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企業内新規事業開発
・Innovation Story 13
#新規事業開発 #社内メンター #IMS
企業内新規事業の成功確率を高める、再現性を意識した仕組みづくり
#新規事業開発 #社内メンター #IMS
2027年に向けてユニコーン100社、スタートアップ10万社の創出を目標に、国は2022年に「スタートアップ育成5カ年計画」を打ち出しました。スタートアップへの投資額は10兆円とされ、日本経済の停滞を打破するための積極的な支援が進められています。
こうした後押しを背景に、起業家やスタートアップの数は増加傾向にあります。一方で、圧倒的に不足していると指摘されているのがメンター、つまり事業開発活動を支援する側の人材です。統計上、メンターが伴走している起業家は全体の20%にも満たないとされています。また、企業内の新規事業開発においては、シーズとニーズの食い違いが生まれやすく、事業として成立できなかったというのもよく聞くケースです。
これらの課題を解決するために、NECソリューションイノベータのイノベーションラボラトリ(以下、イノベラボ)では、社内の新規事業開発を実践的に支援する一方で、成功確率が高い新規事業開発を実現する「再現可能な仕組み」そのものの研究にも取り組んでいます。
本稿では、社内の取り組みにとどまらず、外部のスタートアップ支援プログラムや専門家ネットワークへの参加を通じて、より広い視点や知見、人脈を取り入れながら進められている活動をもとに、イノベラボにおけるイノベーションマネジメントの試みを整理します。

イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
岡城 純孝(おかじょう すみたか)

イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
岡城 純孝(おかじょう すみたか)
シーズとニーズの食い違いなど企業内事業開発の構造的課題に向き合う
企業内の新規事業開発においては、技術力が高ければ高いほど、プロダクトアウト思考(シーズ起点)に陥りやすいという傾向が指摘されています。
たとえ機能的に完成度の高い製品やサービスが生まれても、実際の顧客ニーズと合致せず、市場投入後も売上が立たないというケースは珍しくありません。これは、外部のスタートアップでは当然のように実施されているPMF(プロダクトマーケットフィット)に向けた検証プロセスの不足が大きな要因の一つとされています。
過去の全社公募型のビジネスコンテストや商材企画の現場では、シーズとニーズが一致しないという問題が認識されるケースがありました。また、応募アイデアの中には会社方針やアセットとの連動が弱いものも含まれるため、事業化を検討する段階で推進母体や移管先(受け皿)が定まりにくい、といった課題が生じ得ます。
ただし、ここで述べた「受け皿が定まらない」「発案者の所属部署への復帰が難しくなる」といった論点は、主に全社公募型制度に固有の構造課題であり、新規事業開発を専任で担うイノベラボの枠組みには当てはまりません。イノベラボは専任部門として、推進体制や移管の前提を持った運用を行っているため、事業の継続・移管に関する不確実性が制度上のボトルネックにならない構造を採用しています。
そのうえで、企業内新規事業において生じやすい失敗要因(シーズ偏重、検証不足、意思決定の先送り等)を抑制するため、再現性を意識したプロセス設計が進められています。
事業適合性の確認フェーズと外部メンタリングの活用で、事業開発を促進
イノベラボ内での役割は、イノベーション基盤を担う立場として、事業開発チームの行動の量と質の向上を図るための支援と位置づけられています。
具体的な取り組みの内容としては、事業開発の制度設計、事業開発チームの伴走支援、必要な外部サービスの導入や運用、そして事業開発活動のための講演会といったイベント企画などがあります。なかでも、主な取り組みは、初期段階に設定した「事業適合性の確認フェーズ」(最初のアイデア出しフェーズ)と「社外メンターによる支援の拡充」の2つです。
- 企業内新規事業で重要な「事業適合性の確認フェーズ」
イノベラボでは、事業開発プロセスの初期段階に事業適合性の確認フェーズが設定されています。スタートアップでは、事業領域の選択には比較的自由度がありますが、社内起業の場合は「企業として取り組む意義があるか」「どのように研究成果を活用するか」という点が重視される傾向があります。
このフェーズでは、企業の経営戦略やビジョン、資産との整合性を確認する「ストラテジーフィット」や企業として優先的に狙うべき「ハンティング・ゾーン」(探索領域)の検討ステップが設定されています。これはアイデアの制約を目的とするものではなく、事業化が見えた段階になってから社内に受け皿がないなどと、後工程で顕在化する“企業内新規事業で指摘されることの多い課題”への対応を目的としています。
当該事業に取り組むことについて組織的な合意が形成されていれば、その後の活動における心理的安全性の向上にもつながり、発案者が継続的に取り組みやすい環境づくりにもつながります。さらに、合意形成のプロセスを経ている場合には、方向転換する必要が生じた際も、共有されたゴールを基に柔軟な軌道修正が行われやすくなります。
このフェーズは、「開発の途中で特定の解決手段に思考が集中し、主な目的とされる“顧客の課題解決”を見失ってしまう」というリスクを低減する仕組みとして機能しています。
- 行動の量と質の向上を意識したメンタリング
新規事業の立ち上げ初期、メンターはリソースの少ないチームを継続的に支援します。当事者以外の視点を提供し、チームの成長や事業進展を支える役割とされています。
新規事業の失敗要因としては、「解決すべき課題が十分に存在しなかった」ことが背景にあるケースも少なくありません。そのため、解決策の検討に進む前に、顧客に課題が存在するかを確認するCPF(カスタマー・プロブレム・フィット)を先に検証することが重要になります。
CPFで課題の実在性(頻度・深刻度・切実性)を確認したうえで、次に「課題に対する解決策の方向性が適切か」を確認するPSF(プロブレム・ソリューション・フィット)、さらに「製品が市場に受け入れられるか」を検証するPMF(プロダクト・マーケット・フィット)へと検証を進めます。
メンタリングでは、助言にとどまらず、事業開発チームに対して目的に応じた問いを提示する取り組みが行われています。これにより、インタビューなどの行動回数を増やすとともに、対話を通じて検討の精度を高めることが図られています。こうした行動の量と質の両面における向上は、メンタリングにおける重要な観点の一つとして整理されています。
イノベラボでは、常時複数の事業開発チームが活動していますが、社内メンターのみで支援を行う場合、視点が限定される可能性があります。こうした点を踏まえ、社外の専門家や外部ネットワークを活用し、メンタリングの質を担保する仕組みが制度として整備されています。
イノベーションラボラトリが描く価値創出


