INTERVIEW
顔認証とデジタルサイネージで、
地域に安心と活性化を。
次世代マンションプラットフォーム開発
SUMMARY
2社が共創するプロジェクトが始動。社内の知識だけでは限界があるため、オープンイノベーションの手法を採用し、社会課題に取り組んでいる。あなぶきハウジングサービスとの共創プロジェクトでは、2社のメンバーが交流を深め、150案以上のアイデアを挙げ、高齢化と地域関係の希薄化に対処するためのマンションプラットフォーム「ハピット」を開発した。しかし、プロジェクトの進捗は思わしくなく、中山の参加によってプロジェクトが再び前進した。最終的に、全国1500棟のマンションに「ハピット」を導入し、新しいマンションのあり方を提唱することに成功した。
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組織の壁を超えて新たな価値を生み出そう。
2社の共創プロジェクトがスタート。
社内にある知識や情報だけで起こす社会価値創造には限界がある。様々な要素が絡み合った社会課題に取り組むには、組織の壁を超え、外部と協働する「オープンイノベーション」の手法が有効であることは知られている。NECソリューションイノベータにおいても、オープンイノベーションを概念に終わらせることなく、真正面から取り組むプロジェクトが動いている。その一つ、香川県高松市でマンション管理事業を営むあなぶきハウジングサービスとの共創プロジェクトが始動したのは、2016年11月のことだった。プロジェクトを主導したのは、エンタープライズソリューション本部の新冨啓明。
「経営陣の繋がりで、社会価値を一緒に創造していこうということが2社で握れた段階で、私が進め方を考えるところから任されました。社内に先例のないチャレンジャブルな取組みで、ぜひこれは成功させたいと思いました」(新冨)。プロジェクトメンバーの選出も新冨が行った。まずはお互いを知るところからと、NECグループの技術展示会や、あなぶきハウジングサービスの不動産管理の勉強会に、約10人ずつのメンバーが交互に参加。いよいよ組織の壁を超えた交流が始まった。
1社混合のプロジェクトメンバーで
経営陣にプレゼン。高評価を獲得。
1ヶ月半後に経営陣による意思決定の場を設定し、そこでアイデアをプレゼンし、実行に移す承認を得ることをまずは目標にしよう。2社のプロジェクトメンバーによる検討が始まった。全員で集まってセッションを重ねながら、150案以上のアイデアを挙げた。それを5案に絞ってさらに練り上げ、5つの2社混成チームでプレゼンテーションする。新冨が考えた協働のプロセスの中で、当初は疎遠な関係だったメンバー同士が、気兼ねなく意見を言い合える仲になっていった。「あなぶきハウジングサービスのメンバーは、マンションの生活に密着した様々な困りごとをかなり把握していました。こんな課題が解決出来たらきっと嬉しいはずだと、現場のテーマに最新のICTを掛け合わせ、アイデアはどんどん生まれていきました」(新冨)。2017年1月、5つに絞ったアイデアを経営陣にプレゼンすると、2つのアイデアが高評価を獲得。事業化に向けて深掘りすることが認められた。互いに刺激を受け、視野が広がるオープンなセッションの効果を関わった全員が実感した。「その後、2つのアイデアを1つにまとめてサービス化することで最終承認を得て、システム開発に着手することができました」(新冨)。
本当にサービスリリースできるのか。
難航するマンションへの導入。
事業化が決まったアイデアは、「高齢化」と「地域との関係の希薄化」という課題解決を目指すもの。マンションの入退館にNECグループが強みとする「顔認証システム」を採用してセキュリティを高めながら、高齢の住民の入退館を見守ることができるようにすること。そして、マンション入口にはデジタルサイネージを置き、暮らしに必要な地域の情報をカスタマイズして提供するというもの。これらを次世代マンションプラットフォーム「ハピット」として、初年度はあなぶきハウジングサービスの地場である高松市近辺の120棟のマンションに、最終的には5年間で全国1500棟のマンションへ導入する計画が決定した。NECソリューションイノベータからは本社だけでなく、九州支社、東北支社、西日本支社も含めた体制でスタート。しかし、マンションに顔認証を導入するという初めての試みであることに加え、今までにない共創プロジェクトの座組みでの開発とマンションへの導入は思うように進行しなかった。サービスリリースの遅れが続いた2018年7月、多くの難航プロジェクトの立て直しを担ってきた中山公司がチームに合流する。「顔認証は私も初めてで、できる自信はなかった。でも前に進めるのが私のミッション。現場を回って現状をヒアリングし、課題を全部並べ、優先度を決めて対策を立てました」(中山)。
枠を超えた助け合いが信頼関係をつくる。
プロジェクトが再び前へ。
「トラブルの現場では、関係者全員が自分の立場に縛られ身動きが取れなくなっているもの。事実を整理して優先順位をつけ、課題解決のために立場を超えて働きかけることでチームの信頼関係を修復することが大切です」(中山)。様々な修羅場を経験してきた中山による介入によって、難航していた現場が、立場を越えた助け合いに変わる。再びプロジェクトが動き出した。マンションへの導入作業は中山自ら現場に立ち、あなぶきハウジングサービスの営業メンバー、電気工事業者、回線事業者とやりとりしながら、顔認証用カメラの設置位置を調整した。「薄暗い時間帯があったり、逆光になったり、マンションのエントランスは想像以上に光の向きと量が安定せず、顔認証に必要な画像撮影が難しい場所でした。顔が認証できず、ドアが開かないのでは話にならない」(中山)。一日中、マンションのエントランスに座り続け、撮影が安定するカメラ位置を調べた日もあった。「2018年8月に、最初のマンションでサービスインすることができたときは、まずは最初の山を越えた感動がありました」(中山)。そして2019年12月、初年度に予定していた124棟すべてへの「ハピット」導入が完了。セキュリティの向上、ハンズフリーでのスムーズな入退館、高齢者や子どもへの見守り機能など、新しいマンションのあり方を世に問うこととなった。
マンションの暮らしはもっと
地域と楽しく繋がることができる。
「ハピット」のコンセプトのもう一つの柱が、地域情報をデジタルサイネージでお知らせする機能。顔認識したデータに基づき、年齢、性別などに応じた情報を表示する。サービスイン後のアンケート調査でも地域情報はよく見ていると答える人が多く、地元の飲食店の情報などが欲しいという声もあった。この機能をもっと活かし、ビジネスの創出と地域の活性化に繋げることが、今のプロジェクトのメインテーマだ。2社の社員による定例ミーティングは現在も続いており、入社12年目の木村康孝がプロジェクトリーダーを務め、入社1年目の萬辺実生という新メンバーも加わって、「ハピット」プロジェクトは新たなフェーズに入っている。「以前の部署でシステム開発をしているときは『これでよろしいでしょうか』とお客様にお伺いを立てていた。今は『こうしましょう』と自分たちで意思決定して責任をとるスタンスが大事。頭の使い方が変わりました」(木村)。「新しいことを考えることが楽しいし、1年目から社外の方々との打ち合わせに参加できることも嬉しい。会議の資料づくりを担当していますが、もっと発言してプロジェクトをディレクションできるようになりたい」(萬辺)。高齢の居住者の買い物を支えようと、マンションのエントランスに無人スーパーを開設する実証実験も始まった。暮らしと地域をよりハッピーにするプラットフォームとして、「ハピット」はまだまだ成長していく。
※本記事の内容は取材当時のものです。
※所属組織は取材当時のものです。