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データから見る自治体DXの現状とは|3つの課題と取り組み事例

お役立ちコラム

「他の自治体からDXを推進するように促されているものの、未着手の状況だ。他の自治体はどれくらい進んでいるんだろう…」

持続可能な行政サービス提供のために自治体DXの推進が求められており、取り組まなければならないと分かっていながらも「他の自治体はどうしているんだろう」とまずは現状を理解したい担当者は多いのではないでしょうか。

自治体DXの現状には、下記の3つの特徴があります。自治体DXの全体方針の策定を完了させ、DX推進している自治体がある一方で、未だ全体方針が未策定となっている自治体があるのです。

年々住民の行政サービスのデジタル化の需要が高まっている現代において、現状の自治体ごとの差を埋めないと、DXを推進できていない自治体は、住民の期待に応えられず、満足度が低迷し続けます。

その結果、行政運営の効率化も進まず、将来的に住民サービスの質を維持できなくなるリスクがあるでしょう。

自治体DXの現状や課題を理解したうえで、あなたの自治体ではどのように推進できそうかイメージを持ち、本腰を入れて取り組むことが大切です。

そこでこの記事では、総務省が2025年3月に公表している「new window自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」を参考に、自治体DXの現状を詳しく解説していきます。後半では、自治体DXの課題や課題を改善する取り組み事例にも触れています。

最後まで読めば自治体DXの現状や課題を理解したうえで、どのように自治体DXを推進するべきか分かるでしょう。

自治体DXは避けて通れない取り組みだからこそ、前向きに取り組めるように現状を理解しておきましょう。

1.自治体DXの現状まとめ

冒頭でもお伝えしたとおり、総務省が公表している「new window自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」によると、自治体DXは、都道府県では全体方針(自治体DXの方向性の決定)策定が完了している一方、市区町村では約半数が未だ策定中・未定であり、取り組みに大きな差が出ているのが現状です。

さらに市区町村に目を向けると、未だ28.5%の自治体が全体方針の策定が未定だと回答しています。全自治体が全体方針の策定に前向きに取り組んでいるわけではないのです。

しかし、住民の行政サービスのデジタル化に関する意識は年々高まっています。

実際に、デジタル庁が2023年度、2024年度に実施した「new window社会のデジタル化意識に係る調査」において、社会のデジタル化を「良いと思う」と回答した国民の割合が、前年と比較して2.9ポイント増加し、50.9%と過半数を超えました。

出典:デジタル庁「new window社会のデジタル化意識に係る調査」(全国18歳から79歳男女に対するインターネット調査/2023年度の有効回答数5,600・2024年度の有効回答数10,000)

住民からの需要が増えている一方で、DXに積極的に取り組んでいる自治体と、後ろ向きな自治体との差が生まれてきている現状があるのです。

このような自治体の現状があるためか、デジタル庁が実施した同意識調査によると、住民が「社会のデジタル化に適応できている」と感じる割合と、「デジタル行政サービスに満足している」と答えた人の割合は、どちらも29.8%と低い水準に止まっています。

出典:デジタル庁「new window社会のデジタル化意識に係る調査」(全国18歳から79歳男女に対するインターネット調査/2023年度の有効回答数5,600・2024年度の有効回答数10,000)

自治体DXに取り組まないと他の自治体との差が大きくなり、住民の期待に応えられず、満足度が低迷し続けます。その結果、行政運営の効率化も進まず、将来的に住民サービスの質を維持できなくなるリスクがあるでしょう。

全自治体が自治体DXの必要性を理解したうえで適宜連携をしながら、ともにDXを推進していく姿勢が求められています。

2.データから見る自治体DXの現状

自治体DXの大まかな現状が分かったところで、ここからは自治体DXの主要な取り組みごとに、より細かく現状を見ていきましょう。

自治体DXの取り組み内容 自治体DXの現状
DXを推進する体制づくり
  • 全自治体の53.3%がDX推進部署を設置している
自治体フロントヤード改革
  • オンライン申請システムの導入が最も進んでいる
  • AIチャットボットやチャット相談などデジタル技術を活用したサービス提供領域では活用できている自治体の割合が低くなる
自治体の情報システムの標準化・共通化
  • 標準準拠システムへの移行は全市区町村の59.2%が完了している
セキュリティ対策の強化
  • 情報セキュリティ責任者であるCISOの任命は全自治体の93.6%で実施済みになっている
AIの導入・活用
  • 都道府県や指定都市ではAI導入100%を達成している
  • 音声認識や文字認識、チャットボットによる応答でのAI活用が多い傾向がある
RPAの導入・活用
  • RPA導入は都道府県や指定都市では導入率が高くなっているものの、その他の市区町村では40.7%にとどまっている
  • 財政・会計・財務領域でのRPA活用が進んでいる
テレワークの導入・促進
  • テレワークを導入している自治体は都道府県や指定都市では100%を達成している
  • 実際にテレワークを実施できる自治体の割合に差がある

