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答えを出さないAI
─ 教育現場で「考える時間」を取り戻す挑戦

・Innovation Story 15

#事業開発 #探究学習 #答えを出さないAI

答えを出さないAI─ 教育現場で「考える時間」を取り戻す挑戦

#事業開発 #探究学習 #答えを出さないAI

「AIに聞けば答えが出る」──生成AIが急速に普及する中、そんな認識が社会全体に広がりつつあります。しかし、その流れにあえて逆行し、「答えを出さない」AIを教育現場に届けようとしているチームがいます。NECソリューションイノベータの新規事業開発部門であるイノベーションラボラトリが開発した探究学習支援AIは、生徒に正解を提示するのではなく、「問い」を返すことで、生徒自身が考える時間と機会を創出することを目指しています。

昨年度は6校、延べ1,500名の生徒がこのシステムを利用しました。教室で起きた変化は、開発チームの予想を大きく超えるものだったといいます。「答えを出さない」というシンプルな設計思想が、なぜ生徒の目の色を変え、先生の働き方に影響をどう与えるのか。

本稿では、この「答えを出さないAI」の核心に、製品戦略を担う阿部と、開発・実証・セールスに携わるメンバーと共に迫ります。そのユニークな設計思想から、教育現場での実証検証で得られた具体的な手応え、そしてこの取り組みが目指す教育の未来像まで、多角的にご紹介します。

NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 阿部 由莉/熊谷 直輝/藤波 理帆/加賀 茜
NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ
阿部 由莉/熊谷 直輝/藤波 理帆/加賀 茜
探究学習支援AIの企画・開発・実証・セールスを担当。
NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 阿部 由莉/熊谷 直輝/藤波 理帆/加賀 茜
NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ
阿部 由莉/熊谷 直輝/藤波 理帆/加賀 茜
探究学習支援AIの企画・開発・実証・セールスを担当。

「すぐ答えが欲しい」時代のジレンマ

生成AIの急速な普及により、教育現場にはこれまでにない種類の困惑が広がっているようです。生徒が生成AIを使い、自分で考えることなく答えを得てしまう。その結果、思考力が十分に鍛えられないまま社会に出ていく生徒が増えるのではないか──こうした懸念を抱く教員もいるといわれています。

阿部は、この問題の根深さを次のように指摘します。「短時間で答えを得る体験が一般化している時代背景があり、生徒が『すぐに答えが欲しい』という反応をすることもあります。その流れからいえば、『答えを出さないAI』は最初、受け入れがたい傾向が見られました」。タイムパフォーマンスが重視される時代において、あえて「立ち止まって考える」ことの価値を伝えることは、想像以上に難しい挑戦です。

一方で、教育現場には以前から存在する課題もあります。探究学習の時間は設けられているものの、テーマを設定し、調べ、発表にまとめるというプロセスをこなすだけの「形式的な探究」になっていないかという不安が見受けられるケースがあるようです。先輩たちの発表を参考に、フレームだけを模倣してしまう。その繰り返しの中で、本質的に「考える」時間が失われる恐れすらあります。

こうした課題意識の中で開発された「答えを出さないAI」は、結果的にこのジレンマに向き合うアプローチとなりました。正解を効率よく届けるのではなく、生徒の中にある「もっと知りたい」「もっと考えたい」という気持ちの種を見つけ出す。それこそが、探究学習の本来の姿なのではないか─チームはそう考えています。

「答えを出さないAI」とは何か -問いを返すAIの設計思想-

一般的な生成AIは、ユーザーの質問に対して最も確からしい回答を返すことを目的としています。しかし、このAIは逆のアプローチを取ります。生徒が入力した内容に対し、答えではなく「問い」を返すのです。

「このAIの本質は、答えを出すことではなく、生徒自身が考える機会を提供することにあります」と阿部は語ります。問いの内容そのものが重要というよりも、問いによって一度立ち止まり、自分の頭で考える時間が生まれることに価値がある、というのがチームの考えです。これは、単に授業を「楽にする」ことではなく、生徒一人ひとりが「自ら課題を見つけ、解決に向けて行動できる人材」として成長するための、深い学びの体験を創出することを目的としています。

ここで注目すべきは、このAIが「進め方を教えるAI」とは本質的に異なるという点です。教育現場の先生の中にも、AIと聞くと教員の代わりに進め方を教えてくれるAIなのかと想像される方がいらっしゃるといいます。チームは現在、生徒・教員の双方に対して、このAIの思想と価値を丁寧にお伝えすることに注力しています。

また、チャットに慣れた若い世代は、テンポよくメッセージをやり取りすることに慣れています。阿部はこの点を次のように捉えています。「テンポよくやり取りするのに慣れているからこそ、一回立ち止まる機会を作ることも必要と感じています。生徒のペースを調整する働きかけは、やはり先生にやっていただかないといけない」。AIが問いを投げかけ、先生がその問いを通じて生徒と向き合う。AIと教師には、それぞれに異なる、しかし欠かせない役割があるのです。

