INTERVIEW 上空から地上のわずかな変化も把握。空間解析技術を、地域の力に。 | NECソリューションイノベータ

INTERVIEW

上空から地上のわずかな変化も把握。
空間解析技術を、地域の力に。

空間解析ソリューション開発

山下 喜宏

山下 喜宏YOSHIHIRO YAMASHITA

  • 電気工学科 卒業
  • プラットフォーム事業ライン
紀井 和子

紀井 和子KAZUKO KII

  • 数学科 卒業
  • プラットフォーム事業ライン
岡 史晃

岡 史晃FUMIAKI OKA

  • 情報通信工学科 卒業
  • プラットフォーム事業ライン

SUMMARY

「RealScape」は、航空写真から3次元データを生成し、建築物の変化や災害被害箇所を抽出できる技術。2014年にプロジェクトチームが結成され、分散開発が始まった。高度なアルゴリズム計算が求められ、メンバーはソースコード解析とアルゴリズム理解に取り組む。マッチング精度向上に努め、試行錯誤を経て「RealScape 2.0」が完成。地方自治体に導入が始まり、防災対策やインフラ点検などへの活用が期待されている。

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空間解析技術の製品化プロジェクトチーム、
拠点の壁を越えて、発足。

上空から街を撮影した航空写真。それは、一枚の平坦な画像であって、写っている建物の高さについての情報はない。しかし、飛行機が移動しながら複数枚の写真を撮影することで、『同じ場所が違う角度で写っている写真』を用意する。こうして撮影した2枚の連続する写真から、視差(ズレ)を検出することで『高さ』を計算することができる。この手法を用い、空中での三角測量のデータから、画像解析やステレオ処理(※)を介し、高さ情報をもった3次元データを生成する。こうした処理を自動的に行うことができるのが、NECソリューションイノベータが開発したソリューション製品「RealScape(リアルスケープ)」である。
同じ街の測量を、時を経て行った上で3次元データを比較することで、建築物が新たに出来たり、災害で被害を受けたりといった、地表の変化のあった箇所を自動抽出することもできる。この「空間解析」は、NECグループの研究所で90年代から研究が重ねられてきた技術。この技術を世の中の課題解決に広く提供しようと、2014年、NECソリューションイノベータの精鋭たち7名のプロジェクトチームが結成された。なかでも中心的な役割を果たしたのが大阪の山下と、岡山に勤務する紀井、岡の3名。その他に神戸のメンバーも含め、WEB会議も駆使しながら、離れた拠点での分散開発がスタートした。
※ステレオ処理=2次元の情報(データ)から、3次元の情報(データ)を得ること。

インタビュー写真1

ソースコードを解析。
開発意図を読み解き、アルゴリズムを理解。

高度なアルゴリズム計算が必要になると見込まれたこのプロジェクト。岡山から抜擢された2名は、数学に強い紀井と、画像系の経験が豊富な岡だった。まず彼らが行ったのが、研究所から受け継いだ「RealScape」のソースコードを解析し、アルゴリズムを理解すること。まずは自分たちが中身を理解しなければ、実用化に向けた改善もしようがない。受け継がれた1990年代の開発資料をもとに、ソースを読み解いていく。「写真測量について本を読んで学びながら、なぜ、こういうソースになっているのか、その意図を理解していくことに取り組みました」(紀井)。
「この数式はいったい何だ、この処理はどういう意味があるんだ、と、一つひとつ検討していく毎日でした。でも一つわかるごとに、道が拓けていくような感覚がありました」(岡)。数ヶ月先行して検討を始めていた山下は、アルゴリズムの大幅な改良の青写真を紀井、岡に説明し、彼らに設計をまかせた。さらにプロジェクトチームに測量士の資格を持ったメンバーも増強し、岡山で奮闘する二人からの相談にのった。「全くそれまでの仕事とは違う分野で苦労したと思いますが、紀井と岡の理解はとても早く、1ヶ月ほどで『RealScape』を自分たちのものとし、改善点を見出してくれました」(山下)。

インタビュー写真2

画像のマッチング精度を高める
新しい計算式を探し求めて。

実用化に向けては、ステレオ処理をする際のマッチング精度をより改善する必要があることがわかった。街の3Dデータは、街の同じ場所を撮影している2枚の画像から視差を検出してつくりだすわけだが、その前提として、撮影した角度の違う2枚の画像を見比べて、同じ場所だと認識できなければいけない。このマッチング精度が良くないと、高さの計算も全くずれてしまう。「ある画像ではうまくいくパラメーターでも、他の画像だとうまくマッチングが出来なかったり。こっちが良ければこっちが悪いという状況」(岡)。「街を歩いていても、あのビルの形状はマッチング泣かせだなといった見方をしていました」(紀井)。「横断歩道のゼブラ模様にも困らされていたから、横断歩道を見るのが嫌な時期もあったね」(山下)。精度向上に向けた試行錯誤は6ヶ月に及んだ。プログラムをつくり、様々な画像で計算をしてみて、問題があれば数式のどこが良くないのかを考え、様々な数式を試し、より良い相関値が出せる最良の計算式を探す。「新しい発見に盛り上がったり、予想外の結果に落ち込んだりの繰り返し。うまくいかなかったらどうしようという不安はありました。でも、ちょっとずつ良くなっていて、ゴールに近づいている感触はありました」(山下)。

ついに「RealScape2.0」完成。
防災対策にも活用の可能性が広がる。

2015年11月、ついに目指す精度の基準をクリアし、12月末、製品化へ向けた最後の総合試験を行っていたところ、最後に問題がもう一つ立ちはだかった。精度を向上する部分ではなく、ユーザーインターフェース部分で問題が見つかった。問題周辺の処理部分をすべて洗い出し、問題が見つかった箇所とその修正を、粘り強く、紀井が担当。2016年2月、2度目の総合試験で問題がないことが確認でき、ついに新たな「RealScape 2.0」の誕生にこぎつけた。2016年4月に発表されるやいなや反応もよく、すでに地方自治体の固定資産の異動抽出への導入が始まっている。また、精度の高い3Dデータで地表の形状を把握できる「空間解析」は、津波や高潮、洪水、地滑りといった災害対策への活用も検討されているという。「橋梁など、インフラの点検や保全にも活かせるし、将来的にはドローンを使って撮影したデータをリアルタイムに解析して、災害現場での活躍も絶対に出来るはず」(山下)。「土地の高さデータを継続的にとっていくことで、地震の予知などにも活かせるのでは」(紀井)。「人工知能で空間を解析しながら自立して移動していくようなものもできるかもしれない」(岡)。メンバーの夢も大きく羽ばたいている。

インタビュー写真3

※本記事の内容は取材当時のものです。
※所属組織は取材当時のものです。

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