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イノベラボの考える「人間理解」とは?
─ カラダとココロ、二つのアプローチで迫る

・Innovation Story 16

#人間理解 #バイオテクノロジー #AI #ヒューマンインターフェース

イノベラボの考える「人間理解」とは?─ カラダとココロ、二つのアプローチで迫る

#人間理解 #バイオテクノロジー #AI #ヒューマンインターフェース

IT企業に、なぜバイオテクノロジーの研究施設があるのか。そして、なぜ代理存在AIのような「人の心を理解させる」研究が行われているのか。NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリの中に設置されたサイエンスラボラトリでは、人間の「カラダ」と「ココロ」の両面から、人間を深く理解するための研究が進められています。

本稿では、イノベーションラボラトリが掲げる「人間理解」とは、そもそも何を意味しているのか。その問いに向き合う二人の研究者──バイオテクノロジーをバックグラウンドに持つ白鳥行大と、人間中心設計専門家でありヒューマンインターフェース・ユーザーエクスペリエンスの専門家である森口昌和に、「人間理解」の思想とその可能性を伺いました。

NECソリューションイノベータ株式会社  イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第一グループ ディレクター 森口 昌和(もりぐち まさかず)
NECソリューションイノベータ株式会社
イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第一グループ ディレクター
森口 昌和(もりぐち まさかず)
NECソリューションイノベータ株式会社  イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第二グループ ディレクター 白鳥 行大(しらとり いくお)
NECソリューションイノベータ株式会社
イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第二グループ ディレクター
白鳥 行大(しらとり いくお)

なぜ「人間理解」なのか -「人間中心」からの転換-

イノベーションラボラトリは、人間──カラダとココロの両面──を深く理解する「人間理解」というテーマのもとに推進しています。もともとは「人間中心」という言葉が使われていましたが、白鳥はその転換をこう語ります。「人間中心という考え方から人間理解へと転換したのは、私たちの研究リソースを最大限活用できるフィールドを見極めた結果です。他のIT企業にはない、心理学やバイオテクノロジーの多様な専門性を有効活用できる、人の本質に向き合う『人間理解』が適していると考えました」。

この「人間理解」を研究として具現化しているのが、サイエンスラボラトリです。ここでは、人間を理解するための複数の仮説が同時に動いています。白鳥のチームは、体内の複雑なメカニズムを網羅的に捉える「複雑系研究」を今期新たに立ち上げました。森口のチームもまた、人と人、人とAIの関わり方を探る「関係性研究」を始動させています。一つの正解を追い求めるのではなく、多様な仮説を同時に走らせながら人間の本質に迫っていく──それがサイエンスラボラトリのアプローチです。

  • IT企業にバイオラボがある意味

この「人間理解」を支えているのが、他のIT企業にはない研究インフラです。白鳥は率直にこう語ります。「社員数が多いので、イノベーションラボラトリの活動自体がまだ伝わりきれていない。さらに、バイオテクノロジーをやっていることは、ほとんど誰も知らないと思います」。NECソリューションイノベータにバイオテクノロジーの研究施設が実在し、白衣を着た研究者たちが日々活動しているという事実は、IT企業としては極めて異色のことです。

一方、ココロの研究を率いる森口は、現在のAIの限界を次のように指摘します。「今の生成AIは、人を真に理解していない。あくまでも平均的に確率の高い動きをしているだけ。より人を理解し、まるで友人や同僚のように振る舞うことができれば、単なる道具ではなく相棒に進化する」。カラダとココロ──二つの異なるアプローチから人間の本質に迫るリソースを持っていること。それ自体が、イノベーションラボラトリの「人間理解」を単なるスローガンではなく、実体のある探究にしている土台です。

サイエンスラボラトリ バイオラボ(一部)
サイエンスラボラトリ バイオラボ(一部)

「複雑なものを複雑なまま捉える」 -カラダからの人間理解-

イノベーションラボラトリの人間理解は、「カラダ」と「ココロ」の二つのアプローチで構成されています。まず、白鳥が率いるカラダの研究から、その思想を紐解いていきます。

白鳥のチームが今年度新たに打ち出したのが「複雑系研究」です。これは単なる研究テーマの変更ではなく、人間をどう捉えるかという根本的な哲学の転換を意味しています。

従来の研究は、体の中の特定の物質を一つ正確に測る──いわば「単一指標型」のアプローチが主流でした。しかし白鳥は、そのアプローチの限界を感じていたといいます。「人は遺伝子レベルでは変わっていないのに、一人ひとりが多様な結果を生み出している。単一の指標を追いかけていてもしょうがないだろうという仮説があって、何千種類もの体内の情報を網羅的に分析し、そのパターンと体のコンディションを関係づけるアプローチに転換しました」。