自治体DXの取り組みごとの現状を知ることで自分の自治体はどの程度進んでいるのか、同じような課題をかかえているのかなど比較ができます。

また、自治体DX全体の課題感や方向性も分かるので、ぜひ参考にしてみてください。

2-1.53.3%がDX推進部署を設置している

自治体DXではDXを推進する体制づくりとして、DX推進部署の設置が推奨されています。DXを途中で諦めることなく役所内から強く推進するには、中核となる組織が必要になるからです。

下記のようにDX推進部署を設置する自治体は増えてきており、2023年度時点では全自治体の53.3%が設置しています。

年度 全自治体 団体区分
都道府県 特別区 指定都市 町村
2022年度 42.9%
(767団体)
95.7%
(45団体)
95.7%
(22団体)
90.0%
(18団体)
60.8%
(469団体)
23.0%
(213団体)
2023年度 53.3%
(949団体)
100%
(47団体)
91.3%
(21団体)
100%
(20団体)
72.1%
(553団体)
33.4%
(308団体)

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」
※特別区:東京23区のこと
※指定都市:政令で指定している人口50万以上の市のこと

とくに、指定都市、都道府県にはDX推進部署が100%設置されている状態で、自治体DXを推進できる体制づくりが整備されてきていることが分かります。

一方で、町村単位になるとまだまだDX推進部署が未設置の自治体が多く、体制整備が課題となっています。

2-2.窓口業務ではオンライン申請システム導入が進んでいる

自治体DXの重点取り組み事項の1つである自治体フロントヤード改革では、効率的で利便性の高い行政サービスの提供を目指しています。

下記のように、さまざまなフロントヤード(行政と住民の接点)の改革に取り組む自治体が増えています。

取り組み内容 全市区町村 団体区分
特別区 指定都市 町村
オンライン申請システム 62.3%
(1,079団体)
91.3%
(21団体)
100%
(20団体)
79.3%
(608団体)
46.6%
(430団体)
申請支援システム 15.9%
(276団体)
39.1%
(9団体)
90%
(18団体)
22.2%
(171団体)
8.4%
(78団体)
AIチャットボット 19.2%
(334団体)
65.2%
(15団体)
60%
(12団体)
29.9%
(231団体)
8.2%
(76団体)
チャット相談 4.9%
(85団体)
21.7%
(5団体)
40%
(8団体)
7.1%
(55団体)
1.8%
(17団体)
予約システム 17.6%
(306団体)
60.9%
(14団体)
70%
(14団体)
28.2%
(218団体)
6.5%
(60団体)
リモート窓口 8.2%
(143団体)
17.4%
(4団体)
25%
(5団体)
14.5%
(112団体)
2.4%
(22団体)
移動窓口 3%
(52団体)
0%
(0団体)
10%
(2団体)
4.7%
(36団体)
1.5%
(14団体)

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

導入が進んでいるのはオンライン申請システムで、全市区町村の62.3%が導入済みとなっています。各種行政手続きをオンライン化できるため、窓口の混雑回避や業務効率化につながります。

一方で、AIチャットボットやチャット相談、予約システムなど、デジタル技術を活用したサービス提供の領域になると、活用できている自治体の割合が低くなることが分かります。

例えば、チャットでの相談は全市区町村で4.9%しか導入できていない状態です。自治体の課題やニーズに応じて、デジタル技術を利活用する知識、ノウハウが必要になってきています。

2-3.自治体の情報システムの標準化・共通化は完了率が59.2%にとどまっている

自治体DXでは、自治体が実施する標準化対象事務(子育て支援や戸籍、介護、国民年金など)に適合した情報システムの標準化、共通化を進めています。

2021年に施行した「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」で利用が義務化されたため、各自治体が標準化基準に適合した情報システムへの安全な移行が必要になったためです。

