座談会:メンタルヘルスの現状と将来
のべ7,410名がチェックし、87%の事業部で「効果あり」
―上記の研究結果を受けて、NECソリューションイノベータでは、VTCが研究・開発した「メンタルヘルスチェックツール」を実際に社内で使い、職場風土改善活動を行っていると聞きました。具体的にはどのように活用されているのでしょうか?
丸岡:まず、社員が「ストレスチェック機能」を使って57の質問に答え、自分自身でストレス状態をチェックします。次に、職場の部長・課長クラスを中心として「職場ストレス分析機能」で社員の回答を集計・分析し、改善施策を検討した上で、職場のメンバーを巻き込んで職場環境の改善を行う…という流れです。
―使ってみて社内の反応はいかがでしたか?
丸岡:最初はVTCが主体となり、いくつかの事業部の協力のもと、プロトタイプ版で実施しました。2013年度からは人事総務部が主体となり、対象を広げ、手を挙げた事業部のストレスチェックを実施しています。これまで11事業部、のべ7,410名の従業員が本チェックを利用しましたが、回答率は76.3%と非常に高い数字となっており、また、本チェックをもとにした職場風土改善活動については、87%の事業部が「効果があった」と認めています。今のところ活動の継続率は100%で、「ウチもやりたい」という事業部も増えています。
―職場風土改善活動とは、いったいどのようなことをやっているのですか?
丸岡:「周囲からのサポートが足りず、ストレスを感じている」という回答があった部署については、管理職が率先して挨拶し、協力的な雰囲気を作ることで、職場に連帯感を形成しました。また、「仕事で満足感が得られない」という不満があった部署については、メンバー内のビジョンの共有を心がけ、客先に常駐しているメンバーのところへはマネージャーが定期的に訪問し、コミュニケーションの頻度を高めました。
―利用の効果は実感していますか?
丸岡:このツールを使うことで、その部署全体のストレス状態が「見える化」されるため、どう対処すべきか踏み込んだ意見を出せるところがメリットですね。
柴田:この種のチェックにおいては、実施する際の負担を心配する方もいらっしゃると思いますが、実際にやってみると5分~10分程度で終わります。これを繰り返し行うことで、社員の置かれているストレス状態の推移がつかめ、対策を実施したときの効果もわかります。
―プライバシー面も気になりますが…
山口:従業員としては、ストレスチェックの回答を誰が見るのかが気になるところでしょう。例えばメンタル不調が会社に知られることで、業務から外されたり、評価が下がったりしないか不安になって当たり前です。その点、このチェックの結果を見られるのは、本人あるいは健康管理スタッフのみなので安心です。
―ほかの会社でもこのツールは利用されているのでしょうか?
柴田:NECが提供する健康管理システムと連携する形で、官公庁、電力会社、大手メーカーなどで採用いただいております。
「認知行動療法」を利用した対面型のセルフケア支援ツールも提供
―メンタルヘルスケアサービスは、具体的にはどのような形で提供されるのですか。
柴田:社内にサーバを導入するオンプレミス版と、インターネット経由でサービスを利用するSaaS版の2種類をご用意しています。専任のシステム担当が置けない企業の場合、導入が簡単で運用の負荷もかからないSaaS版がおすすめです。
―サービスの内容についてお聞かせください。
柴田:「メンタルヘルスケアサービス」は、「ストレスチェック」「ラインケア」「セルフケア」の3つのソリューションで構成されたサービスです。このサービスは、厚生労働省研究班の成果物である「職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)」をベースにしており、自身のストレス状態をチェックできるストレスチェック機能に加え、詳細な分析レポートにより各職場の環境改善を支援する「ラインケア」機能、そして従業員が自分自身でこころのケアが可能な「セルフケア」機能として、カウンセリング手法にも用いられる「認知行動療法」をツール化しました。
―このサービスにおける認知行動療法とはどんなものでしょうか。
山口:システムと対話することで効果が期待できるものです。具体的には、PCの画面を通してシステムが質問を投げかけてきますので、それに対する答えを入力。システムはその回答をテキスト解析技術で分析し、カウンセリングのフローに沿ってアドバイスや共感という形で応答してくれます。自由なおしゃべりとまではいきませんが、相手の気持ちに添った対応をしますので、相談者が抱いている誤解や思い込みなどを解消し、ストレスを軽減することができるのです。
これまでの研究成果を踏まえながら、総合的なメンタルヘルスケアソリューションを目指す
―今後の方針についてお聞かせください。
柴田:NECソリューションイノベータのビジネスは、社会へ貢献するソリューションを提供すること。そのためにも、これまでの研究成果を踏まえながら、当サービスを総合的なメンタルヘルスケアソリューションに発展させていく予定です。
山口:先に研究を立ち上げたとき、もう1つ考えていたテーマが、生活習慣に起因する問題への対処でした。当サービスで採用した認知行動療法は、生活習慣を変えることにも効果があるとされています。そこで今後は、眠れない不安などを抱える方の悩みも解消できるよう研究を続けていくつもりです。さらには、企業だけでなく、地域社会で暮らす一般の方にもメンタルヘルスケアのサービスを拡大していくことが今後の目標です。
―今後の社内での活用方針についてお聞かせください。
丸岡:現在チェックを実施しているのはまだ社内の一部ですので、理解を得ながらこれを順次拡大していく予定です。これにより、メンタル不調を早期に予防・発見し、社員がいきいきと働ける環境を実現したいですね。また、これからもVTCは新しい技術やサービスを提供してくれるかと思いますので、そういったところも積極的に取り組んでいけたらと思います。
―ありがとうございました。
参考文献
- ※1 平成24年度 国民医療費の概況(厚生労働省)
「第6表 性、傷病分類、入院-入院外別」の「Ⅴ精神及び行動の障害」より - ※2 平成22年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金
「精神疾患の社会的コストの推計」事業実績報告書(厚生労働省) - ※3 平成19年労働者健康状況調査(厚生労働省)
第35表 過去1年間においてメンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業又は退職した労働者数割合 - ※4 労働安全衛生法の改正について(厚生労働省)
- ※5 労働者の心の健康の保持増進のための指針(厚生労働省)