つまり、「複雑なものを単純化して理解する」のではなく、「複雑なものを複雑なまま捉える」という発想です。この転換の背景には、「ハイパーパーソナライズ」という考え方があります。一人ひとりの多様性に本当に対応するためには、単一の指標ではなく、網羅的な分析に基づくパーソナライズが必要だという確信です。

  • 「老い」を心と体の両面から捉える

この「複雑系」の思想が具体的に表れているのが、エイジング(老い)の研究です。白鳥はこう語ります。「同じ暦年齢80歳でも、アクティブに活動している人と、コミュニケーションが少なくひっそりと過ごしている人がいる。その違いは体だけではなく、心に支配されている部分が大きいのではないか」。

この仮説のもと、森口の組織に所属する心理学の専門家と白鳥のチームのバイオの専門家がタッグを組み、「心の老い方」に5つのタイプがあることを見出しつつあります。現在、その成果を論文化して世界に発表する段階に入っているといいます。一つの現象を、心と体の両面から同時に探れること。それは、両方のリソースを持つこの組織だからこそ可能なアプローチです。

「よくわからないからこそ面白い」 -ココロからの人間理解-

ココロの研究を率いる森口は、自身の研究に対する根源的な動機をこう語ります。「私自身の根本の性格がすごく論理的なんです。論理的なことはフローでわかる。でも、感情はフローチャートでは表せない。よくわからないんですよね。じゃあそれは何なのかって──逆にそれが面白いというのがベースにあります」。

この「わからないから面白い」という感覚は、白鳥の「見えないことを切り開いていくのが面白い」という言葉と共鳴しています。人間理解の研究者たちに共通しているのは、人間を「解明すべき対象」としてだけでなく、「向き合い続けたい存在」として捉えている点ではないでしょうか。

  • 生成AIが変えた「心の研究」

森口のチームが取り組む「人間反応シミュレーション」は、ココロの理解に新たな可能性を拓く研究です。生成AIの中に複数の人格を用意し、アンケートに回答させる。すると、その回答と現実の人間による回答に、意外なほど違いがなかった──この発見は、仮想空間での検証が現実世界の失敗を未然に防ぐことにつながる可能性を示唆しています。

生成AIの登場は、研究手法そのものも大きく変えました。「従来の心理実験は、文字が出てきて反応時間を測るような、定型的な刺激に限られていた。生成AIによって、自然な対話の中で実験ができるようになったのは大きな変化」と森口は語ります。これは白鳥のチームでも同様で、両チームが「複雑なものを複雑なまま捉える」アプローチへと収斂した背景には、生成AIという技術的なブレイクスルーがあったのです。

  • 「自分のコピーに仕事をさせる」という未来像

「人間理解とは何か」という問いに対して、森口は自身の描く未来像をこう語ります。「私のコピーが勝手に仕事をやってくれる。そういう世界を実現するためには、自分をデジタル化し、モデル化しないといけない」。一見すると突飛に聞こえるかもしれませんが、これは「人間を深く理解する」ことの延長線上にある構想です。自分自身を正確にモデル化できるほどに人間を理解する──その先にこそ、「代理存在」という研究テーマが位置づけられています。

しかし、技術的な精度だけでは足りません。いくらAIが精巧なコピーを作っても、本人がそれを「自分だ」と認めなければ意味がない。周囲の人も「あの人と同じだ」と認めなければ成立しない。ここに、「社会的承認」という新たな課題が浮かび上がります。

「人はまだ未知の宝庫である」 -人間理解が目指す先-

  • 心と体が交わるところに眠る知見

カラダとココロ。組織としては二つのチームに分かれていますが、白鳥はその理由を「バックグラウンドの違う研究者が、それぞれのやり方で動ける方が組織としてうまく運営できるから」と説明します。つまり、分離は組織運営上の措置であり、目指す方向は一つです。

白鳥はこう語ります。「心と体がマージする部分に面白い知見がたくさん眠っているはず。そこを探れるのは、両方のリソースを持っている我々の強み」。研究者レベルでは、すでにチーム間の壁なく交流し、共同で研究を進めているといいます。老いの研究で心理学者とバイオ研究者がタッグを組んだように、「心と体を分けずに捉える」実践はすでに始まっているのです。

  • AIネイティブ時代の「社会的承認」

森口が注目しているのが、AIネイティブ時代における「社会的承認」という概念です。「生成AIがシンギュラリティとも呼べる変化を起こしている今、人間理解のあり方も常にアップデートしていかなければならない」。技術の進化が速い時代だからこそ、「安全です」「セキュリティ上問題ありません」といった技術的な保証だけでは不十分になってきています。AIが社会のさまざまな場面に入り込み、人と関わる存在になるほど、重要になるのは“社会の中で受け入れられるかどうか”です。たとえ優れた技術であっても、人々が違和感や不安を抱けば広く使われることはありません。反対に、人々が納得し、信頼し、受け入れられる形であれば、その技術は社会に浸透していきます。