デジタル庁では、基幹業務システムを利用している全地方公共団体が原則2025年度までに標準準拠システムへ円滑かつ安全に移行することを目指しています。

ただし、2025年1月時点の標準準拠システムへの移行状況は、下記のとおり全市区町村の59.2%が完了している状態にとどまっています。

移行状況 全市区町村 団体区分
都道府県 指定都市 特別区 中核市 指定都市・
中核市以外の市
町村
完了率 59.2% 40.9% 51.8% 68.5% 60.3% 59% 59.2%
作業中率 14.4% 15.2% 11.6% 12.1% 12.5% 15.2% 14.1%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

その背景には、下記のように自治体ごとに情報システムをカスタマイズして活用していた経緯があり、標準化・共通化する技術的、費用的な負担が大きいことが挙げられます。

【自治体の情報システムの標準化・共通化がなかなか進まない理由】

  • 自治体ごとに情報システムをカスタマイズしてきたので差異の調整が負担になっている
  • 情報システムの現状が大きく異なり個別対応を余儀なくされている

この現状を踏まえて、下記のような特定の事由がある場合は「特定移行支援システム」と位置付けることになりました。

【特定移行支援システムの例】

  • 現行システムがメインフレームで運用されている
  • 現行システムがパッケージシステムではない個別開発システムで運用されている
  • 現行事業者が標準準拠システムの開発をしない想定で、かつ代替システム調達の見込みが立たない
  • 事業者のリソースひっ迫による遅延の影響を受けている

参考:new windowデジタル庁「特定移行支援システムの該当見込み」

「特定移行支援システム」に該当する場合は、おおむね5年以内に標準準拠システムへ移行できるような支援を受けることになります。

2-4.セキュリティ対策は全体的に高い水準を維持している

自治体DXではデジタル、AIなどの新しい技術を利活用するため、今まで以上にセキュリティ強化を意識する必要があります。

各自治体ではウイルス感染や不正アクセスなど予期せぬ事態に備えて、CISOの任命やCSIRTの整備を進めています。

【用語解説】

※CISO(Chief Information Security Officer):情報セキュリティを統括する情報セキュリティ責任者のこと。情報セキュリティの戦略立案や実行、インシデント発生時の責任などの役割を担う

※CSIRT(Computer Security Incident Response Team):セキュリティインシデントが発生したときに対応する専属チームのこと。インシデント発生時の初動対応や復旧、セキュリティ監視などの役割を担う。

対策内容 全自治体 団体区分
都道府県 特別区 指定都市 町村
CISOを任命している 93.6% 97.9% 100% 100% 98.6% 88.9%
CSIRTを整備している 80.8% 100% 95.7% 100% 82.9% 77.2%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

とくに、情報セキュリティ責任者であるCISOの任命は、全自治体の93.6%で実施済みです。自治体DXを推進するにあたり、必要なセキュリティ対策を検討、実施できる環境を整えているといえるでしょう。

また、ウイルス感染や不正アクセスなどの予期せぬ事態が起きたときに、迅速な対応をするCSIRTの整備も進んでいる傾向があります。セキュリティ対策の重要性を理解して積極的に施策を検討している自治体が多いことが伺えます。

【CSIRTは外部の専門家・業者と連携しながら体制を整える】

セキュリティ領域は専門的な知見が必要になるため、CSIRTのメンバーに専門家や外部の業者を含めて連携しながら体制を整えるのも1つの方法です。

職員だけではセキュリティ強化が難しいと感じている場合は、外部との連携も視野に入れてセキュリティ強化していきましょう。

2-5.音声・文字認識などでのAI活用が進んでいる

自治体DXでは、AI活用も重要取り組み事項に含まれています。

AI導入は都道府県や指定都市で100%導入を達成している一方で、その他の市区町村では49.9%にとどまり差が生まれています(2023年度時点)。

対象自治体 都道府県 指定都市 その他市区町村
AIの導入率 100% 100% 49.9%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

自治体DXでのAI活用内容を見てみると、業務効率化や住民の利便性向上のために活用していることが分かります。

AIの活用内容 都道府県 指定都市 その他市区町村
音声認識 59件 34件 621件
文字認識 44件 27件 493件
チャットボットによる応答 57件 21件 291件
マッチング 10件 4件 92件
最適解の表示 13件 9件 60件
画像・動画認識 15件 9件 70件
数値予測 3件 2件 8件

