OMO戦略とは?ポイントや顧客体験の設計方法、施策例も解説

小売業向けPOSシステム・トピックスOMO戦略とは?
ポイントや顧客体験の設計方法、施策例も解説

近年、ECの売上高が上昇傾向にある中で、オンラインとオフラインの最適化が販売戦略の重要ポイントとなりつつあります。この「オンラインとオフラインの最適化」はいわゆるOMOと呼ばれるものですが、どのような戦略であり、どう取り組んでいけばよいのでしょうか。この記事では、OMOの概要やオムニチャネル・O2Oとの違い、またOMO戦略の検討ポイントや顧客体験の設計方法、具体的な施策例について解説します。

OMOの概要

まず初めに、OMOの概要について解説します。

OMO・OMO戦略とは何か

OMOは「Online Merges with Offline」の略称で、オンラインとオフラインを融合することを意味しています。
では、「オンラインとオフラインを融合する」とは、具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。例えば、スマートフォンからオンラインストアで購入しようとした商品が在庫切れだった場合、通常であればそこで顧客の購買行動は途切れてしまうでしょう。しかしながら、オンラインとオフラインの融合が実現できれば、その後たまたま実店舗の近くを通りかかった顧客に商品の入荷情報をプッシュ通知するといったサービスを提供できます。このように、オンラインとオフラインの良いところをうまく活用し相互補完することで、顧客体験の向上を図るマーケティング手法がOMO戦略です。

なぜOMOが注目されているのか

OMOの概要

もともとOMOは、中国のベンチャーキャピタルであるシノベーションベンチャーズの創業者・李開復(り・かいふく/カイフ・リー)が提唱した言葉です。中国では日常的にスマホ決済が利用されており、店舗での購買行動データがID紐づけで収集できるようになっています。この情報を元に、様々な分析・サービス提供が実現しており、各国から先行事例として注目されています。さらに、近年では顧客の購買行動に変化が起き、オンラインへの移行が進んでいるという観点も重要です。

例えば、商品を購入する際には、SNS上で口コミなどの情報を参照して購買の意思決定をすることが一般的になりました。また物流網の発達により、注文した商品がすぐに家に届くようになり、オンラインでの商品購入のハードルは下がってきています。
このような状況の中では、実店舗(オフライン)に限定したマーケティングでは成果につながりにくいのが事実です。特に小売業においては、オンライン化を積極的に導入していく必要があります。この観点からも、OMOの重要性が増しているといえるでしょう。
なお、経済産業省が実施した「電子商取引に関する市場調査(2020年度)」によると、国内における購買全体のうちどの程度がECに移行しているかを示す「EC化率」は物販系分野で8.08%となっています。2013年度の3.9%と比べると、8年で約2倍に増えています。このことからも、顧客の購買行動のオンライン化が急速に進んでいることは明らかです。
※参考:経済産業省 令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)

OMOとオムニチャネル・O2Oとの違い

OMOに関連する用語として、オムニチャネル・O2Oが挙げられますが、これらはどのように異なるのでしょうか。以下で解説を行います。

OMOとオムニチャネルとの違い

オムニチャネルとは、多様な販売チャネルを統合的に顧客へ提供する販売戦略のことです。ある商品・サービスを販売するにあたり、実店舗だけではなくECサイトなどのオンラインでも在庫情報などを共有することで、同じように購入・利用を可能にします。オムニチャネルはあくまでチャネルの多様化を意味するものであり、オンラインとオフラインを融合することで新たな顧客体験を生み出すOMOとは少し視点が異なるといえるでしょう。

OMOとO2Oとの違い

O2O(Online to Offline)は、WebサイトやSNSなどのオンラインから実店舗へ顧客を誘導するマーケティング手法のことです。例えば、SNS上でクーポン配布などのキャンペーンを実施するような取り組みが挙げられます。O2Oは基本的に、オンラインでのプロモーション施策という意味合いが強く、オムニチャネルと同様にOMOとは少し視点が異なる考え方です。

OMO戦略のポイント

OMO戦略を検討する上では、以下のポイントに留意することが重要です。

顧客中心の体験デザイン

OMOの最大のポイントは、オンラインとオフラインの融合による新たな顧客体験のデザインにあります。顧客側の視点に立って、どのような体験を提供すれば顧客の満足度が向上するかを検討することが大切です。とはいえ、実際には新しい顧客体験のアイディアはなかなか生まれにくいものです。そこで有効なのがデータを活用する方法です。

