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使えるWMSとは
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目次
慢性的な人手不足を抱える物流業界で、業務の要ともなる倉庫管理の効率化は、生産性の向上や課題解決にも重要です。倉庫現場に視点をおき、どのような業務があり、どのような課題を抱えているのかを確認しながら、倉庫管理システムの導入について考えてみましょう。
倉庫現場の課題から考える、使えるWMSとは

ニューノーマルな時代において、顧客の消費行動が変化し、増加傾向にあったECの利用数はさらに拡大しています。それに伴い、物流業界では以前から抱えていた人手不足や属人化といった課題が深刻化しています。倉庫現場においてもこの課題解決は重要であり、解決に向けた取り組みを推し進めなければ、倉庫業務が煩雑になり誤配送や配送遅延といった問題を引き起こす原因になりかねません。
本稿では、このような倉庫現場の課題解決に有効な倉庫管理システムについて考えていきます。
物流業界の現状と抱える課題

新型コロナウイルス感染症の流行前は、物量は緩やかではあるものの継続的に増加傾向にありました。2019年10月に公表された国土交通省の「平成30年度 宅配便取扱実績について」によると、2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個で前年度比の約1.3%増加。そのうち、トラック運送は42億6,061万個でした。
しかし、2020年に入り新型コロナウイルス感染症が全世界に拡大したことで、いくつかの国ではロックダウン対策が、また日本国内でも外出自粛が呼びかけられ、テレワークによる就労が推奨されています。
こうしたニューノーマルと呼ばれる時代への移行とともに生活様式やビジネスの在り方、働き方が変化していくなか、人との接触を回避するために消費者の多くはECサイトを活用した購買方法を選択するようになりました。この消費者行動の変化は、企業のマーケティング戦略にも影響を与えています。企業では実店舗をはじめ、ECサイトやSNSなどさまざまなチャネルを連携させて消費者と接点を持ち、最適な方法で取引を行うようになりました。この動きはBtoCビジネス、BtoBビジネスにおいても同様です。
こういったビジネス形態の加速度的な変化により物の流れが変わったことで、物流業界に大きな打撃を与えています。
慢性的な人手不足
厚生労働省が発表している「一般職業紹介状況(令和2年12月分及び令和2年分)について」で示されている12月の「職業別一般職業紹介状況(実数)(常用(含パート)」によると、「輸送・機械運転の職業」の有効求人倍率は1.88倍、「自動車運転の職業」では2.19倍となっています。職業全体の平均有効求人倍率が1.03倍であることから、それら2つの有効求人倍率が高いことが確認できます。同じ調査結果を2カ月前の令和2年10月分で見ると、「輸送・機械運転の職業」の有効求人倍率は1.78倍、「自動車運転の職業」では2.05倍でした。
倉庫現場においても慢性的な人手不足が深刻化しています。特に従業員の高齢化が進んでおり、国土交通省が発表している「物流施設における労働力調査(平成21年3月)」では、2001年時点で20代以下の若者層の従業員割合は28%で、2030年までに15%まで減少すると見込まれています。また、50代以上では、25%程度だったものが2030年までには35%まで上昇すると予想しています。EC需要の拡大により、倉庫現場もトラックに荷物を積み込む回数が増加していることから、24時間体制で倉庫業務を行うことも少なくありません。しかし、夜勤手当の支給を前提に求人募集を行っても、日中の勤務と比べて体への負担が大きいため、短期間で退職してしまうケースが多いのが現状です。また、物流施設がアクセスしづらい立地にある場合、テレワークが推奨されるなかではさらに人材を確保するのが難しい状況と考えられます。
倉庫管理の概要と課題
市場の変化に大きな影響を受けている物流業界において、倉庫現場で起きている課題の重さについては、上記でも触れました。では、その倉庫現場を管理する「倉庫管理」について、内容と課題を確認しておきましょう。
倉庫管理とは
一般に倉庫管理というと、倉庫内すべての作業の管理をすることを指します。つまり「入荷管理」「出荷管理」「在庫管理」を行うことです。それぞれの具体的な内容については、以下「物流を支える倉庫管理とは」の記事をご参照ください。
倉庫管理の課題