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

とくに、音声認識や文字認識、チャットボットによる応答での活用が多く、下記のように活用している自治体も見受けられます。

【自治体DXでのAI活用例】

  • 音声認識:自動翻訳、会議の議事録の自動作成
  • 文字認識:行政文書のデータ化
  • チャットボットによる応答:住民からの問い合わせに対する自動案内

2-6.RPA(業務自動化)は会計・財務分野での活用が進んでいる

自治体DXでAIと併せて活用を推進しているのがRPA(業務自動化)です。RPAは、処理すべきリストやシステム上のデータをもとに決められた処理を行い、その結果を帳票やリスト、システム上に反映する技術です。

決められた時間にタスクを実行する、事前に決めておいたデータを収集するなど工数のかかっていた業務を簡略化、効率化できます。

RPA導入は都道府県や指定都市では導入率が高くなっているものの、その他の市区町村では40.7%にとどまり差が生まれている状態です(2023年度時点)。

対象自治体 都道府県 指定都市 その他市区町村
RPA導入率 93.6% 100% 40.7%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

自治体DXでRPAを活用している領域を見てみると、「財政・会計・財務」領域での活用が進んでいることが分かります。

RPAの活用内容 都道府県 指定都市 その他市区町村
財政・会計・財務 40件 15件 424件
児童福祉・子育て 15件 17件 327件
健康・医療 28件 13件 300件
組織・職員 34件 13件 250件
高齢者福祉・介護 16件 9件 232件
障がい者福祉 10件 5件 146件
情報化・ICT 17件 9件 149件
学校教育・青少年育成 19件 7件 97件
複数分野にまたがる横断的なもの 6件 4件 70件
生活困窮者支援 8件 3件 81件

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

財政・会計・財務領域では、下記のようにRPAを活用して、業務効率化を図っている事例が見受けられます。

【財政・会計・財務領域でのRPA活用例】

  • ふるさと納税寄附情報を集約して管理する
  • 所得情報のデータを収集して合っているか照合する
  • 請求用データを抽出して書類に転記する

2-7.テレワーク環境は整備されつつあるもののテレワークで実務できる職員はまだまだ少ない

自治体DXでは多様な働き方の実現やBCP(緊急事態が発生したときにできるだけ早く再開させるための計画のこと)を見据えて、自治体でのテレワーク環境整備を進めています。

2023年度にはテレワークを導入している自治体が増えており、都道府県や指定都市では100%を達成しています。

対象自治体 都道府県 指定都市 その他市区町村
テレワークの導入率 100% 100% 60.1%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

一方で、テレワークができる環境整備はできているものの、職員が実務でテレワークをしている割合に課題があります。

通常業務をテレワークで実施する、一部の職員がテレワーク移行するなどの実務での活用が低い傾向があるのです。

テレワークを実施できる職員が職員の80%以上の割合は、指定都市以外の市区町村では38.2%と低くなっています。

対策内容 全自治体 団体区分
都道府県 指定都市 町村
テレワークを実施できる職員が
80%以上の割合
41% 87.2% 80% 38.2%

参考:new window総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第4.0版】」

その背景には「多くの職員が窓口業務をしている」「テレワークでのマネジメントに不安がある」など、テレワークを実施する体制、ルールづくりに課題を抱えています。

テレワーク環境は一定数の自治体で整えてはいるものの、現状の業務をテレワークでできるように体制を整えていくフェーズに差し掛かっていると言えます。

3.自治体DXの課題3つ

ここまで、自治体DXの主な取り組みごとの現状を詳しく解説してきました。自治体DXが順調に進んでいる領域や自治体と、そうでない領域と自治体には差があることが分かったでしょう。

このような差が生まれる背景には、主に下記の3つの課題があると考えられます。

自治体DXの課題
  • DXを推進する文化・考え方が醸成できていない
  • 知識やノウハウが不足している
  • 費用がネックになっている

ここでは、自治体DXを推進するときにネックとなりやすい課題を解説するので、同じような課題を抱えていないかチェックしてみてください。

3-1.DXを推進する文化・考え方が醸成できていない

1つ目は、DXを推進する文化・考え方が醸成できていないことです。自治体DXは2020年に総務省が「new window自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を公表して以来、推進が求められています。