顧客中心の体験デザイン

例えば、オンラインとオフライン、双方のデータから顧客の年齢・性別・家族構成・過去の購入履歴・購買チャネル・購買日時などの属性を詳細に把握できれば、自社の商品を購入した顧客像を深く理解したうえで、戦略を検討できます。さらに、一度購入を検討したものの途中で取りやめた顧客が明らかとなれば、なぜ顧客が商品購入をやめたのかを分析し、その原因を解決する施策を打つこともできるでしょう。

新たな顧客体験を生み出していくためには、自社で提供している商品・サービスの特性を考慮しつつ、現状で何が不足しているのか、どのデータを活用することでどのような価値を追加できるのかを検討することが重要です。

タッチポイントの最適化

顧客のデータを収集するには、実店舗・スマートフォンアプリ・ECサイト・SNSなど顧客とのタッチポイントを生み出す必要があります。

タッチポイントの最適化

その場で接客や質問対応などを実施できる実店舗のタッチポイントは具体的なデータ収集に効果的ですが、母数は限定されます。また、オフラインで収集したデータはシステムに入力しないとデータとして記録・活用できないという面もあります。一方で、アプリやSNSなどでは、実店舗ほどの詳細なデータ取得は難しいですが、幅広い対象にリーチできる可能性があります。そのため、データ収集の際には、各タッチポイントの特徴に合わせた対応が欠かせません。

各タッチポイントでは、顧客が「訪問」したくなるようなサービスの提供が重要です。実店舗であれば足を運びたくなるような、ブランドサイトではアクセスしたくなるような、アプリであればインストール・起動したくなるような取り組みが必要となります。スマートフォンアプリにおける具体的な取組み例では、ログインに対する報酬(いわゆるログインボーナス)を提供しているケースが多いですが、これは面倒になりがちなアプリへのログインを促す施策の一つです。

顧客データ蓄積

顧客データ蓄積

各タッチポイントで収集したデータは、分析しやすいようにクレンジング処理などを実施した上で、データベースに収集します。データ量は膨大となるため、保管のためには安価なクラウドストレージなどの採用も有効です。また、自社システムに既存データが点在している場合、データを統合することも重要です。必要に応じてETLツールなどのデータ連携ツールを活用し、一元的なデータベースにデータを集約・統合して分析を行うとよいでしょう。

顧客体験設計の進め方

次に、OMO戦略策定のために必要となる顧客体験の設計方法について、既存商品・サービスに対する取り組みを例に解説します。

現状の顧客体験の整理

まず、現状の顧客体験を把握することからスタートします。具体的には、顧客とのタッチポイントを時系列で整理するとよいでしょう。購買意思決定プロセスとして知られている通り、顧客は商品・サービスの購入に至るまでに、大まかに認知・関心、情報収集・比較検討、購入・利用、共有といったステップを踏むことになります。それぞれのステップにおいて現状でどのようなタッチポイントが存在するか、またどのような取り組みを行っているかを確認します。

課題の洗い出し

現状の顧客体験を整理したら、各ステップにおける課題を洗い出します。課題の洗い出し方法は様々ですが、例えば解約・キャンセルを行ったユーザーであれば、アンケート調査の実施などが有効です。また、同業他社が提供しているサービスと比較し、自社が劣っている部分を検討する方法もあります。さらに、上述した通り、データ分析により課題を明らかにすることも重要です。デザイン思考の考え方も課題の洗い出しには効果的です。ペルソナを設定した上でカスタマージャーニーを作成し、顧客がどのようなポイントで躓きやすいか(ペインポイント)を想定した取り組みを実施していきましょう。

新たな顧客体験のフロー検討

続いて、デジタル技術の活用や、オンラインとオフラインの連動性も考慮しつつ、課題を解決して顧客体験を高めるためにはどのようなフローを用意すればよいかを検討します。ここで気を付けなければならないのは、課題の解決は必ずしも顧客の体験価値向上につながらないことです。有名な話に、人はドリルが欲しいのではなく、穴をあけるためにドリルを買うのであるという「レビットのドリル理論」がありますが、このようにユーザーのニーズを一つ深堀りすることで、その解決策も変わってきます。よって、課題の解決策を考える際には、それが本質をとらえているかどうかを深く検討しなければなりません。また、顧客体験をデザインする上では、新たなタッチポイントの創出やデータの活用が必要になるケースもあります。その場合は、上述した通りスマートフォンアプリの提供や、顧客データを蓄積するストレージの用意なども検討しましょう。

