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令和3年度電子帳簿保存法の改正について【第二回】
Web電子帳票管理システムReportFiling(レポートファイリング)令和3年度の電帳法改正では、税法で保存義務が規定される帳簿書類をデータで保存する場合の要件が抜本的に見直され、電子化のハードルはかなり下がったといえますが、その一方でこれまで法令要件により担保されていた適正入力やデータ保存がされなくなる恐れがあります。
本年7月に令和3年度電子帳簿保存法(以下、「電帳法」)改正に係る国税庁から取扱通達と一問一答が公開されました。令和3年度の電帳法改正では、税法で保存義務が規定される帳簿書類をデータで保存する場合の要件が抜本的に見直され、電子化のハードルはかなり下がったといえますが、その一方でこれまで法令要件により担保されていた適正入力やデータ保存がされなくなる恐れがあります。今後は税務当局による電帳法の法令執行が厳格になることが予想されます。
公開された取扱通達や一問一答では、改正後の法令遵守がより一層必要で、法令違反があれば罰則もありうる、と厳しい書きぶりとなっています。今回のコラムでは、通達等に記載されている気になる事項について解説します。
1.「ダウンロードの求め」について 【関連】取扱通達4-14・7-7 一問一答(スキャナ保存)問42 一問一答(電子取引)問32
帳簿書類のデータや電子取引データの保存に当たっては、そのデータを検索できるようにしておくことという電帳法の要件があります。電帳法で定める検索方法は「取引年月日」「取引金額」「取引先名称」の項目において、日付と金額は範囲指定、2以上の項目の複合条件設定ができることが必要となります。ただし、「保存データの提示及び提出の要求に応じる場合」には、範囲指定や複合条件設定ができなくてもいいことになっています。
この「保存データの提示及び提出の要求に応じる場合」とは、取扱通達4-14でその意義について解釈がされています。
取扱通達4-14抜粋
税務職員から提示又は提出の要求(以下「ダウンロードの求め」)があった場合に、そのダウンロードの求めに応じられる状態で電磁的記録の保存等を行い、かつ、実際にそのダウンロードの求めがあった場合には、その求めに応じることをいうのであり、「その要求に応じること」とは、当該職員の求めの全てに応じた場合をいうのであって、その求めに一部でも応じない場合はこれらの規定の適用(電子帳簿等保存制度の適用・検索機能の確保の要件の緩和)は受けられないことに留意する。
このように、検索機能として範囲指定や複合条件設定ができない場合であっても、保存データをダウンロードすることが可能であれば要件は満たすとされていますが、ダウンロードの方法やデータ形式は税務職員の求めた状態で行うこととしています。ただし、実際の税務調査においては現場で、保存されているデータ形式如何を問わず法令要件が満たせる状態で保存されていればデータ形式でダウンロードできれば足りると思われます。
2.承認制度が廃止された場合の税務調査対応ついて 【関連】取扱通達4-40 一問一答(スキャナ保存)問62・問63
承認制度が廃止されましたが、税務調査ではどのような対応が必要となるのでしょうか。
令和4年1月1日以降の帳簿書類をデータで保存する場合には、事前に所轄税務署長の承認を得なくても電帳法要件に従った保存がされていればデータ保存が可能となりました。
国税当局は、承認申請書により納税者がどの帳簿書類をデータで保存しているか、そのデータの保存方法について電帳法の法令要件に従った保存がされるかどうかなどについては事前に確認することが可能でした。承認制度が廃止されるとこうした確認はできなくなり、税務調査において納税者の電帳法対応についての説明が必要になります。
また、税務調査では税法で保存が義務付けされている帳簿書類等を提示するのみでは対応できません。実際には取引の経緯、社内処理などについての説明も必要になる場合があります。これらの説明で必要となる社内書類について税法では保存義務が課せられていませんが、税務調査対応する際には必要となるべき書類となりますので整理し保存しておくことも検討する必要があります。
また既に電帳法の承認を受けている帳簿や書類のデータについては、当該承認された帳簿書類の承認日現在の法令が適用されることになります。承認済みの帳簿書類についてシステム変更や運用方法の変更を行った場合には、これまでは変更届け出書の提出が必要でしたが、今後は税務調査の際に変更事項について説明を行う必要があります。
さらに、スキャナ保存も含め承認済みの帳簿書類のデータ保存に当たり、改正後の法令の適用を受けたい場合には本来は承認済み帳簿書類について、一旦承認の効力をなくすために取りやめの届出書を提出する必要がありますが、新法令に基づいたデータ保存等を行うことについて社内に記録を残し、税務調査において当該適用法令の変更日等の説明ができる場合には取りやめの届出書を提出する必要はありません。
3.スキャナ保存のタイムスタンプの不要となる要件について 【関連】取扱通達4-28 一問一答(スキャナ保存)問30
電帳法で規定されるスキャナ保存においては、スキャニングした書類データへのタイムスタンプ付与が要件となっていますが、今回の改正ではタイムスタンプが不要になる場合があることが盛り込まれています。
電帳法施行規則第2条第6項第2号においてタイムスタンプが不要となる場合とは、「速やかに若しくは業務サイクル後速やかに入力されていることが確認できる場合」にタイムスタンプ付与が不要とすることが記載されています。
したがって、この要件を満たさない場合にはタイムスタンプ付与は必須の要件となります。「速やかに若しくは業務サイクル後速やかに入力されていることが確認できる場合」の解釈は、電帳法取扱通達4-28に以下のように記載されています。
取扱通達4-28抜粋
