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観光事業

・Innovation Story 08

#事業開発 #心豊かに暮らす #観光事業

地域が一体となるインバウンド戦略:DXで拓く持続可能な観光ビジネス

#事業開発 #心豊かに暮らす #観光事業

 インバウンド市場は、コロナ禍を経て再び活況を呈しています。しかし、その消費は依然として大都市圏に偏り、多くの地方がその恩恵を十分に享受できていないのが現状です。地域に人を呼び込み、消費を拡大するためには、単なる情報発信だけでなく、交通、食、体験といった要素をデジタルでシームレスにつなぐ「地域一体型」の戦略が不可欠です。この戦略は、地域に眠る潜在的な魅力を掘り起こし、それを国内外の観光客に届けることで、新たな事業機会を創出し、地方経済を持続的に活性化させることを目指します。
 本稿では、茨城県大洗町や北海道などの事例を基に、NECソリューションイノベータが推進する観光DXプロジェクトの全貌を明らかにします。このプロジェクトは、地域の交通事業者をハブとして、多様な事業者を巻き込み、デジタルプラットフォームを共通の基盤とすることで、観光消費を地域全体に循環させる新しいモデルを構築しています。このアプローチは、単なる収益向上だけでなく、地域のコミュニティを活性化し、住民の生活の質を向上させるという、より広範な社会的インパクトをもたらします。
 まさに今事業として取り組んでいるビジネスラボラトリ第二グループ川村と事業の内容をご紹介します。

NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ 川村 武人(かわむら たけと)
NECソリューションイノベータ株式会社
イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ
川村 武人(かわむら たけと)
NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ 川村 武人(かわむら たけと)
NECソリューションイノベータ株式会社
イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ
川村 武人(かわむら たけと)

観光事業の紹介|地域を「面」でつなぐDX

 川村が取り組む観光事業は、従来の「点」でのアプローチから、「面」で地域全体をつなぐDXへと進化しています。この取り組みの背景には、日本観光市場が抱える構造的な課題があります。

日本観光市場の現状と課題

  • 観光消費の地域偏在

訪日外国人の消費額は8.1兆円(2024年度)に達しましたが、その約7割が東京、大阪、京都の三大都市に集中しています。

  • 情報不足と二次交通の不便

地域の魅力的な商品(食、体験、アクティビティ)が十分に発信されておらず、空港や主要駅に到着した後の二次交通の利便性も不足しているため、外国人観光客が地域へ足を延ばすことが困難です。

  • 価値連携と販売体制の不備

地域の各事業者が個別に情報発信や販売を行っており、交通、体験、飲食といったサービスが連携し、一体的に提供される仕組みが不足しています。

 これらの課題に対し、川村は、「デジタルで地域の価値をつなぎ、周遊・消費を促進する」というビジョンを掲げ、地域の交通事業者と協働する新しいビジネスモデルを構築しました。これは、単にウェブサイトを構築するだけでなく、地域の事業者が共通のデジタル基盤上で連携し、相互に送客し、収益を地域全体で分配する仕組みを創出するものです。この仕組みは、地域の事業者が自律的に成長し、持続可能な観光地経営を実現するための基盤となります。

観光事業の特徴|路線バスを起点とした「地域一体型モデル」

 この観光DXモデルの最も大きな特徴は、「路線バスを起点」としている点です。多くの地方では、人口減少に伴い路線バスの維持が困難になっています。しかし、この路線バスを観光の起点とすることで、以下の3つのユニークな価値を生み出しています。

  • 路線バスを核とした広域観光

隣接する複数のバス会社と地域の事業者が連携することで、行政区や路線区域を越えた広域な観光ルートを構築します。これにより、観光客は一つの場所だけでなく、地域全体を周遊しやすくなります。

  • 中小事業者も巻き込む地域一体型モデル

大手旅行代理店を介さず、地域の中小企業や個人事業主、さらには住民までもが参加できるプラットフォームを提供します。交通事業者がハブとなり、地域の多様な魅力をデジタルで発信・販売することで、地域全体が収益を得られる仕組みを創出します。

  • 旅行者と住民双方に優しい観光

公共交通機関の利用を促進することで、自家用車やレンタカーによる交通事故や交通混雑、CO2排出を削減し、持続可能な観光地経営を目指します。また、路線バスを観光客が利用することで、過疎化に悩む地域の交通インフラの維持・成長にも貢献します。この取り組みは、オーバーツーリズムの問題を未然に防ぎ地域住民と観光客が共存できる理想的な観光地を創り出すための重要なステップとなります。

観光事業の事業内容|データが示す成功への道筋

 この観光DXプロジェクトは、単なる概念に留まらず、具体的な事業内容と実績によってその有効性を証明しています。

  • 「Discoverひがし北海道」プラットフォーム

ひがし北海道を舞台に、路線バス5社(現在は6社)と地域事業者42社が参画する共通のデジタル基盤「Discoverひがし北海道」を構築しました。このサイトには、交通から食、体験まで250商品以上が掲載され、多言語で発信・販売が行われています。

