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コラム
ウェルビーイング経営とは?
健康経営との違いや成功事例を解説
UPDATE : 2024.04.26
従業員が身体的・精神的・社会的に満たされ、いきいきと働ける職場環境の実現を目指す「ウェルビーイング経営」。広義では、自社に関わる全ての人の幸福を追求する経営手法として、ビジネスの場で注目されています。生産性や創造性の向上につながり、企業価値を高めると言われるウェルビーイング経営について、健康経営との違いや成功している企業の事例などを含め、わかりやすく解説します。
INDEX
- ウェルビーイング経営とは?
- ウェルビーイング(Well-being)の定義
- 主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
- ウェルビーイング経営と健康経営の違い
- ウェルビーイング経営が注目される理由
- 労働人口減少による人材不足
- 働き方改革による価値観の変化
- 持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まり
- GDP(国内総生産)では捉えきれない国の豊かさ
- ウェルビーイング経営のメリット
- 人材獲得につながる
- 離職率の低下
- 生産性の向上
- 企業価値の向上
- ウェルビーイング経営の注意点
- ウェルビーイング経営推進のポイント
- 経営層の意識変革
- 労働環境の改善
- メンタルヘルスケアの充実
- コミュニケーションの活性化
- 従業員満足度の調査
- システムの導入
- ウェルビーイング経営の企業事例
- 丸井グループ
- ポーラ
- サラヤ
- まとめ
ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイング経営とは、従業員が身体的・精神的に健康で社会的にも満たされ、いきいきと働ける職場環境を実現する経営手法です。また、従業員だけでなく、取引先の企業や地域社会など自社に関わる全てのステークホルダーの幸福を追求する経営手法、という広義の意味もあります。近年では、働き方改革や健康経営を推進する企業が増加していますが、健康にとどまらず、従業員やステークホルダーの幸福までフォーカスしたウェルビーイング経営が注目を集めています。
ウェルビーイング(Well-being)の定義
ウェルビーイング(Well-being)は、「良い(Well)」と「状態(Being)」が一体となった言葉で、身体的・精神的・社会的に良好で満たされた状態を指します。直訳では「幸福」や「健康」を意味し、一時的な幸せを表す「Happiness」とは異なり、持続的な幸せを指す言葉です。
世界保健機関(WHO)が1948年に発効した世界保健機関憲章では、前文において健康を次のように定義しています。『Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.』。日本語では「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と訳されています。
主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
ウェルビーイングには、「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」という2つの側面があります。主観的ウェルビーイングは、個々の認識や感覚によって測られるもので、幸福感やポジティブな感情、人生に対する満足感などが指標として挙げられます。楽しいという感情や人生の満足度は個人によって違うため、主観的ウェルビーイングは一人ひとり異なります。
客観的ウェルビーイングは、数値により測定可能で、GDP(国内総生産)や失業率、平均寿命などの統計データが用いられます。例えば、国別や県別にウェルビーイングを測定し、比較する場合などに利用されます。客観的ウェルビーイングでは個々のウェルビーイングを測れないため、ウェルビーイング経営を目指す企業では、主観的ウェルビーイングを重要視しています。
ウェルビーイング経営と健康経営の違い
ウェルビーイング経営と比較される経営手法に「健康経営」があります。経済産業省は健康経営について「従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義しています。
