デジタル会員証とは
まず、デジタル会員証の概要について解説します。
デジタル会員証の概要
デジタル会員証とは、これまで紙やカードなどで管理していたポイントや来店履歴などを、スマートフォンアプリでデジタル化したものです。従来の会員証と異なり、システム上での来店履歴・購入履歴の管理や、キャンペーンによるポイント付与、クーポンの配信、プッシュ型の通知など幅広い機能を持つことが特徴です。近年では、スマートフォンを使ったキャッシュレス決済が普及し、財布を持たずに買い物に行く消費者も増えています。スマートフォンに入れられるデジタル会員証であれば、このような消費者にも会員証を持ち歩いてもらうことができます。
会員証の現状と課題
「日本人はポイント好き」とよくいわれますが、各社がポイントのつく会員カードを多数発行したことにより、消費者の財布の中はカードであふれることとなりました。その結果、「これ以上財布にカードを入れたくない」と感じる人が増え、レジで新規に会員カードの発行を促しても断られるケースが増えています。
また、会員カードをすでに持っている顧客であったとしても、レジでカードを財布から探して出すことに煩わしさを感じる人が増えたり、あまり訪問しない店であれば、自宅にカードを置いたまま忘れられてしまったりする例も増えました。
一方で、スマートフォンの利用に費やす可処分時間は増えており、多くの人がスマートフォンを日常的に持ち歩いています。このような背景から、スマートフォンの中に電子的にカードを保有でき、かさばらないメリットのあるデジタル会員証が登場しました。
デジタル会員証のメリット
デジタル会員証のメリットについて、顧客側・事業者側双方の視点から解説します。
顧客側の視点
まず、顧客側の視点ではどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
利便性向上
上述の通り、紙・カードの会員証はかさばり、レジで探して取り出すのも面倒になりがちです。また頻繁に利用しないカードは家に置いたままになり、忘れてしまいます。デジタル会員証であれば、スマートフォンさえ持ち歩いていればよいため、利便性や携帯性に優れるのがメリットです。いくら会員証の枚数を増やしてもかさばらないため、新たなカード発行も比較的気軽に行えるでしょう。
事業者からの情報の受信
従来の会員カードは、自身が会員であることを証明したり、ポイントを獲得したりするのに用いられます。デジタル会員証であれば、それに加えて店舗からの情報も受信できます。例えば、デジタル会員証を通してセール情報や新商品の入荷情報などを受け取れます。その際、よく行く近隣の店舗を指定して、情報を取捨選択することも可能です。
ただし、過剰な情報提供は顧客にとっては煩わしいものとなります。顧客が必要としていない情報が大量に送られたり、受け取る情報が設定できなかったりすると、アプリの削除や通知のオフ設定につながってしまうリスクもあるでしょう。
事業者側の視点
デジタル会員証の導入は、事業者側にもメリットがあります。
タッチポイントの獲得と活用
デジタル会員証の大きなメリットとして、スマートフォンを通して新たな顧客とのタッチポイントを獲得できる点が挙げられます。顧客側のメリットでも記載しましたが、デジタル会員証アプリを通して、キャンペーン情報を配信することも可能です。また、期間限定ポイントを配布して来店を促すといった施策も実現できます。
オンラインとオフラインのデータ統合
通常、紙・カードの会員証はあくまで店舗での購入に対して利用されるものであり、それ単体でECサイトのオンラインと統合させることは難しいです。一方デジタル会員証であれば、たとえ店舗での入会であっても、オンライン画面上でIDを発行するフローとなるため、必ずオンライン上に会員データが登録されます。これにより、顧客は後日同一のIDをECサイトで利用できます。ECサイトの利用実績も、同一のIDに紐づき、購買データとして収集が可能です。
オンライン・オフラインのデータ統合が実現しやすいことも、デジタル会員証のメリットといえるでしょう。
デジタル会員証の導入パターン
通常、デジタル会員証はスマートフォンアプリで提供します。よって、デジタル会員証を提供するためには、システム面での準備が必要です。以下では、デジタル会員証の主な導入手法について解説します。