AIと人間が共存する未来に向けて、社会の中でどのように認められ、受容されるのか――その「社会的承認」をどう設計するかが重要なテーマになると森口は考えています。

この視点は、人間理解の研究が新たな段階へ進んでいることを示しています。人間を理解するとは、個人の心や身体を分析するだけではありません。人と人との関係、人とAIとの関係、そして社会の中でどのように受け入れられるのかまで含めて捉えることが求められています。AIネイティブ時代において、人間理解の対象は「個人」から「関係性」へと広がりつつある。その探究こそが、イノベーションラボラトリが目指す人間理解の新たな挑戦なのです。

  • 「自分を解明したい」──研究者たちの原動力

研究の面白さについて問うと、白鳥は迷いなく答えます。「見えないことを切り開いていくのが面白い。決まりきったことをやるよりも、様々なパターンやアプローチの中からベストを見つけていく。まさに探究です」。人間を研究対象とすること自体への興味を掘り下げると、白鳥はこう続けます。「人間にはいろんな無駄なことが多い。遺伝子は、機能しているのはほんの数パーセント。でもその膨大なジャンクが何かしら機能している。それ自体が研究対象としてすごく面白い」。

森口はさらに本質的なことを口にします。「根本的には、自分を解明したいんだと思います。環境とか他のものではなくて、自分がわからない」。人間理解の研究者たちを突き動かしているのは、外部からの要請ではなく、「人はまだ未知の宝庫である」という純粋な知的好奇心なのです。

その好奇心の形は、研究者一人ひとりで異なります。白鳥は「みんな違う。必ずしも全員が人間理解に興味のコアがあるわけではない」と率直に語ります。生物多様性をテーマにする研究者もいれば、純粋にデジタル技術の可能性を追う研究者もいる。しかし、その多様さこそが強みだと白鳥は考えています。「同じ価値観だけではダメ。みんな違う専門性を持っていて、様々なアプローチがある。その中から一つの光明を見つける」。多様な視点が交差するところに、人間理解の新しい地平が開けていくのです。

未来への展望

イノベーションラボラトリにとって「人間理解」とは、人間をカラダとココロの両面から深く理解し、その知見をデジタルと掛け合わせて、社会に還元することです。カラダとココロ、二つのアプローチは、その理解を確かなものにするための両輪にほかなりません。

もちろん、人間の理解に「完了」はありません。カラダの複雑系研究やココロの関係性研究、社会的承認の設計など、新たな仮説が次々と生まれ、研究として動き出しています。心理学、バイオテクノロジー、ヒューマンインターフェースといった多様な専門性が交差するこのラボだからこそ、人間理解の探究はさらに深まり続けていくでしょう。

白鳥はこう語りました。「いざ近しいものを欲しい人が生まれたときに、我々にたどり着けるようにしたい」。バイオテクノロジーとデジタルの共創に興味をお持ちの方、AIと人間の新しい関係性を探究したい方。サイエンスラボラトリの扉は、その好奇心に共鳴するすべての方に開かれています。

  • お問い合わせ

人間理解の研究にご関心をお持ちの方、バイオテクノロジー×デジタルの共創にご興味のある方、また「社会的承認」をはじめとするAIネイティブ時代の課題について議論されたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

共同研究のご相談や、バイオ研究施設の見学なども承っております。

NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリ
メール:ilab-contact@nes.jp.nec.com
担当:森口 昌和/白鳥 行大
未知の領域に一緒に挑み、新たな価値を共に創造していけることを、チーム一同楽しみにしています。

イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第一グループ
ディレクター
森口 昌和(もりぐち まさかず)

人間中心設計専門家。2005年に日本電気株式会社(NEC)に入社。NEC中央研究所、ヒューマンインタフェースセンターを経て、NECソリューションイノベータにてUXエキスパートとして現場支援に携わるほか、VR事業の立ち上げなどの先端技術プロデューサーとして活動。2024年からは研究部門のディレクターとして、ヒトのココロに注目したAXの研究開発に携わる。著者に「スマートデバイスのUXデザイン 事例から学ぶ失敗しないアプリ設計術」(日経BP社)ほか。

イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第一グループ ディレクター 森口 昌和(もりぐち まさかず)

イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第二グループ
ディレクター
白鳥 行大(しらとり いくお)

博士(バイオサイエンス)。専門分野はバイオテクノロジー全般。博士課程修了後、大学付置研究所にて、がんやウイルスの免疫回避機構の研究に従事。2010年に旧NECソフトVALWAY TECHNOLOGY CENTER入職後は、ヘルスケア、感染症、フードセーフティをターゲットとしたアプタマー(人工DNAセンサ)を開発。また、蛍光タンパクの改良とそれを利用したヒカル花の開発も主導。現在はバイオ領域の複雑系科学として、バイオフローラの総合理解を目指す。

イノベーションラボラトリ サイエンスラボラトリ第二グループ ディレクター 白鳥 行大(しらとり いくお)

INNOVATION STORIES/イノベーションストーリー

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