健康経営とウェルビーイング経営は、経営において従業員の健康を重要指標とし、健康管理や健康増進に取り組む点では同じですが、その違いは視点にあります。健康経営は、企業の視点から従業員の身体的・精神的な健康に配慮して経営的なメリットを得るのが目的で、施策の開始は経営者からのトップダウン型です。一方ウェルビーイング経営は、従業員視点で健康の充実を掲げ、ボトムアップ型で施策を推進します。さらにウェルビーイング経営では、心身の健康に加え、社会的に満たされた状態についても考慮します。
ウェルビーイング経営 | 健康経営 | |
---|---|---|
視点 | 従業員視点 | 企業視点 |
施策の方向 | ボトムアップ型 | トップダウン型 |
目指す状態 | 身体的・精神的・社会的に満たされた状態 | 身体的・精神的な健康 |
ウェルビーイング経営が注目される理由
ウェルビーイング経営が注目される理由を解説します。
労働人口減少による人材不足
少子高齢化により労働人口が減少し続ける日本では、労働力不足への対応が喫緊の課題です。新卒一括採用や終身雇用など従来の雇用制度の継続が困難になりつつあることや、雇用の流動化が進んでいるため、人材確保はますます難しくなっています。限られた人材で業績を伸ばすには、従業員のモチベーションを高め、生産性向上を図ることが不可欠です。そのため、求職者や従業員に魅力的な職場環境を作る方法として、ウェルビーイング経営が注目されています。
働き方改革による価値観の変化
働き方改革やライフスタイルの多様化などによって、労働者の仕事に対する価値観は変化しています。従来のような長時間労働や休日返上などのハードワークは社会的に問題視されており、法律では残業時間の上限規制が厳しくなっています。そのため、従業員のワークライフバランスを重視し、健康的な労働環境を作るウェルビーイング経営への関心が高まっています。
持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まり
SDGsへの意識が高まっていることもウェルビーイング経営が注目されている理由の一つです。2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsでは、17の目標が掲げられています。目標3「すべての人に健康と福祉を」では、英語においては「Good Health and Well-Being」と表記され、身体的な健康だけでなく心の健康や社会的な安心も含まれています。目標8は「働きがいも経済成長も」で、経済成長とともに誰もが人間らしく生活できる社会の実現を目指すものです。ウェルビーイング経営で従業員やステークホルダーの幸福を実現させることは、SDGsの達成に寄与します。また、各企業にはSDGsへの貢献が期待されているため、ウェルビーイング経営に取り組む企業が増えています。
GDP(国内総生産)では捉えきれない国の豊かさ
世界各国の豊かさを測る指標として用いられている「GDP」(Gross Domestic Product)。GDPの高さによって国の経済発展度合いを測ることは可能ですが、経済力だけでは本当の豊かさは測れないのではないか、という見方が広がっています。例えばGDPが高くても、国民の生活満足度が低かったり、幸福を実感できていなかったりする状況では、国民の幸福度は向上しません。そのため、国の経済発展と国民のウェルビーイングを測る「GDW」(Gross Domestic Well-being)」という新たな指標が注目されています。国の豊かさという観点においても、国民のウェルビーイングが重要視される時代の流れを受け、企業においても従業員のウェルビーイングは重要という見方が広がっています。
ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営にはどのようなメリットがあるのか、具体的に解説します。
人材獲得につながる
従業員の幸福度を重視するウェルビーイング経営を推進すると、企業イメージの向上が期待でき、人材獲得の可能性が高まります。昨今では、SNSや口コミサイト、ホームページなどで企業の情報を得る機会が多くなっています。長時間労働の是正や有給休暇の積極的な取得、メンタルヘルスケアの導入など、ウェルビーイング向上のための施策を公開すると、口コミ評価や企業イメージが向上し、優秀な人材の獲得につながるでしょう。
離職率の低下