NEC Thinking Support AIデモ画面例
NEC Thinking Support AIデモ画面例

教室で何が変わったか -実証検証で得られた示唆-

この「答えを出さないAI」は、机上の理論に留まらず、実際の教育現場での実証検証を着実に進めています。導入した教室では、開発チームも予想していなかったような変化が生まれ始めました。

  • ある生徒に起きた変化

熊谷(セールス担当)が、印象的なエピソードを振り返ります。「ある生徒が全然使わなかったんです。ずっと座ったまま。先生が横で色々問いかけて、『こういう考え方をしたらどう?』『そういう内容をAIに入れてみれば?』とアプローチしてくださった。すると、その生徒はのめり込んで対話を始め、それまでとは全然違う考え方をアウトプットできていた」。

  • 「難しい顔」が意味するもの

加賀(実証担当)は、教室で目にした印象的な光景を次のように語ります。「このAIを使うと、みんなすごい難しい顔をするんですよ。うわぁって顔して考えている。今まで探究学習の時間ではあまり見られなかった光景だったという声ももらいました」。

興味深いのは、この「難しい顔」に対する教員と生徒のギャップです。生徒へのアンケートでは「何を知りたいのか会話することで明確になった」「自分が考えていなかったことに気づくきっかけになった」といったポジティブな反応が見られました。一方で、教員は生徒が「難しい」「わからない」と口にしている状態に不安を感じることもあったようです。

阿部はこう分析します。「先生にとって、生徒が困っている状態に戸惑うこともあるかもしれません。でもアンケート結果を見せて、改めて先生に伺うと『初めは皆が困惑していたが使ってみてよかったのかも』という反応になる。そのギャップは印象的だった」。見守る側には不安に映る「難しい顔」が、実は深い思考に入っているサインかもしれない──この気づきは、教育現場でこうしたAIを活用する上で非常に示唆に富むものではないでしょうか。

  • 生徒アンケートに表れた変化の兆し

定量的な側面からも、変化の兆しが見え始めています。実証後のアンケートでは、多くの生徒が「自身のテーマへの興味関心が深まった」「次のアクションへのヒントが得られた」「探究意欲が向上した」と回答しました。もちろん、アンケート結果だけで効果を断言することはできませんが、AIとの対話を通じて、少なくとも生徒の意識に何らかの変化が生まれていることを示唆する結果といえるでしょう。

さらに印象的だったのは、2年間このシステムを使い続けた卒業生の声です。「答えを教えてくれないAIは、タイムパフォーマンスが悪いと思わない?」という問いに対して、その卒業生は「AIを先に使って答えをもらうと、ステレオタイプに染まる。自分の経験から来ていたはずの考えが消えてしまう。自分の考えを語れるようになりたい」と語ったといいます。生徒自身が、「考える」ことの価値を実感している──この事実は、チームにとって何よりの手応えになったのではないでしょうか。

アンケート結果の一部:Q.対話を通じてどのような気づきがあったか?
アンケート結果の一部:Q.対話を通じてどのような気づきがあったか?
アンケート結果の一部:Q.対話を通じて、⾃分の探究テーマについて「どのような点、どのような問いに対して主張すべきか」「主張の根拠づけ」などが対話する前と⽐較して、明確になったと感じるか
アンケート結果の一部:Q.対話を通じて、⾃分の探究テーマについて「どのような点、どのような問いに対して主張すべきか」「主張の根拠づけ」などが対話する前と⽐較して、明確になったと感じるか

先生のやりがいを支援する -このAIが本当に届けたい価値-

「答えを出さないAI」は、生徒のためのツールだと思われがちです。しかし、チームが実証を通じて確信したのは、このAIが価値を届けているのは、実は先生たちなのかもしれないということでした。

  • 先生がいらなくなる?──その問いへの明確な答え

「先生がいらなくなるんですか?」──これはチームが最もよく受ける質問だといいます。藤波は明確に否定します。「そうではない。AIはツールでしかない。生徒のモチベーションに火をつける小さな種を引き出すことはできるが、その火を消えないように維持するのは、やっぱり人にしかできない」。

阿部も続けます。「AIが『今日やりなよ』と言っても、所詮システムに言われたこと。結局それでやるかというとそうならない。知りたいという気持ちの種を育てるのは、やっぱり相手がいるということが大事。先生とAIの役割は全然違う」。このAIは、先生の仕事を奪うものではありません。むしろ、先生だからこそできる仕事に集中するための環境をつくるものなのです。

  • 「この子を見てあげたい」が叶う教室

多くの先生が抱える悩みの一つに、「本当にフォローが必要な生徒に十分な時間をかけられない」ということがあるのではないでしょうか。探究学習の授業では、生徒一人ひとりがそれぞれ異なるテーマに取り組んでいます。教室全体を見渡しながら、個別の声かけをしていくことは、物理的にも精神的にも大きな負担です。

加賀は、導入校で見えた変化をこう語ります。「先生の負担が減ったことで、AIとうまく対話できている生徒と、注意力が散漫になっている生徒の差がはっきり見えるようになった。先生方が『この生徒はフォローが必要だ』とピンポイントで分かるようになったんです。今まではランダムに見て回っていたのが、本当に困っている子に集中できるようになった」。