そのため、取り組みの必要性は分かっているものの、役所内に「DX」という新しい変革を受け入れる文化、考え方がなく足並みが揃わず進まないケースがあります。

【DXを推進する文化・考え方が醸成できていない例】

  • アナログでの業務に慣れているためデジタルの利活用に反発がある
  • 昔ながらの業務方法を変えることに反発がある
  • 自治体DXを推進しても大きく変わらないと思っている
  • 日々の業務が忙しくてDX推進を後回しにしている

例えば、多くの役所では、行政手続きをする場合、書面での手続きや対面での本人確認などをしてきました。この方法に慣れているためデジタル技術の利活用に懐疑的になり、変化に抵抗感を示す声が出る場合があります。

また、日常業務が忙しい中で「DXを進めている暇はない」と、DXへの取り組みを遠ざける声もあるでしょう。

このように、自治体DXを推進する文化・考え方に納得していない職員がいるとなかなか足並みが揃わずに変革を進めることが難しくなります。

まずはなぜ自治体DXが必要なのかしっかりと説明する機会を持ち、今後のビジョンなども共有しながら、積極的に取り組む文化を構築していく必要があるでしょう。

自治体DXは持続可能な行政サービスを提供するために、避けて通れない取り組みです。今から取り組む必要性や詳しい取り組み内容を知りたい場合は、下記の記事を参考にしてみてください。

3-2.知識やノウハウが不足している

2つ目は、自治体DXを推進するための知識やノウハウが不足していることです。

中小企業個人情報セキュリティー推進協会が実施した「new window自治体におけるDX推進に関する実態調査」では、自治体DXを推進するうえでの課題として「職員のITスキルが不足している」が63.7%で最多となっています。

自治体DXはデジタル技術やAIなどの新しい技術を使うため、下記のように役所内に一定のスキルを持つ人材がいないなどの課題を抱えやすいです。

【DXを推進する知識やノウハウが不足している例】

  • 社内にAIやデジタル技術の利活用に詳しい人材がいない
  • マニュアルや進め方を読むだけでは知識不足で理解できない
  • ツールを導入したものの使いこなせる人材がいない
  • デジタル技術の利活用ができる人材育成をしていない

2.データから見る自治体DXの現状」でAIやRPA活用に伸び悩みがあった背景にも、知識やノウハウ不足があると考えられます。

例えば、住民の問い合わせに自動応答できるチャットボットを導入したくても、仕組みや運用方法を理解できる人材がいないと長期的に活用できません。

そこで「誰も知らないツールだから無理だな」と感じてしまうと、自治体DXが推進しにくくなってしまうのです。

役所内のノウハウ不足を感じた場合は人材育成や関連する企業との連携、他の市区町村との連携などを視野に入れて、ノウハウを蓄積しながら自治体DXを推進できるようにしましょう。

【情報システムなどの担当者が不足している声もある】

小規模な自治体ではDX担当者や情報システム担当者が1名程度しか在籍しておらず、ノウハウと人材の双方が不足している声もあります。

自治体DXは中長期的な取り組みとなるからこそ、ノウハウを持つ人材を確保する、連携していくことが重要になるでしょう。

3-3.費用がネックになっている

3つ目は、自治体DXを推進するときの費用がネックになりなかなか進まないことです。自治体DXでは目的に応じて新しいツールやシステムを導入して、環境を整えなければなりません。

このときにどうしても一定のコストがかかるため、「これ以上費用をかけられない」「システムの導入から運用までを考えると難しい」などの判断が下ることがあります。

確かに一時的には費用や負担が大きくなりますが、業務効率化、簡略化が実現できれば、下記のように長期的な費用削減につながります。

【茨城県笠間市の自治体DX事例】

電子契約サービスを導入して、契約書の印刷や郵送(持参)、押印、保管などの業務を削減できました。郵送でのやり取りでは往復1週間以上の期間を要していましたが、電子契約では平均3日と事務処理が迅速化しました。

