INTERVIEW
新しいモビリティサービスで、
観光のまちを花開かせる。
観光型MaaS事業開発
SUMMARY
NECグループのイノベータたちはスタートアップのように柔軟に動き、顧客のニーズを探りながら新しい事業を創造している。石塚直也率いるイノベーション推進本部は、全国各地で交通ニーズを調査し、MaaSの新しいモビリティサービスを実現することを目指す。沖縄での実証実験では、衛星測位システム「みちびき」を活用し、観光サービスとして移動手段を統合することを提案。社内外の調整やアプリ開発を進めながら、新しいプラットフォームを通じて地域経済の活性化や持続可能な交通の再編を目指している。
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「僕らはこういうことをやりたいんです。
一緒にやりません?」
官公庁や大手企業をクライアントとし、間違いのない堅牢なシステムを着実につくりあげるのがNECグループの伝統的な仕事のスタイルだとすれば、今、まるでスタートアップやベンチャー企業のように柔軟に動き回るイノベータたちの活躍が新しい文化を生み出している。「こんなことができたらいいよね」「こんな街づくりをしてみたい」。彼らはまだ顧客もはっきりしない段階から未来像を話し合い、グループ内にある様々な先進技術と結びつけ、事業を企画する。「僕らはこういうことをやりたいんです。一緒にやりません?」自ら社内外に働きかけ、一緒に実現するパートナーを探す。
全国各地を飛び回って、人に会い、時には道ゆく人にもインタビューして顕在化していないニーズを探る。それが、石塚直也が率いる「イノベーション推進本部」のメンバーの動き方。彼らが2019年の初めに立てたコンセプトは、「移動をプロデュースし、楽しい体験に変えていく」というもの。MaaS(Mobility as a service)と言われるすべての交通手段による移動を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ、新しいモビリティサービスの実現だ。石塚自ら、全国の企業や自治体、大学をまわってコンセプトを伝え、共に事業を創り上げるパートナー探しが始まった。
多くの交通の課題を抱えていた
沖縄との出会い。
石塚たちの念頭にあった技術は、NECソリューションイノベータも開発に関わった日本の衛星測位システム「みちびき」だ。日本付近の上空約3万2千キロから3万9千キロの位置にいる衛星により、2018年からより確実に精度の高い位置情報の測位が可能になっている。それを活用すれば、移動したい人と様々な交通手段をより効率的に、高い精度で結びつけられる。「考えていることをあちこちで話していたところ、興味を持ってくださったのが、沖縄の交通の課題に取り組んでおられた琉球大学の神谷大介先生でした。中心地の交通渋滞、レンタカーの待ち時間が長いなどの問題があったり、一方で、交通が不便で観光客を呼べない地域もある。そんな課題を話してくださり、沖縄での実証実験を勧めてくれたんです」(石塚)。プロジェクトはそこから急速に動き出す。NECソリューションイノベータ沖縄支社の紹介で、沖縄南部の東海岸に位置する南城市という自治体、沖縄の意欲的な交通事業者、タクシーの相乗りアプリを手がけるベンチャー企業が続々と実証実験への協力を表明。発信を初めてわずか1ヶ月で、4社と1自治体からなるプロジェクトチームができた。「共感してもらえるコンセプトがあれば、パートナーは自然と集まってくることを実感しました」(石塚)。
「ちょっと前例がないですね」
立ちはだかった法律の壁。
2019年7月、沖縄でのイノベータたちの挑戦が本格的に始まった。月1回、プロジェクト参加企業の定例ミーティングを沖縄で行い、それ以外にも現地の調査や交通事業者との打ち合わせに足を運んだ。プロジェクトの進行管理、各社との調整を担うことになったのが宍倉健司。「南城市をまわってみると、琉球王国の聖地とされる世界遺産や美しいビーチなど、素晴らしい観光資源がありました。沖縄への観光客のわずか5%ほどしか南城市を訪れていないのは本当にもったいないと思いました」(宍倉)。オンデマンド型シャトルサービス、南城市新公共交通と小型モビリティの乗り放題、位置情報を利用したおすすめスポット情報の配信など、定例ミーティングを重ねながら各社とサービス内容を描いていった宍倉。観光名所のチケットと移動サービスをサブスクリプションで提供する観光サービスとしてまとめあげた。ただ、話が進むごとに壁も現れる。「国交省や観光庁からは法的な疑問点を指摘され、社内の法務部や経理部からは首をかしげられる。自分たちが新しいことをしようとしていることを実感しました」(宍倉)。しかし、3ヶ月間、粘り強く相談を重ねるうちに、他部署のメンバーもどうすれば実現できるかを一緒に考えるチームになってくれたと宍倉は言う。「これならできるというやり方に、ついにたどり着くことができました」(宍倉)。
同時進行でアプリ開発も進行。
いよいよ実証実験サービスへ。
石塚や宍倉が社内外の調整に駆け回っているとき、同時進行でアプリ開発も進めていた。衛星からの位置情報を使った情報発信、移動ルート探索、スマートシャトルの予約、小型モビリティの予約などの機能をつくり込んだ。従来のシステム開発のようにエクセルできっちり設計書をつくるのではなく、ホワイトボードに書いたミーティングのまとめをそのまま写真に撮って次の会議の資料とするようなスピード感で開発が進んだという。顧客のシステム開発を受託する仕事のスタイルとは違い、自分たちが事業主体となってサービスを提供する。本当にこのアプリを使うお客さんがいちばん欲しい情報って何だ。何のためにこのボタンがあるの? 「IT屋さん」視点ではなく、ユーザー視点でデザインを形にした。
移動のプロデュースで
まちはもっと元気にできる。
今後も、実証実験サービスでの結果を検証しながら、観光型MaaSのブラッシュアップは続いていく予定だ。「南城市さんも喜んでくださっているし、参画してくださった地元企業にもアプリ開発企業にも注目が集まっています。各社が向かっていく方向がより明確に一致してきたことも嬉しく感じています。でも、まだここがゴールではなく、このプラットフォームに様々なサービスを乗せていきたい」(石塚)。観光型Maasの先に石塚たちが見ているのは、観光だけでなく、そこに暮らす市民向けの交通の再編や、地域経済の活性化を含むトータルなまちづくりだ。南城市の近隣市町村からも相談が寄せられていると言う。「南城市を一つのモデルとして、全国の地域の交通の困りごとに貢献していきたい」(宍倉)。「自然環境に配慮したグリーンモビリティに力を入れてはどうかな」(石塚)。走り出しているイノベータたちの夢は止まらない。
※本記事の内容は取材当時のものです。
※所属組織は取材当時のものです。