離職率の低下もウェルビーイング経営のメリットの一つです。従業員が退職する理由の多くには、「人間関係によるストレスが多い」「労働環境が厳しい」「家族と過ごせる時間が少ない」など職場環境の不満が挙げられます。ウェルビーイング経営により職場環境が改善され、これらの不満が解消されると、離職率の低下が望めます。
生産性の向上
アメリカ・イリノイ大学名誉教授のエド・ディーナー博士らの「幸福経営に関する理論と調査結果に関する研究」によると、幸福度が高い人はそうでない人に比べ生産性が31%高くなるという研究結果が報告されています。また、欠勤率も低いことが明らかになりました。ウェルビーイング経営の推進により幸福度の高い従業員が増えれば、企業全体の生産性向上が期待できます。
企業価値の向上
エド・ディーナー博士の研究ではさらに、幸福度が高い従業員は顧客から高評価を得る可能性が高く、ウェルビーイングが低い人と比べて売り上げが37%、創造性が3倍高いという結果が出ています。ウェルビーイング経営により、従業員一人ひとりのポテンシャルを最大限に発揮できる環境が整えられれば、顧客との関係性向上やイノベーションの創出が期待でき、企業自体の価値向上にもつながるでしょう。
ウェルビーイング経営の注意点
ウェルビーイング経営を推進すると、一時的に利益追求が難しくなる場合があります。従業員の業務量や勤務時間の見直しにより労働時間が減少することで、売上や利益に影響が出るかもしれません。また、職場の環境整備のために、設備投資などで一時的に利益率が低下する可能性もあります。新たな制度の導入にあたっては、混乱が生じることもあるでしょう。短期的な観点ではそのようなデメリットも否定できません。
しかし、ウェルビーイング経営の推進で従業員の心身が健康になり幸福度が高まれば、生産性や創造性も高まり、結果として自社の業績向上や企業価値の向上につながります。ウェルビーイングの考え方を経営に統合し、従業員の幸福を踏まえ、長期的な経営目標の設定が肝要です。ウェルビーイング経営は短期的な成果にとらわれず、長期的視点に立って取り組むとよいでしょう。
ウェルビーイング経営推進のポイント
ウェルビーイング経営を推進するにあたっては、次の6つがポイントとなります。
経営層の意識変革
ウェルビーイング経営を推進するには、経営層やマネジメント層の意識改革が重要です。例えば、ウェルビーイング経営を推進するために柔軟な働き方が可能となる新制度を導入したとしても、上司やマネージャーが従来の働き方を続けていると、従業員は新制度を活用しづらくなります。まずは経営層やマネジメント層の意識を変革し、上司やマネージャーなどが自ら率先して新制度を活用するなど、取り組みへの意欲を示す必要があります。
労働環境の改善
長時間労働や休日出勤が常態化している場合は、労働環境を是正する必要があります。まずは労働時間や有給休暇の取得率など、自社の労働環境の実態を明確に把握しましょう。また、柔軟な働き方を推進するためには、リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務、副業兼業など多様な勤務スタイルの導入も欠かせません。
メンタルヘルスケアの充実
従業員の精神的健康を維持するためには、メンタルヘルスケアの充実が有効です。メンタルヘルス不調を未然に防ぐため、ストレスマネジメント研修やストレスチェック制度などを導入し、従業員へのケアを充実させましょう。また、メンタルヘルス不調を抱えている従業員の早期発見も重要です。従業員が自主的に相談できる窓口を設置したり、産業医との面談の機会を作ったりするなどして、早めに対応できる環境を整備しましょう。
コミュニケーションの活性化
職場内のコミュニケーションが低下すると、人間関係の悪化につながります。職場におけるストレス増加は生産性低下に直結する恐れがあるため、社内コミュニケーションの活性化を図りましょう。上司と部下、従業員同士のコミュニケーションを活発化させるためには、1on1ミーティングやメンター制度、感謝を表しあうサンクスメッセージ、社内イベントなどが効果的です。また、企業が懇親会の費用を補助したり、談話室やリフレッシュスペースを設置したりすることもコミュニケーションの活性化に役立ちます。
従業員満足度の調査
ウェルビーイング経営を推進するには、従業員満足度調査(ES調査)も有効です。従業員満足度調査では、従業員に働き方に対する意見や満足度、不満などを調査します。例えば、社内制度や人間関係、待遇、職場の風土、キャリアパスなどについて尋ね、結果を収集して分析することで、従業員のウェルビーイングを向上させるには何が必要かを可視化できます。また、採用から退職まで、自社で働くことを通じて得られたすべての経験・体験を表す「従業員エクスペリエンス(EX、Employee Experience)」も注目されており、ウェルビーイング経営への取り組みに活用できる視点といえるでしょう。