その結果、人件費や郵送費用を含めて年間約37万円の削減効果を得られました。

参考:new window総務省「自治体DX事例 茨城県笠間市」

このように、目先の負担だけではなく自治体DXを実現したときの費用対効果を踏まえて、投資判断をしていくことが重要です。

また、国では自治体の費用負担を軽減するために、自治体DXの取り組み内容に応じた補助金、助成金を用意していることがあります。

自治体の課題に応じて使える補助金、助成金がある場合は、活用することで費用負担を軽減しながら自治体DXを推進できます。

4.自治体DXの取り組み事例3つ

自治体DXは自治体ごとの課題やニーズを的確に把握したうえで計画的に推進できれば、住民の利便性向上や職員の負担軽減などが実現できます。

実際に、DXを推進している自治体では、多くの好事例が生まれています。ここでは、自治体DXの課題を払拭できた取り組み事例や好事例をご紹介します。

事例 事例の主な概要
DXを推進する文化を構築する好事例
  • 福井県あわら市:意欲のある職員の手上げ式によるDX推進員を設けてDXの変化の起点となる職員を増やした
  • 山形県舟形町:自治体DXの意思決定機関である「デジタルファースト推進本部幹事会」だけで進めるのではなく若手職員などの意見を取り入れて職員の意識向上につなげた
知識やノウハウ不足を改善した好事例
  • 愛媛県:確保した人材を県と市町でシェアする仕組みを構築した
  • 石川県金沢市:2021年から管理職を含むすべての一般事務職員約2,000人にデジタル研修を実施している
AIやRPAを活用したDX推進の好事例
  • 島根県江津市:住民からの問い合わせに24時間365日対応する「生成AIチャットボット」の試験運用を開始している
  • RPA・AI-OCRの導入を推進して、100業務に活用して、約18,603時間の業務時間を削減した

どのような取り組みをして課題を解決したのか、デジタル技術の利活用を推進したのか分かるので、参考にしてみてください。

4-1.DXを推進する文化を構築する好事例

まずは、自治体DX推進時に課題になりやすいDXを推進する文化を構築した好事例を2つ、ご紹介します。

【福井県あわら市の事例】

福井県あわら市では、DXの総合的な推進、調整を担う「あわら市DX推進本部」を設置しました。本部には市長や副市長、各部局長だけでなく、意欲のある職員の手上げ式によるDX推進員を含めています。

2024年度は4月にDX推進員の募集をして継続・新規で合計18名の職員をDX推進員として任命しました。

DX推進員は積極的にデジタル技術を学ぶ勉強会に参加。職員自らが講師として登壇する機会も設けて、主体的に自治体DXに取り組む姿勢を身につけています。

若手職員や部署を特定せず、積極的に取り組みたい職員を巻き込むことで「変化の起点となる職員」としての役割を果たしています。

【山形県舟形町の事例】

山形県舟形町では自治体DXの意思決定機関として「デジタルファースト推進本部幹事会」を設置しました。町長や副庁等などがら構成するDX推進の中核となる機関です。

ここで、幹事会のみでDXを推進するのではなく、係長以下の若手職員で構成される「ワーキンググループ」に情報共有や事業検討をして、現場の意見を吸い上げる機会を設けている点が特徴です。

実務担当者である若手職員の柔軟な発想を活かせるようにしたことで、職員の意識向上や今後の施策につながる検討などが実現できています。

参考:new window総務省「自治体DX事例 山形県舟形町」

2つの事例に共通しているのは、自治体DXに多くの職員を巻き込み主体性を持てるように工夫していることです。

特定の職員や上層部だけが自治体DXを推進するのではなく、全職員で取り組めるように体制整備、プロジェクトの立ち上げなどを検討してみるといいでしょう。

4-2.知識やノウハウ不足を改善した好事例

続いて、自治体DXの課題になりやすい知識やノウハウ不足を改善した事例を見てみましょう。

【愛媛県の事例】

愛媛県では県内全ての市町が個別に高度なデジタル人材を確保することは困難だと考えて、確保した人材を県と市町でシェアする仕組みを構築。

各自治体のプロジェクトや事業の推進、研修の実施に外部人材を活用できるようになりました。

確保した人材はオンライン面談や現地訪問での相談支援、合同研修など、現在抱えている課題の解決やDX推進支援に活用できます。

高度なデジタル人材が自治体DXの施策に携わることで、大きな失敗を回避して行政サービスの利便性向上などの効果が得られています。

【石川県金沢市の事例】

石川県金沢市では、2021年から管理職を含むすべての一般事務職員約2,000人にデジタル研修を実施しています。

2025年までにデジタル化推進の中心となる20~40代の職員を「デジタル行政推進リーダー」として育成して、約100ある全課への配置を目指しています。

デジタル行政推進リーダー研修では単にデジタルツールの利活用について学ぶのではなく、市民目線での課題解決やサービス提供につながるプログラムを実施している点が特徴です。

