INTERVIEW
新しい無線通信技術、
LPWAが切り開く、日本のIoT革命。
配送業務効率化ソリューション開発
SUMMARY
「IoT」が時代のキーワードとなり、企業が投資を行う中、日本企業は費用対効果を見極めるため慎重。NECソリューションイノベータの山田は、省電力広範囲通信技術「LPWA」が日本のIoT化を加速させると語る。LPWAは低コストでセンサーデバイスや通信料を削減可能。例として、プロパンガスメーターの遠隔監視システムを開発し、労力削減と配送効率向上を実現。今後、スマートシティ実現に向けて多様な用途が考えられ、持続可能な社会実現にも繋がると山田は期待する。
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このまま企業が二の足を踏んでいては、
日本のIoT化は遅れを取ってしまう。
時代のキーワードともなっている“Internet of Things(IoT)”。あらゆるものがインターネットに繋がることで、世界の様々な事象がデータとして収集できるようになり、そのデータを活用することで産業にも社会にも大きなイノベーションが起こると言われている。この可能性に攻めの投資をする企業が世界的に多い中で、日本においては、費用対効果を見極めようと投資に慎重な企業が多い傾向が続いてきた。極めて多くのセンサーをばら撒くように設置する必要があり、センサーからのデータをクラウドに蓄積できてこそ、データ活用は可能になる。
それらの設備への投資額は確かに小さくはない。ただ、このまま企業が二の足を踏んだままでは、日本のIoT化は世界に遅れをとってしまう。この壁をブレークスルーする打開策をずっと探ってきたのがNECソリューションイノベータ、IoT基盤ソリューション事業部の山田たちだった。「ついにその状況を変える技術が出てきたと思っています。“Low Power Wide Area”の略でLPWAと呼ばれる無線通信技術です。非常に低電力で、しかし広いエリアの送信ができる。センサーデバイスも通信料も圧倒的にコストを下げられる。かなり革命的な通信規格で、いよいよ日本も一気にIoT化が進むと見込んでいます」(山田)。
「町中のプロパンガスのボンベから、
メーター値が飛んでくるようにできないか」
低電力で動く通信規格LPWAを使えば、センサーデバイスの単価は20分の1に、通信料は100分の1にすることも可能。50メートルほどしか飛ばないBluetoothのような通信規格とは違って、キロメートル単位の距離で通信できるため中継設備も多くはいらない。いよいよIoTを日本の社会へ実装させていく時だと、イノベータたちが動き出した。NECとの共同プロジェクトチームに加わった山田たちのチームがまず着手したのが、プロパンガスの販売事業者にガスメーターの値を提供するサービスの開発だ。
全国でプロパンガス販売を行うあるお客様では、一軒一軒訪問してガスの残量を確認したり、人の予測でガスが切れないようにボンベ交換を行ってきたが、人手不足のなか、人員の確保が難しくなっていた。町中に設置されている家庭のボンベからメーターの値データが飛んでくるようにできれば、この労力を大幅に減らすことができ、配送もより効率を高めることができる。2017年11月、山田チームからはまず大淵がお客様とミーティングを重ねながら、システムを設計していった。「まずは2000台のメーターからデータを収集する実証実験を名古屋で行うことにしました。多くのデータが一度にクラウドに届いたとき、うまく捌けなければデータロストが起こりえますが、それは決して許されないこと。分散してクラウドに蓄積していく仕組みには気を遣いました。そしてセキュリティ。NECが強みとする暗号化技術で安全性を高めました」(大淵)。柔軟さと堅牢さを併せ持ったクラウドが構築されていった。
極限まで切り詰められたデバイス。
数キロバイトの容量にソフトをどう詰める?
「苦労したのはデータの飛ばし方です。LPWAはテキストで24文字程度のデータしか送れません。その文字列にメーター値やセキュリティの値などを16進数で盛り込んで送り、クラウド側で読み解いて蓄積していく仕組みとしました」(大淵)。そして、さらに難題だったのは、ガスメーターに設置するデバイス「IoT無線化ユニット」開発だった。月額100円ほどの使用料で済むレベルまで、生産コスト、消費電力、通信費をトータルで切り詰めることがプロジェクトチームの目標。これが実現できなければコストの壁を突き崩せない。ここでは電子回路にも強い、深井が力を発揮した。「パソコンのようにソフトがたくさん動かせるような環境では全くない。電源も潤沢じゃない。だから常にぐっすりとスリープしていて、必要なときだけ起きて、データを飛ばしたらまたすぐ寝る省エネルギーなシステムであることが必要。しかも数キロバイト程度の容量にソフトを全部収めなければいけませんでした。機械語を使って最小限に切り詰めたプログラムを、小さな箱に隙間なく物を詰めるようにして入れていきました」(深井)。ハードの設計者とも細部まで擦り合わせながら、ついに10年間バッテリー交換が必要のない超省電力のLPWA送受信デバイス「IoT無線化ユニット」が誕生した。「ハードとソフトが緊密に連携できるNECグループの強みと、クラウド側もデバイス側もできる私たちのチームの強みがあったからこその成果。本当によく突破してくれました」(山田)。
まもなく本番環境へ移行。
これが日本のIoT化の幕開けに。
2018年9月から、名古屋市での大規模実証実験がスタート。そこからはクラウドの運用保守と本番環境への移行を、大淵から松田が受け継いだ。「お客様にリリースする前に評価をしっかり行って改善を重ねています。メーターの数も2000台から徐々に増やして、何十万台という本番環境に移行を準備しています。今のところとても順調です」(松田)。お客様ともミーティングを重ねながら、データ画面の見やすさや操作性も松田が丁寧に改善を重ねている。本番環境への移行まであと数ヶ月。プロジェクトが成功すれば人手不足の解消と、大幅なコスト削減が実現するため、業界からは大きな注目を集めている。他の業界からの導入の相談も増え、山田たちの部署でもLPWAに関わるメンバーの増員の検討が始まった。「今回のガスメーター情報の遠隔取得プロジェクトはまだほんの始まり。河川の水量のチェック、公共のゴミ箱やトイレの監視、運搬中の荷物や資材のロケーション管理など、効率の高いスマートシティの実現に向け、様々な活用が構想され始めています。アイデアでもっと広がっていくでしょう」(大淵)。「小さな子どもたちの見守りにも活用できるかもしれないですね。」(松田)。「効率の高いスマートシティの実現には多くのセンサーとLPWAが必要になります。今後、LPWAで集めた様々なデータを“価値のあるデータ”に変えることで、NECグループが目指す、持続可能な社会の実現にも繋がっていくはずです。」(山田)。導入企業が増えればさらにコストも下がり、普及は加速する。人口減少や高齢化といった社会課題の解決も期待される。IoTが浸透したより豊かな社会を思い描き、語り合いながら、イノベータたちの挑戦は続く。
※本記事の内容は取材当時のものです。
※所属組織は取材当時のものです。