倉庫管理を行う現場はどのような課題を抱えているのでしょうか。代表的なものを確認しておきましょう。
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取り扱い品目の増加によるExcel管理の限界
倉庫管理のなかでも在庫管理は、取り扱う商品が多ければ多いほど重要になりますが、Excelを使用して管理をしている倉庫現場は少なくありません。基本的にExcelは表計算を行うために開発されたソフトであり、数値データをもとに計算することや表の作成、あるいは数値の変化をグラフ化するなどのために使用するものですので、数値データをもとにするというこの特徴を活用して、在庫管理に使われることが多いと考えられます。
しかし、大量で複雑なデータを管理するには不向きです。例えば、商品のロット情報や賞味期限といった在庫属性情報も管理するとなると難しいでしょう。
また、リアルタイムな情報が自動で入力されないので、担当者がExcelの所定の項目に都度入力しなければならず、入力の手間や入力漏れが起きやすい状況と言えます。 -
ヒューマンエラーによる出荷ミス
ピッキング作業の際、所定の場所に商品を取りに行っても該当の商品が見当たらない、同じ場所に複数の商品が置いてあるために間違って取ってしまう、数量間違いのピッキングをしてしまう、そもそも在庫数が足りないといった事象が発生することがあります。この原因は、商品ごとのロケーション管理や在庫数に対する入出荷の履歴管理が徹底できていないことが考えられます。倉庫現場は人的作業に頼る部分が多いため、改善に向けたルール化・管理を実践するのが難しく、結果、出荷ミスにつながりやすい環境と言えます。 -
倉庫業務の属人化
倉庫業務は、商品特性や荷姿、保管ロケーションの場所やその在庫状況、また取引先ごとの指定作業や作業タイミングなど、さまざまな要素を総合的に把握しておかないと業務の遂行が困難です。よって、ベテラン従業員をはじめとした特定のスキル・知識をもつ人材がその管理・作業を担うことが多くなります。そのため、特定の人材への都度確認が頻発することで業務が滞るだけでなく、特定の人材が不在の場合や異動を伴った場合に業務がストップしてしまうことも少なくありません。
このような課題を解決するひとつの手段として、倉庫管理システム=WMSの導入があります。WMSとはどのようなものかを見ていきましょう。
WMSとは
物流センターや倉庫現場では、商品が入荷されてから出荷されるまでにさまざまな業務があります。また、効率的な配車/配送を計画することや、配送の進捗状況を把握することも必要です。こうしたすべての業務プロセスや進捗状況を管理することは、物流品質を維持・向上させるためにも欠かせません。
WMSはWarehouse Management Systemの頭文字を取った略称で、倉庫管理システムのことを指します。主に倉庫現場において、商品の入出荷管理や在庫管理を一元的にマネジメントし業務効率化や精度向上を目的としたシステムです。
WMSと似たシステムとして、ERPやWCSというものがあります。それぞれの違いについては、以下「WMSの機能と重要性を考える」の記事をご参照ください。
課題解決につながるWMSの特長
WMSを活用することで、業務効率の向上、作業平準化の実現、物流品質の向上が期待でき、課題解決につなげることが可能になります。WMSにはどのような機能があるのかを見てみましょう。
リアルタイムな情報共有により、スピーディーな状況判断を実現
Excel管理では、作業結果や在庫情報をリアルタイムで共有することは難しいでしょう。一方、WMSを利用することで、入出荷の実績情報や在庫情報を即時に反映でき、最新の状況を把握することが可能です。在庫については、どこに何が格納されていて、それはいつから保管しているのか、また出荷許容期限はいつまでかといった状況が確認できるようになります。また、入出荷作業についても、どの商品をいつ・誰が・どこまで作業したかといった進捗状況の可視化が可能です。その結果、やるべき作業が明確になり、現場管理者も従業員に的確な指示依頼が出せることで、ピッキング作業の効率化といった庫内物流の生産性向上を実現することができます。ピッキング作業の効率化ポイントについては、以下「ピッキング作業を効率的に、ミスなく行うには」の記事をご参照ください。
ヒューマンエラー防止を実現
Excelでの在庫管理の場合、特に入力漏れといったヒューマンエラーはどうしてもゼロにしきれません。しかし、WMSを利用することで、単純な入力漏れやそれによる出荷ミスを低減することが可能です。特にHT(ハンディターミナル)対応であれば、各作業の実績をリアルタイムで更新できるため、正確な在庫情報のもと業務効率改善を図ることができます。