スクラッチ開発
スクラッチ開発とは、1からシステムを作り上げる開発手法のことです。スクラッチ開発では、自社専用のデジタル会員証アプリを開発できます。よって、自社の要件通りに開発を行うことができるメリットがあります。
一方で、すべての機能を新たに作る必要があるため、開発期間やコストは他の方法よりもかかる傾向があります。また、自社で継続的な保守・運用も実施していかなければなりません。
アプリ開発サービス
スマートフォンアプリの開発を簡略化するために、プラットフォームサービスとしてアプリ開発サービスが提供されています。デジタル会員証の提供のために、このようなサービスの利用を検討するのもよいでしょう。アプリ開発サービスには、標準的な機能がモジュールとしてあらかじめ用意されているため、スピーディかつ低コストでの開発が可能となります。また、プラットフォーム側でセキュリティパッチ対応などの運用保守を実施してくれるというメリットもあります。
一方で、アプリ開発サービス上での開発は、スクラッチ開発と比較して柔軟性に欠けるため、自社の要件がすべて反映できないケースもあります。
プラットフォーム内での発行
LINEに代表されるプラットフォーム内でデジタル会員証を発行する方法もあります。スマートフォンアプリはダウンロードされにくく、定着化もしにくいことがデメリットですが、LINEなどの多くのユーザーが日常的に利用しているプラットフォーム内であれば、ダウンロードや定着化への障壁が低くなります。
ただし、プラットフォーマーのサービス内での提供となるため、カスタマイズ性が低くなることや、デジタル会員証を通して取得できる情報に制限があることに留意してください。
LINEのデジタル会員証サービスについて
以下では、手軽にデジタル会員証を発行できる仕組みとして、LINEのデジタル会員証サービスを例に取り上げます。
LINEのデジタル会員証サービスの概要
LINEは会員数約8,900万人(2021年9月時点)※を誇るコミュニケーションツールです。近年ではLINE Payをはじめとした決済分野や、音楽・漫画のコンテンツサービスなど、多角的にサービス展開を実施しています。LINEの提供するデジタル会員証サービスを利用することで、容易に自店舗の会員証を発行でき、ポイントカード機能や電子レシートの発行、販売促進のためのプッシュ通知などの実施も可能です。
※参考:LINE Business Guide(2022年1~6月期版)より
LINEでのデジタル会員証の実装方法
ショップカード機能の利用
ショップカード機能は従来のポイントカードの代替として利用できるもので、ポイントの付与と利用のみのシンプルな機能を提供しています。自店舗のショップカードを作成するためにシステム開発は必要なく、管理画面から項目を設定するだけのため、システムの知見がない方でも容易に発行することが可能です。
FIFEアプリ/LINEミニアプリの利用
FIFEアプリおよびLINEミニアプリを利用する方法です。これらはLINEアプリの内部に自社のサービスを開設できるサービスであり、その一機能として、デジタル会員証を発行する機能が用意されています。
FIFEアプリおよびLINEミニアプリには、自店舗の商品メニューの表示機能や予約フォームの設置機能、クーポンの発行機能など、販売促進に利用できる機能も多数用意されており、デジタル会員証の開発に活用できます。
LINEログインの利用
LINEログインを利用する方法もあります。LINEログインとは、LINE IDをユーザー登録やログインの際に共通IDとして利用できるものです。LINEログインを利用すると、顧客がデジタル会員証の利用登録を行う際に、氏名や電話番号などの必要な情報をLINEから取得できるため、登録作業が簡素化できます。会員登録時の入力作業は負荷が高いため、顧客離れの防止につながるでしょう。自社でデジタル会員証アプリを開発し、多くのユーザーが会員登録を行っているLINEの顧客情報を活用することで、スムーズな会員登録作業を実現し、顧客体験を向上させることができます。
メリット
LINEのデジタル会員証サービスの活用には、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下で主なものを解説します。