社外の視点やツール・サービスを活用した、失敗要因を抑制する環境づくり
再現性の高い事業開発プロセスの構築に向けて、実証的な検証を重ねながら継続的な改善が行われています。中でも重視されているのが、事業開発における失敗要因をあらかじめ低減するための仕組みづくりです。プロセスの初期段階に事業適合性の確認フェーズを設けているのもその一つで、企業内事業開発を効率的かつ的確に進めることを目的に、状況に応じた調整が加えられています。
- 各フェーズに期間制限を設け、判断の先送りを抑制する
企業内事業開発では、母体となる事業が安定している場合、スタートアップのように資金枯渇のリスクが直ちに生じにくいことがあります。その結果、明確な成果が示されないまま、プロジェクトが長期化する可能性が指摘されています。
イノベラボでは、各フェーズに期限を設定し、一定期間内に十分な成果が確認できない場合には、方向転換や撤退も含めて見直しを行うルールが採用されています。こうした制度により、リソースの固定化を防ぎながら、継続的な検証を行いやすい環境が整えられています。
- 外部視点を取り入れた評価体制の整備
イノベラボでは、各フェーズの終了時に次の段階へ進むかを判断する手法として、ステージゲート法が採用されています。あわせて、ステージゲートの審査には社外の有識者が関与する仕組みが導入されています。社内の関係者のみで判断を行う場合、市場動向や一般的な評価基準との間に認識のズレが生じる可能性があるためです。
また、メンタリングと同様に外部ネットワークを活用することで、利害関係に左右されにくい視点を取り入れた評価が行われています。社内事情に依存せず、「事業として成立するか」という観点に基づく判断が重視されており、ステージゲートの審査についてもピッチ形式とし、単なる進捗報告ではなく、スタートアップと同様に資金調達の場として位置づけられています。
- 外部ツール・サービスを活用した事業開発支援
支援活動が継続される中で、取り組む事業領域の拡大に伴い、支援内容の個別化が求められる状況が明らかになってきました。現在は、1人のメンターが複数チームの事業開発を担当していますが、各チームのフェーズや直面する課題が異なるため、すべてのチームに対して十分に深く関与することが難しい場面も見られます。
こうした状況を踏まえ、個別の課題に応じた支援を行うため、外部のリサーチツールや各種サービスの導入・運用が進められています。また、チームごとに必要に応じて外部パートナーによるスポット支援を活用するなど、支援体制の強化が図られています。


生成AIを活用したメンタリング支援の検証と改善
今後は、事業開発手法の一環として、生成AIを活用した新規事業開発プロセスの検証が進められる予定です。アイデア創出から仮説検証に至る一連のプロセスにおいて、生成AIをどのように活用すれば、質と効率の両面を高められるかについて検討が行われます。
その際、発案者の立場でプロセス全体に関与し、どの工程で課題が生じやすいのか、またメンタリングにおいてどのような支援が求められるのかといった点を検証します。こうした実践的な検証を通じて、改善が必要な要素の整理が進められます。
さらに、支援手法そのものを一つの技術的対象として捉え、実証と検証を繰り返しながら更新していく点は、研究機能を背景にもつイノベラボの特徴の一つです。
企業内新規事業を社会実装につなげるための仕組みづくり
企業内から生まれる新規事業を、より確度高く社会実装へとつなげていくことを目的に、イノベラボでは、偶発的な成功に依存しない「企業内新規事業エコシステム」の構築が進められています。これは、成功確率の向上を論理的かつ構造的に支える仕組みとして位置づけられています。
その一環として、社外での情報収集やネットワーク形成を通じて多様な知見を取り入れながら、生成AIをはじめとする新しい技術を活用し、事業開発プロセスそのものの検証と更新が継続的に行われています。
現時点では検討段階にありますが、今後は、事業開発やイノベーション創出に関心をもつ研究機関や企業の方々と、具体的な課題を共有しながら検証を進めていく場面も想定しています。
イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
岡城 純孝(おかじょう すみたか)
社内ビジコンBeNES、商材企画支援でのチーム伴走やワークショップ講師を経験し、現在は新規事業開発の制度設計・運用、外部の支援サービスの選定、事業開発チームの伴走支援などに従事。特に、社外と社内を繋ぎ、外部の知見を内部に取り入れることに取り組んでいる。
起業参謀®を目指し、社外でも研修プログラムやセミナーなどで学び、交流しながら、起業家やスタートアップ、新規事業担当者へのメンター活動を行っている。
SAA(Startup Advisor Academy)3期生、渋沢MIXパートナー会員。
NewsPicks認定エキスパート