具体的に提供する顧客体験の詳細化

ストレスがない顧客体験を実現するためには、細部にわたり良いデザインを提供する必要があります。例えば、Web上での会員登録画面において入力項目が多いだけで、ユーザーの離脱率はすぐに上昇してしまいます。顧客体験をシステムで提供する場合は、モックアップやプロトタイプを作成するなどして、具体的なイメージを作りながら詳細化を進めていくとよいでしょう。その際には、チームメンバーなど内部での検討やレビューにとどまらず、メンバー外や可能であれば一般消費者にも施策内容をレビューしてもらうことで、より客観的な評価を得られます。また、実店舗などオフライン上での取り組みにおいても、同様にシミュレーションを行うことが有効です。例えば、会議室に仮想店舗を設置し、状況を知らない社員に顧客役をやってもらい体験への感想をヒアリングするといった取り組みが挙げられます。

必要なIT投資の検討

設計した顧客体験を実現するためには、IT投資が必要となるケースが多いです。例えば、スマホアプリはタッチポイントの創出のために欠かせない手段となります。また、ECサイトの高機能化もストレスフリーな顧客体験の提供に有効です。その他、CDPのように顧客情報データベースを構築することも検討できるでしょう。
IT投資を実施する際には、上記で検討した顧客体験を確実に実現できるように進めなければいけません。ベンダに開発を丸投げしてしまうと、どうしても細部への作りこみが甘くなりがちです。ユーザーレビューの期間を長く設けたり、実際に構築したシステムを評価したうえで、改善を行えるように開発ステップを分けたりして、顧客体験を高めるシステムづくりを目指してください。

OMOの施策例

以下では、先進的なOMOの施策例について解説します。

Alibaba:フーマーフレッシュ

中国のAlibaba社は、OMOの考え方を組み込んだスーパーマーケット「フーマーフレッシュ」を運営しています。フーマーフレッシュでは、店内の商品に設置されたQRコードを読み取ることで、オンライン上での商品レビューやレシピ情報を確認できます。また、決済もアプリで完結し、欲しい商品はアプリ上でカートに入れてキャッシュレス購入が可能です。これにより、煩わしいレジでの待ち時間をスキップすることができます。さらに、店舗の近隣であれば30分以内で無料配送してくれるサービスも提供しています。食品の持ち帰りの手間がなくなるほか、自宅にいながら不足している食材をすぐに調達できるのがメリットです。企業にとっては、これらの取り組みを通して顧客の購買情報をデータとして蓄積できる効果があります。大量の購買データがそろうことで、季節・天候・気温・イベントなどの各種条件に基づいて高い精度で仕入れ量の調整を可能にしています。

平安保険:グッドドクター

中国の保険会社である平安保険(PING AN)では、約2億人のユーザーを誇る医療アプリ「平安好医生(Ping An Good Doctor:グッドドクター)」を提供しています。このアプリでは、顧客がチャットでいつでもドクターに無料相談でき、診察が必要である場合は病院への予約も可能です。企業側は、アプリから収集されるデータを元に顧客のニーズを割り出し、顧客に合った保険の提供に役立てています。便利なアプリを提供することで顧客とのタッチポイントを確保し、そこから吸い上げたデータを元に商品の提案力を高めていくという、OMOのお手本のような取り組みといえるでしょう。

Shopkick:買い物アプリ

Shopkickはアメリカで人気の位置情報利用型の買い物アプリです。オンラインと実店舗で共通のポイントが獲得できるのが特徴で、実店舗で購入した商品のレシートをカメラでスキャンすることで、ポイントがたまります。単純なポイントアプリはあまたあるものの、本アプリはオンラインとオフラインどちらでも共通のポイントを貯められる仕組みを提供することで、ユーザーの利便性を高め、利用率向上につなげています。

まとめ

まとめ

この記事では、OMO戦略をテーマとして、OMOの概要やオムニチャネル・O2Oとの違い、またOMO戦略の検討ポイントや顧客体験の設計方法、具体的な施策例について解説しました。日本企業のOMOの取り組みは少しずつ進んでいる状況にあります。OMOで自社の課題を解決することができないか、一度検討してみてはいかがでしょうか。

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