例えば、他者が提供するクラウドサーバ(同項第2号ニに掲げる電子計算機処理システムの要件を満たすものに限る。)により保存を行い、当該クラウドサーバがNTP(Network Time Protocol)サーバと同期するなどにより、その国税関係書類に係る記録事項の入力がその作成又は受領後、速やかに行われたこと(その国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合にあってはその国税関係書類に係る記録事項の入力がその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行われたこと)の確認ができるようにその保存日時の証明が客観的に担保されている場合が該当する。
取扱通達の内容はあくまでタイムスタンプが不要となる例示を示しているものとなります。授受される電子取引データの訂正削除履歴を含めすべてのデータが保存されるクラウド等のサーバへ保存されること、保存されたことが確認できる日時情報が保存義務者において設定や変更できないこと、設定されている時刻情報が公共時刻情報であること、これらが満たされていれば上記の方法でなくてもタイムスタンプを不要となる要件が満たされるものと思われます。
4.スキャナ保存においての原本廃棄について 【関連】一問一答(スキャナ保存)問3・問9
改正電帳法ではスキャナ保存の要件としていた適正事務処理要件が廃止されています。改正前はスキャナ保存された書類原本は、定期検査終了後に適正入力が確認された該当書類は廃棄することができるとされており、定期検査実施前には廃棄できないこととされていました。改正後は定期検査の実施体制を定めた適正事務処理要件が廃止されていますから、定期検査は法定要件とはならず実施をしなくても法令違反にはなりません。
令和4年1月1日以後に保存を行う国税関係書類については、入力期限が過ぎている場合、プリンタで出力できるサイズより大きい書類のスキャナ保存を行う場合を除き、スキャナで読み取り、最低限の同等確認(入力されたデータと書面の記載事項とを比較して同等であることを確認することをいいます。)を行った後であれば、即時に廃棄して差し支えありません。
ただし、スキャナ保存制度は、原本の保存に代えてスキャンデータを保存することができるとする保存方法の特例ですから原本の入力が適正に入力されていなくてはなりません。入力後にすぐ廃棄することとすれば、その後に入力できていないことが確認された場合の再入力ができないことになります。このため廃棄は入力者以外の者が確認した後に廃棄することをお勧めします。
5.電子取引データの保存に係る経過措置について 【関連】取扱通達7-9 一問一答(電子取引)問41・問42
これまで書面に出力して書面で保存していたが、電子取引を行った場合のデータ保存ができない場合には経過措置などないのか、という質問をよく受けます。本改正項目についての経過措置の規定はありません。令和4年1月1日は電子取引データの書面出力による書面保存が同日以降できなくなりますので、電子取引データについては電帳法の法令要件に従ったデータ保存が必要になります。改正後の法令によると、データ保存に係る宥恕規定の適用範囲とされるのは、災害等やむを得ない場合限られます。ただしこのような場合でも保存義務が免除されているわけではないので保存ができる範囲で保存する必要があります。宥恕規定の適用を受けるためには以下の証明等が必要となります。
- (1)地震等の天災 罹災証明書、損害保険料支払証明書等
- (2)システム障害 当該システム障害が発生した運営会社等の証明
6.メールデータの保存方法 【関連】一問一答(電子取引)問3・問12・問27
取引先とメールにより取引情報を授受した場合には電子取引となりメールデータやメールに添付しているデータも保存対象となります。これらの保存がされていない場合には、電子取引データの保存がされていないことになりますので、最悪は青色申告の承認取り消しという処分がされることになります。
メールデータの保存方法については、メールサーバで保存する方法は現実的ではありません。できればメールアーカイブを行い、外部記憶媒体などで保存する方法が現実的です。またメールに添付されている書類データはメールデータのみを保存していても電帳法の法令要件に従って保存されていることにはなりません。書類の種類ごとに検索ができるように文書管理システムなどにより保存することが必要です。
なお、保存するデータ件数が少ない場合などでは、文書管理システムを導入せず以下の方法で保存することも認めています。
(ファイルサーバで保存する方法)
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請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する。
例)2022年(令和4年)10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書
⇒「20221031_㈱国税商事_110,000」 -
「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する。
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一問一答【問24】に記載の社内規程を作成し備え付ける。
(2021/9公開)
執筆者プロフィール
袖山 喜久造氏
1964年生まれ1986年国税専門官として東京国税局に採用
国税庁調査課、国税局調査部などにおいて大規模法人の法人税等調査の運営や調査に従事2012年東京国税局退職 同年税理士登録・SKJ総合税理士事務所所長2019年SKJコンサルティング合同会社設立 電子化を専門としたコンサルティングを行う。東京税理士会所属税理士(登録番号122308)
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会法務委員会アドバイザー
トラストサービス推進フォーラム(TSF)特別会員
一般社団法人ファルクラム租税法研究会研究員
電子帳簿保存法の最新改正要件と
社内で対応を進める「3つのステップ」!
電子帳簿保存法の対応をスムーズに進めるには、担当者自身が最新の改正要件と対応時の注意点を理解し、同時に現場からの質問に対して答えられるようにしておくことが大切です。
また、電子帳簿保存法に対応した帳票管理ツールを検討することもおすすめです。