この取り組みにより職員全体のデジタルリテラシー向上して、新規施策にデジタルを活用できるようになりました。RPAなどを活用した業務改善を自主的に実施する部署も出てきています。

参考:new window総務省「自治体DX事例 石川県金沢市」

上記の事例では、外部のデジタル人材を活用する、職員の育成でデジタル技術を利活用できるようにするという取り組みをしています。

難易度の高いデジタル施策の場合は、一定のスキルがある外部のデジタル人材を活用することで効率よく自治体DXを推進できるでしょう。

一方で、職員全体のスキルアップや日常業務でのデジタル技術の利活用では、事例のように研修を実施して必要な知識を習得していくことが検討できます。

事例からも分かるように、スキルや知識がないと諦めるのではなく、習得したり補完したりする施策を検討することで、自治体DXを推進できるようになります。

【知識やノウハウの習得に地域情報化アドバイザー制度も活用できる】

職員だけではデータの利活用などのノウハウが不足している場合は、地域情報化アドバイザー制度を活用できます。地域情報化アドバイザー制度は、情報通信技術やデータ活用の専門家を最大3日間派遣してもらえる制度です。

総務省が実施している制度で、専門家の旅費・謝金などの負担なく利用できます。2025年度は242名のさまざまな知見を持つ専門家が委嘱しているので、利用を検討してみてください。

4-3.AIやRPAを活用したDX推進の好事例

最後に、自治体DXの推進で差が出ているAIやRPAを活用した好事例をご紹介します。

【島根県江津市の事例】

島根県江津市では住民からの問い合わせに24時間365日対応する「生成AIチャットボット」の試験運用を2024年7月から開始しています。

下記のように「休日の住民票取得の可否は?」や「自転車の処分方法は?」などのさまざまな問い合わせに、生成AIが適切な回答を提示します。

「生成AIチャットボット」は、試験運用開始から3か月で約660人、利用回数は1,800回を超えています。

従来は電話がつながりにくくなる、職員の負担が大きいなどの課題があったとのことで、AI活用で課題改善が見込まれています。

【新潟県長岡市の事例】

新潟県長岡市では全庁的にRPA・AI-OCRの導入を推進して、100業務に活用しています。

業務活用にあたりRPA導入ルール策定やレベル別職員研修などを実施して、業務担当職員が自発的に活用できるように支援した点が特徴です。

研修は初級研修からスキルアップ研修まで段階的に取り組み、必要なスキルを復習しつつ磨いていけるようにしました。

その結果、約18,603時間の業務時間削減を実現。定量事務業務や大量のデータ処理などを自動化、効率化できて、窓口対応や企画立案に職員を手厚く配置できるようになりました。

参考:new window総務省「自治体DX事例 新潟県長岡市」

どちらの事例もAI・RPAなどの技術を利活用して、業務効率化や業務時間の削減につなげています。

自治体の課題や現状を把握したうえで、的確なツール、システムを導入することで、付加価値の創出、業務効率化につながるでしょう。

総務省では、自治体DXの事例を数多く紹介しています。他の事例も見たい場合は、下記を参考にしてみてください。

5.自治体DXは今後ますます加速していくと考えられるため、今から本腰を入れて着手する

ここまで、自治体DXの現状や課題、実際に取り組んでいる成功事例をまとめて解説しました。

自治体DXは国や総務省、デジタル庁などが手を取り合って推進を促している背景があり、今後ますます加速していくと考えられます。

2.データから見る自治体DXの現状」からも分かるように、都道府県や指定都市ではとくにDXが推進している状態です。今後は都道府県や指定都市などと連携しながら、市区町村ごとの差を埋めつつDXを推進していくと予測されるでしょう。

そのような中で「自治体DXはまだやらなくても大丈夫」「人材不足で進まない」など後ろ向きな考え方から脱却できないと、住民から選ばれない自治体になってしまうリスクがあります。

また、今後少子高齢化が進み労働人口が減少していくと、いつか今の業務量、業務方法ではサービスを維持できなくなるタイミングが来ると言われています。DX推進は簡単なものではありませんが、必ず取り組まなければなりません。

