」の定義とその選定が重要であることは理解して戴けたと思う。条件に合った人材を選定するためには、いかに多くの母数となる人材を検討するかにかかってくる。これまでの伝統的なやり方では、役員や人事の責任者の記憶に頼った人材だけで検討をしてきたのではないだろうか。これでは、いつも同じ人材ばかりになってしまい、広く公平に検討をすることは難しい。今や、日本企業もグローバル企業へと発展をしており、国内の限られた人材に頼った人事では、もはや限界となっている。日本の本社いるものは、経営陣や人事も含めて、海外の関連企業のローカルの従業員を多くは知らない。印象に残っている者しか知らない。しかし、全く会っていない従業員でも優秀な人もいるはずだ。
まず、どのような人材が全社にいるのか。国内だけでなく、海外の連結子会社の人材の実態を把握しておかないと、戦略に合わせた「ヒト」の活用は非常に限定的になってしまう。人材の実態を把握する際、すべての能力や知識・経験をアセスメントすることは得策とは言えない。まず、「求める人材像」で定義した必須の能力に対して、優先的に棚卸しをする必要がある。
著者の経験では、能力を棚卸しし、それを紙資料で管理できるのは、1000人までが限界だった。MS-Excelを利用した場合は、劇的には増えるが、情報管理、情報更新といった運用と、役員などへのタイムリーな情報提供となると限界を感じた。1000人を超えると、経験上ではあるが、専門パッケージの検討は必須と思う。
いずれの場合においても、必要な人材情報の項目を整えておかなければならない。紙ベースであれ、システムであれ、求める人材をそこから検索し、リスト化し、検討資料として作成をすることから始まる。検討資料に対して、さらに現場のマネジメントに対して、情報の正確性や信頼性の確認も必要となる。信頼性を高めた資料を、経営陣に対して提供できること自体も画期的と言える。さらに、候補者リストの個別の特性と能力が、経営が求める人材とマッチする、または、非常に近いのであれば戦略的情報となる。
実際に、人事異動などが必要となれば、人事が現場の管理職に対して十分な説明を行い、説得させ、実現させなければならない。そのためには、人事が普段から現場のマネジメントに対して助言や支援しているまで深く関わっておく必要がある。お願いをするときだけでは、現場は協力してくれない。「大変なのはいつも現場ばかり、本社の者は何の痛みも苦労もしていない」と言われたくないものだ。
さて、経営の成長戦略を具現化させる人事とは、
・全従業員の「求める人材像」に対する正確な棚卸しの情報を入手し、
・企業の成長戦略を実現させるために、全体最適化を視野に入れた戦略的な助言と支援を経営に対してできる人事である。
・また、現場を知らない人事ではなく、最前線で活躍する管理職に対し、普段からの関係を構築し、人事的な問題解決で支援し、機動的に動くことができる人事を意味する。