INTERVIEW
進化するクルマの頭脳となって、
夢の自動走行社会をつくろう。
画像認識システム開発
SUMMARY
画像認識技術を活用し、自動車業界に新しい革新を。栗田率いるチームは、標識認識と歩行者認識を開発し、いくつかの国でテストを実施。これにより、運転アシスト機能が交通事故の減少に大きく寄与すると期待する。しかし、彼らの目標はまだ途中であり、機械学習や街全体のモデリングを通じて、さらなる進化が求められている。栗田たちの挑戦は、自動車業界だけでなく、社会全体にも革新をもたらす可能性を秘めています。
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持てる技術を結集し、
未来のクルマづくりに挑もう。
「たくさんのカメラで人を撮影して、そのデータを回線で送り、別の場所で三次元表示するという仮想空間伝送装置の研究開発に4年ほど携わっていました。」NECソリューションイノベータのなかでもバーチャルリアリティの研究という一風変わった経歴を持つ栗田裕二が、あるプロジェクトのミーティングに呼び出されたのは2010年にさしかかるときのことだった。NECグループが強みとする指紋認証などの画像認識技術に、栗田の三次元モデリング技術を組み合わせ、新しい領域に打って出られないか。
いくつか挙げられた注力領域の一つが、自動車業界だった。電子化が進み、情報処理で動くようになり始めている自動車には、すでに当時、NECグループのソフトウェア技術が搭載され始めていた。そのさらなる進展を見越した技術開発が栗田に託されたのだった。「自動運転の実現には、様々なセンシング技術を組み合わせる必要がありますが、まずは我々が得意な画像認識技術を活かした『標識認識』と『歩行者認識』に着手しました。」栗田のもとに精鋭が集められ、技術開発がスタートした。
世界10数ヵ国で
クルマを走行させての現地テスト。
技術開発と同時に自動車メーカーへの提案も実施され、数年前にはある大手自動車メーカーの新しい車種へ標準装備されるものとして開発することが決定する。それは世界の10ヵ国以上で発売される車種だった。つまり、「標識認識」も10ヵ国以上の異なる道路標識を認識する性能が求められるということ。アルゴリズム開発担当、間井直子たちの試行錯誤が始まった。
「ある標識が読めなかったり、数字を読み違えてしまったりすると、その原因分析から対策を打つまでに2週間はかかることもありました。膨大なデータをとってきては試行錯誤の日々でした。特にサイズが小さい標識には悩まされました。」海外の10数ヵ国で数回行われた、クルマを走行させてのテストには間井たち開発メンバーも立ち会った。「4次試作まで行って、ついに及第点がいただけました。」
膨大な情報を素早く処理する人工頭脳であれ。
認識させたいのは「標識」だけではない。形状が常に変化する「歩行者」の認識はさらに難しく、コンピュータに覚えさせるパターンの数はさらに桁違いに増える。クルマに搭載されるプロセッサーのメモリ容量は極めてわずか。計算する力も弱く、ディスクの容量環境も小さいところに、カメラから飛び込んで来る1秒間に30枚もの画像。それらをまともに全て記憶していてはすぐにパンクしてしまう。いかに無駄を省いてメモリを有効に使うか、いかに処理時間を早くさせるかも、エンジニアたちの腕の見せどころとなった。チームリーダーの森正晃は言う。「ものによっては数ミリ秒で処理を終わらせることが必要。なるべくシンプルで万能なパターンの覚え方をさせたり、処理時間を速めるための実装を行いました。我々自身、理想を突き詰めて全てを追うのではなく優先することを絞り込み、なるべく簡潔な手法、アプローチでやれるように知恵を絞りました。」
未来のクルマの「その先」へ。
ここから、世界で初めてを。
こうして彼らの手がけた「歩行者認識」「標識認識」を搭載した自動車がついに世に送り出されることが決定した。接近する人を知らせたり、速度制限をアナウンスしたりといった運転アシストで、交通事故の減少に大きく寄与することが見込まれている。しかし、これはまだ大きな目標へ向かう途中に過ぎないと彼らは言う。「機械学習の知識をより深めたい。こんなのムリだろうということを必ず実現してみせる。(森)」「世界の誰も思いつかないアイデアをいちばん最初に世に出していきたい。(間井)」メンバーのモチベーションは高い。学び、成長する人工知能として、彼らの生み出すソフトウェアがクルマをまだまだ進化させていきそうだ。さらに領域はクルマだけに留まらないと栗田は言う。「街全体をモデリングし、コンピュータで再現できるようになれば、道路計画などのまちづくりのシミュレーションもコンピュータ上でできるようになる。社会のつくり方にも影響していくと思います。」内なる野心もまたNECグループらしさ。ソフトウェアから世界を変える、栗田たちの挑戦は続く。
※本記事の内容は取材当時のものです。
※所属組織は取材当時のものです。