今取り組み始めるのと、後回しにして行うのとでは、将来的な負担が全く異なります。

DX推進に伴う改革の大変さは、正直なところ、いつ着手しても同じです。しかし、もし後回しにして「非効率な業務」を抱えたまま人手不足が本格化すれば、その時に現場が直面する負担は、今とは比べ物にならないでしょう。

むしろ、一日でも早く着手すれば、その分だけ早く「業務効率化の恩恵」を受けられます。この記事で自治体DXの現状と重要性を再認識された「今」こそが、本腰を入れて取り組む絶好のタイミングです。

住民が求めるサービス提供と持続可能な行政サービスの双方を実現するためにも、今から自治体DXに着手しましょう。

自治体DXは「往訪閲覧・縦覧のデジタル化」から
ここまで、AIやRPAなども含めた自治体DXの現状を解説してきましたが、自治体DXの第一歩は、まず『紙とハンコ』のアナログ業務をデジタル化するところから始まります。

特に、いまだに紙の閲覧や窓口対応に多くのリソースを割かれている『往訪閲覧・縦覧』業務は、NECが提供している「往訪閲覧・縦覧デジタル化ソリューション」をご検討ください。

「往訪閲覧・縦覧デジタル化ソリューション」を活用すると、下記のような環境を整えられます。

  • 透かしを入れるなどのダウンロード不可機能、複写抑止機能で安全に情報を共有できる
  • 文書管理基盤で開示書類の原本を一元管理できる
  • 開示期間終了後には開示書類をアプリから自動で削除できる
このように、大企業・官公庁でも多数採用されている情報共有プラットフォーム「PROCENTER/C」を活用しながら、往訪閲覧・縦覧業務(窓口業務など)のデジタル化を、セキュアな環境で実現することができます。

また、私たちNECが初期設計から導入まで伴走するので、DX推進時の「どのようにツールを導入すればいいのか分からない」「専門的な知識がなくて判断ができない」というハードルの高い部分をしっかりとサポートさせていただきます。

自治体の支援実績も豊富なので、自治体特有の背景を踏まえた提案も可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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6.まとめ

本記事では、自治体DXの現状や課題をまとめて解説しました。最後に、この記事の概要を簡単に振り返ってみましょう。

〇都道府県では全体方針の策定が完了している一方、市区町村では約半数が未だ策定中・未定であり、取り組みに大きな差が出ている

〇データから見る自治体DXの現状は下記のとおり

自治体DXの取り組み内容 自治体DXの現状
DXを推進する体制づくり
  • 全自治体の53.3%がDX推進部署を設置している
自治体フロントヤード改革
  • オンライン申請システムの導入が最も進んでいる
  • AIチャットボットやチャット相談などデジタル技術を活用したサービス提供領域では活用できている自治体の割合が低くなる
自治体の情報システムの標準化・共通化
  • 標準準拠システムへの移行は全市区町村の59.2%が完了している
セキュリティ対策の強化
  • 情報セキュリティ責任者であるCISOの任命は全自治体の93.6%で実施済みになっている
AIの導入・活用
  • 都道府県や指定都市ではAI導入100%を達成している
  • 音声認識や文字認識、チャットボットによる応答でのAI活用が多い傾向がある
RPAの導入・活用
  • RPA導入は都道府県や指定都市では導入率が高くなっているものの、その他の市区町村では40.7%にとどまっている
  • 財政・会計・財務領域でのRPA活用が進んでいる
テレワークの導入・促進
  • テレワークを導入している自治体は都道府県や指定都市では100%を達成している
  • 実際にテレワークを実施できる自治体の割合に差がある

〇自治体DXの現状から見える課題は下記のとおり

  • DXを推進する文化・考え方が醸成できていない
  • 知識やノウハウが不足している
  • 費用がネックになっている

〇自治体DXは国や総務省、デジタル庁などが手を取り合って推進を促している背景があり、今後ますます加速していくと考えられる。未着手もしくはまだ本腰を入れて取り組んでいない場合は、少しでも早く取り組みを開始・推進できるように検討する

自治体DXは将来を見越して、持続可能な行政サービスを提供するための重要な取り組みです。段階的な実行フェーズに移行している自治体が増えているものの、自治体による差が生まれています。

何から取り組めばいいのか悩んでいる場合は、NECが提供している「往訪閲覧・縦覧デジタル化ソリューション」をご検討ください。

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