また、特にOCR機能が搭載されているHTであれば、バーコードのない商品やバーコード化されにくい賞味期限・ロット№といった文字を読み取れます。これにより、目視チェックや手入力が不要になり、正確かつ効率的な運用が実現できます。
属人化された作業の平準化を実現
ベテラン従業員をはじめとした特定のスキル・知識をもつ人材への依存から脱却しない限り、作業の属人化は解消されません。しかし、WMSを利用することで、倉庫業務を行う上で習得しておかなければならない業務スキルや商品知識を補完することができます。WMSは誰でも同じレベルで作業ができるよう標準化されたシステムとなっているため、WMSをベースにした運用ルールを定義することができるでしょう。また、例えばHTを用いた業務により一定レベル以上の作業精度や業務効率化が図れます。これにより、これまで特定の従業員に依存せざるを得なかった作業を平準化することができます。
導入事例
WMS導入事例から導入の効果と課題解決のヒントを見てみましょう。
事例1:倉庫事業の早期立ち上げと作業平準化を実現
導入企業:日用品を取り扱う運輸業
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導入前の課題・目標
従来の運輸業に加え、新たに倉庫業務事業の開始を計画。
WMSの調達が急務であり、特に荷主ごとの入出荷・在庫管理が行えるシステムが必要でした。 -
導入後の効果
クラウド環境を使った短期間でのサービスインにより、倉庫事業のスムーズな立ち上げを実現しました。また、複数拠点・複数荷主の在庫管理ができる環境を構築し、今後、お客様管理部門で新規荷主や拠点が追加できるようにしました。さらに、拠点・荷主ごとにフリーロケーション管理やロット期限別在庫管理といったきめ細かな管理が可能になったことで、新規荷主の獲得につながっています。
事例2:年間200時間の作業時間削減と取引先へのサービス品質向上を実現
導入企業:食品を扱う運輸・倉庫業
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導入前の課題・目標
Excelでの管理に限界を感じ、精度の高い在庫管理を検討。取引先ごとに残賞味期限を考慮した出荷作業を属人的に行っていたため、作業の平準化を図ることも改善目標でした。 -
導入後の効果
ロットや期限管理の実現に加え、取引先ごとに残賞味期限を考慮した引当制御を組み込んだことで、作業平準化と在庫精度向上を実現しました。これにより、年間200時間程度の作業時間削減にも成功し、出荷品質の向上にもつながりました。
また、賞味期限に特に厳しい取引先へのサービス品質の向上も図れました。
まとめ:WMS導入は、全体最適を重視して進める
倉庫現場が直面している課題のほとんどは、原因がひとつではなく、複合的に重なりあうことで起きています。そのため、WMSといった新しいシステムを導入する際に、機能を豊富に揃えたシステムだとしても、現場の作業者や管理者にとって使いやすさや効率化につながるとは限りません。
まずは、物流現場の課題だけでなく経営面から見た課題も洗い出すことが重要です。現場の声を聞くことも重要ですが、作業者それぞれの優先順位が異なることや部分最適に陥ることになりかねません。キャッシュフローの観点で適正在庫を考えることが企業経営にとって重要であるため、そのうえで倉庫の在庫管理や運用にどういった課題があるかを洗い出し、何を優先的に解決すべきかを整理することから始めてください。
次に、現状の倉庫業務の見直しです。現状の業務が必ずしも正解とは限りません。現場運用にとらわれず、総合的に見直す視点を持つことも必要です。例えば、取引先からの依頼で当たり前のように対応していた作業プロセスが、実は今となっては不要だったということをよく聞きます。WMSは誰でも同じレベルで作業ができるよう標準化されたシステムとなっています。WMSを通じて現状の業務を改めて見直すことで、ムダを排除した作業プロセスが定義できるでしょう。また、倉庫内の保管エリアや作業エリアといったレイアウトの見直しなど、さまざまなポイントで新たな気付きを得ることにもなります。
WMSを導入する際には、自社においてどういった特長や機能をもったWMSが効果的か、その際に現状の業務をどのように見直すとより効果が増すかを見極めることが何よりも大切であることを意識しておきましょう。
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