システムの導入
ウェルビーイング経営を推進する施策を実施する際に、システムを活用すると効率的に行えます。社内の誰もが気軽にコメント投稿できるシステムや、従業員同士が気軽に感謝を伝え合えるコミュニケーションツールがあると、コミュニケーションが活性化してウェルビーイング向上が期待できます。また、従業員アンケートにおいても最適なシステムを導入することで、アンケート作成が効率的に行えるだけでなく、結果の集計・分析も容易にできます。目的に適したツールの導入を検討しましょう。
ウェルビーイング経営の企業事例
ここでは、ウェルビーイング経営を推進している企業事例をご紹介します。
丸井グループ
ファッションビルなどを展開する丸井グループは、「人と社会のしあわせを共に創る」を掲げ、しあわせを感じられる社員が増えることが重要として「Well-being経営」を行っています。具体的には、社員が活力高くイキイキすることで生産性が向上し、企業価値向上を目指す「活力×基盤のWell-being経営」を推進。ウェルビーイング推進部と健康保険組合が連携しながら取り組みを実施しています。
ウェルビーイング推進プロジェクトのメンバーは、社員が自ら手を挙げて応募するボトムアップ型で、選抜されたメンバーを起点に社内外に向けたWell-beingイベント開催などの活動をしています。また、社員のヘルスケアに関する取り組みとして、健康検定の受験推奨や禁煙のサポート、メタボ改善に向けたプログラム、第三者窓口の設置なども。こうした取り組みは、外部でも評価され「健康経営優良法人~ホワイト500~」に8年連続で認定、「健康経営銘柄」に7年連続で選定されています。
ポーラ
化粧品ブランドのポーラは、「つながりであふれる社会を創る」を掲げ、社員やビジネスパートナー、お客様の幸福を実現するウェルビーイング経営を目指しています。その一環として、2021年に専門家の協力を得て「ポーラ幸せ研究所」を創設。幸福度の意識調査やポーラオリジナルの「幸せ」を構成する因子の特定などを研究し、一般向けのワークショップやプロダクト・サービスの設計、接客コミュニケーションなどに活かしています。
また、従業員に理念を浸透させるため、動画やWebサイトなどさまざまなツールを駆使して伝えています。社員研修後にはアンケートを実施し、「納得できなかった」「よく分からなかった」などの意見に対しては、社長が直接返答することも。トップ自らが進んで現場の声を聞き、行動している姿を見せることがウェルビーイング経営の成功につながっています。
サラヤ
洗浄剤や医薬品などの化学・日用品メーカーのサラヤは、「従業員一人ひとりのwell-beingの実現がサラヤの成長を推進する力になる」として、グループ全体で企業経営にウェルビーイングを取り入れています。従業員のウェルビーイング実現が、サラヤに関わる世界の人々の「衛生・環境・健康」に貢献すると考え、社内に向けたさまざまな取り組みを行っています。
「従業員のWell-beingな状態をはかる数値とその目標値」を掲げ、エンゲージメント(働きがい)、プレゼンティーイズム(出勤しているが何らかの健康問題によって業務の能率が落ちている状況)、アブセンティーイズム(病欠・病気休業の状態)を定点測定。ほかにも2021年度には定期健康診断の受診率実質100%達成、衛生対策商品の配布、ストレスマネジメント、生活習慣の改善サポート、従業員表彰などに取り組んでいます。これらが評価され、2023年には従業員とその家族、外注先・仕入先、顧客、地域社会、株主の幸福に寄与する取り組みを実施している企業を表彰する「第13回、日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の経済産業大臣賞を受賞しました。
まとめ
従業員が身体的・精神的・社会的に満たされ、いきいきと働ける職場環境の実現を目指す、ウェルビーイング経営。自社の利益だけでなく、従業員をはじめ取引先、地域社会などのすべてのステークホルダーの幸福を追求する経営手法です。企業が成長を続けるためには、従業員が心身ともに健康で幸福度を感じて働けるよう、ウェルビーイングを経営に取り入れることは重要と言えます。長期的な業績向上や企業価値の向上という観点からも、ウェルビーイング経営を推進してみてはいかがでしょうか。