アプリのインストールが不要となる
LINEはすでに多くのユーザーがいるため、ほとんどの顧客が新たにアプリをインストールせずにデジタル会員証を利用できます。一般的にスマートフォンアプリのインスト―ルはユーザーにとって負担となることが知られており、新規にアプリをダウンロードしてもらうには一定の障壁が存在します。よって、LINEをプラットフォームとしてデジタル会員証を提供することで、よりユーザーに届きやすくなるというメリットがあります。
会員登録作業をスキップできる
LINEのデジタル会員証であればLINEの会員情報を利用できるため、顧客は会員登録時に氏名や生年月日などの個人情報を入力する必要がありません。特にモバイルにおいてキーボード入力作業は手間となるため、ユーザーの負荷を軽減できる点がメリットです。また、会員情報登録の手間が無いため、店舗やレジ前でも気軽に利用登録できます。会員登録の際に入力項目が多すぎると、離脱率は高まる傾向があります。会員登録のUIはできるだけ簡素化することがポイントです。
プッシュ通知の受信率が高い
メッセージツールであるLINEのプッシュ通知はオンにしているユーザーが多く、プッシュ通知が届きやすい点もメリットです。プッシュ通知は開封率が高く、効果的な情報配信方法として知られています。一方で、過剰なプッシュ通知は顧客から敬遠される原因となります。デジタル会員証アプリの通知をオフにされる、最悪の場合はアプリのアンインストールにもつながります。LINE上でデジタル会員証を提供することで、これらのリスクを軽減できるでしょう。
デジタル会員証とPOSの連動
デジタル会員証を最大限に活用していくためには、POSシステムとの連動が重要となります。以下では、デジタル会員証の活用に必要なPOSシステムについて解説します。
POSシステムの重要性
デジタル会員証を店舗に導入する際には、デジタル会員証を読み取るためのPOSシステムが必要です。
また、デジタル会員証に紐づけて顧客の購買データを取得し、バックエンドシステムへ連携・データベースへ蓄積していくためにも、POS側の対応が必要となります。POS単体としてデジタル会員証に対応していることに加え、バックエンドの販売管理システムや情報系システムとの連携性もポイントです。
それでは、POSにはどのような機能が求められるのでしょうか。ここでは大きく3つの機能を取り上げます。
POSに求められる機能①:デジタル会員証の読み取り
デジタル会員証を読み取った際に、POS端末にて残りポイント数の表示やポイントの充当を実施できる機能が必要です。
また、POSからバックエンドシステムへの連携タイミングにより、ポイントを獲得したのちすぐに利用できるか、一定の時間が必要かどうかも考慮ポイントとなります。当然ながら、POSのハードウェアもバーコードやQRコードなどを読み取れるものを選択する必要があります。
※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
POSに求められる機能②:ポイントの柔軟な付与設定
商品ごとに付与するポイントの率を変えたり、誕生月はポイントを倍にしたりといった施策を実施するためには、POS側でポイント付与条件を柔軟に設定する必要があります。どのような条件でポイント付与率を設定できるかは、キャンペーンなどを実施する上で重要な観点となります。
POSに求められる機能③:オンラインとの連携
POS単体の機能ではありませんが、バックエンドシステム側でECサイトなどのオンラインの購買情報も含めて一元管理できると、データ活用の幅を広げることができます。OMO(Online Merges with Offline)の観点からも、データの統合は有効です。例えばオンラインで購入した商品の修理やサポートを店頭で実施したい場合なども、データが一元化されていれば、POS端末からオンラインでの購入履歴を確認できます。
まとめ
この記事では、デジタル会員証のメリットや導入方法、POSとの連携などについて解説を行いました。決済のデジタル化が進む中で、会員証についてもデジタル化の波が訪れています。デジタル会員証には、顧客の利便性向上と店舗側の販促への活用・データ収集という双方にメリットがあるため、積極的に導入を検討してみてはいかがでしょうか。