  • データに基づく運営最適化

共通のデジタル基盤を通じて、アクセス、予約、アンケートといったデータを一元的に収集・分析しています。これにより、事業者ごとの勘や経験ではなく、データに基づいた意思決定が可能になります。例えば、ウェブサイトの多言語化においては、商品情報や決済画面など、コンバージョン率に直結する部分に絞ってネイティブ翻訳を行うことで、効率的に予約率を向上させることができました。これは、無駄な投資を省き、効果的な施策に集中することを可能にします。

  • 住民への配慮

予約データを活用したバスの混雑予測もその一例です。特定の便に多くの予約が入った場合、データに基づいて増便を決定することで、住民がバスに乗れなくなる事態を防ぎ、旅行者と住民双方に快適な移動体験を提供しています。また、住民がデジタルチケットを利用することで、キャッシュレス化による利便性向上も図られています。

  • 地域の声の可視化

アンケートを通じて、観光客の声を集め、地域資源の価値を再発見する取り組みも行っています。炉端焼き体験の事例では、台湾からの観光客が地元の店員さんを「お母さん」と呼び、涙を流すほどの感動を覚えたという声が寄せられました。これは、地元の人々が当たり前だと思っていた「おもてなし」が、外国人観光客にとって大きな価値を持つことを証明しており、地域の誇りへと繋がっています。

観光事業の魅力と実績|「点」から「面」への飛躍がもたらす成果

 この観光DXモデルは、地域の事業者が個別に活動する「点」の状態から、地域全体が連携する「面」へと転換することで、驚くべき成果を生み出しています。この成功は、事業投資の意思決定を後押しする、明確なデータによって証明されています。

事業投資を加速させる3つの実績

  • 売上・利用者数の飛躍的成長

2021年から2024年の間で、ウェブ販売金額は14倍に、利用者数は29倍に増加しました。これは、単なる一過性のブームではなく、地域一体となった情報発信と販売チャネルの最適化が、観光客の消費行動に大きな影響を与えていることを示しています。この数字は、同様の地域課題を抱える企業にとって、大きな事業投資の根拠となります。

  • 直販比率の向上と収益性の改善

公式サイト経由での直販比率が74%と非常に高く、地域に落ちる収益率を向上させています。これは、中間マージンを最小限に抑え、地域の経済に直接的に貢献する持続可能なビジネスモデルを確立したことを意味します。投資家にとって、この高い直販比率は、長期的な収益の安定性を示す重要な指標です。

  • 新しいコミュニティの創出とイノベーションの芽

この取り組みを通じて、これまで接点のなかったバス会社とサイクル事業者が協力し、路線バスに自転車を載せて観光する「サイクルツーリズム」の実証実験が自発的に生まれるなど、地域の課題を共創で解決する新しいコミュニティが形成されています。この「自発的なイノベーション」は、地域の持続的な成長を支える最も重要な資産です。事業投資家にとって、このようなコミュニティの存在は、単なるビジネスモデルを超えた、社会的なインパクトと長期的な成長性を示す、見えない価値となります。

今後の展望|日本全体に広がる持続可能な観光モデルへ

 この観光DXモデルは、ひがし北海道での成功を足がかりに、今後、日本全体へと展開していくことを目指しています。

  • 市場目標

2030年までに訪日外国人数を6,000万人、消費額を15兆円に拡大するという政府目標に対し、特に消費の伸びしろが大きいハイエンド層(人あたり300万円消費)へのアプローチを強化します。AIを活用したセミオーダーメイドツアーの仲介など、高付加価値なサービスを提供し、地域への高額消費を促します。

  • DXコミュニティの全国展開

このモデルは、地域のキーマンや事業者と信頼関係を築き、成功事例とデータを共有することで、持続的に成長するコミュニティを形成します。今後は、このコミュニティを全国に広げ、各地域が抱える課題を、地域主導で解決できる基盤を構築します。

  • 提供形態の多様化

サービス提供にあたっては、各地域のニーズに合わせて、「スクラッチ開発」から「SaaS提供」、そして地域の事業者が自走できるようサポートする「SaaS+カスタマーサクセス」まで、多様な提供形態を用意しています。この柔軟な提供体制は、様々な規模や特性を持つ企業が参入しやすい環境を整え、投資の機会を広げます。

 イノベーションラボラトリが行う観光事業は、今後も地域に寄り添いながら、データとデジタルの力を活用し、地域が主役となる持続可能な観光ビジネスを日本全体に広げていくことを目指しています。

関連リンク:NEC ガイド予約支援サービス

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ
川村 武人(かわむら たけと)

システムエンジニアとして民需系の多様なシステム開発に10年間従事した後、NECグループにて「観光DX」をテーマに、ゼロから新規事業の立ち上げに挑戦しています。
現在は、観光庁をはじめ、全国のDMO・観光協会・観光事業者・交通事業者向けに価値を提供するSaaS型サービスを展開中です。これまでの取り組みが評価され、ツーリズムEXPOや国際ウェルネスツーリズムEXPO、各自治体・大学などから観光DXに関する講演依頼を多数いただいています。
社外活動では、500人以上が所属する通訳ガイド組織の運営や、世界一周の旅の経験もあり、現場感覚とグローバルな視点を活かした活動を続けています。
「日本の大企業でも、地域を救うイノベーションは起こせる」——その可能性を、一緒に証明していきましょう!

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第二グループ 川村 武人(かわむら たけと)