AIが生徒の思考を促している間に、先生は「今、手をかけてあげたい子」のところへ行ける。これは些細なことのように見えて、先生にとっては大きな変化ではないでしょうか。「見て回らなければいけない」というプレッシャーが和らぎ、「この子を見てあげたい」という本来の想いに沿った動き方ができるようになる。先生の働き方が、管理から支援へと質的に変わっていく可能性を感じさせる事例です。

  • 「こういうことも言える子なんだ」という喜び

先生にとって何よりのやりがいは、生徒の成長を間近で感じることではないでしょうか。実証校では、AIとの対話ログを先生と一緒に振り返る場面がありました。そこで先生が口にしたのは、「こういうことも言える子なんだ」「普段の授業では見えない一面がある」という驚きと喜びの声でした。

探究学習は、定型的な授業よりも生徒一人ひとりの個性が表に出やすい場です。しかし、限られた授業時間の中では、先生がすべての生徒の思考プロセスを丁寧に追うことは難しいのが現実です。AIとの対話ログが、先生と生徒の間に新しいコミュニケーションの接点をつくり出している──そうした手応えが生まれ始めています。

生徒が「自分の考えを語れるようになりたい」と語る姿、それまで見せなかった表情で探究に没頭する姿。そうした生徒の変化に立ち会えることこそが、探究学習に取り組む先生たちの原動力になっているようです。

  • 探究学習に情熱を持つ先生たちとの共鳴

このAIに興味を持ってくださる教員には共通点があるといいます。「私たちが出会う先生方は、受験だけでなく、その先の生徒の人生を考えている方が多い。そういう先生が探究の大事さに共感してくださる」と熊谷は語ります。

探究学習そのものを面白いと感じ、その面白さを生徒に伝えたいという強い意志を持っている先生たち。しかし、その想いを実現するためのリソースや手段が十分でないと感じている方も少なくありません。「答えを出さないAI」は、そうした先生たちの想いに寄り添い、後押しするためのツールでありたい。先生の仕事を減らすのではなく、先生の仕事の中で最もやりがいのある部分──生徒と深く向き合い、成長を見守る──に集中できる環境をつくること。それがこのAIの、もう一つの大切な役割なのです。

未来への展望

「答えを出さないAI」が教育現場にもたらしたのは、単なるツールの導入ではありません。生徒が自ら問いを深め、先生が本当に支援すべき生徒を見つけられる──そんな教室の姿への第一歩です。

この取り組みは、イノベーションラボラトリが進める「人間理解×デジタル」の実践の一つです。私たちは、AIによって人の役割を置き換えるのではなく、人が自ら考え、成長し、可能性を広げられる社会の実現を目指しています。「答えを出さないAI」は、まさにその思想を体現するプロジェクトです。

もちろん、まだ道半ばの部分もあります。「答えを出さない」というこのAIの特性を、教育関係者や利用者に正しく理解していただくこと。効率や即時性を重視する現代において、「考える時間をとる」「考える視点を拡げる」ことの価値を明確に伝えていくこと。これらは、今後も継続的に取り組むべき課題です。

しかし、これらの課題を一つひとつ乗り越えた先には、AIが単なる道具ではなく、人間の思考力を引き出し、自律的な成長を促す「伴走者」となる新しい教育の形が待っているはずです。今年度はさらに導入校を拡大し、多様な学校環境における最適な活用モデルの構築を目指しています。

  • お問い合わせ

探究学習の実践にAIの力を活用したいとお考えの教育関係者の方、あるいは教育とAIの協業に関心をお持ちの企業の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

「答えを出さないAI」の詳しい仕組みや、実証校での具体的な活用事例について、個別にご説明させていただきます。また、貴校・貴社の課題に合わせた導入のご相談も承っております。

NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリ
メール:ilab-contact@nes.jp.nec.com
担当:阿部/熊谷/藤波/加賀
まずはお気軽にお問い合わせください。未来の教育を共に創造していけることを、チーム一同心より楽しみにしています。

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ
主任
阿部 由莉(あべ ゆうり)

新規事業の企画・開発担当。これまで、介護・教育領域向けの企画プロジェクトに従事。
「すべてのヒトが、自分のやりたいことを諦めずに挑戦できる世界を実現すること」をモットーに、日々未踏の領域に挑戦しています。

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 主任 阿部 由莉(あべ ゆうり)

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主任
熊谷 直輝(くまがえ なおき)

ビジネスデザイナーとして、持続可能な地域・社会づくりに取り組んでいます。
これまで関係人口創出やネイチャーポジティブに関するプロジェクトに参画し、多様なステークホルダーとの共創を推進してきました。
机上の議論ではなく、現場のリアルを起点に価値創出を考えることを大切にしています。

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 主任 熊谷 直輝(くまがえ なおき)

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ
藤波 理帆(ふじなみ りほ)

NEC Thinking Support AIのプロモーションを担当しています。
環境・教育領域の企画プロジェクトを経て、現在は探究学習における思考支援AIの価値発信に取り組んでいます。
「答えを出さないAI」をコンセプトに、哲学対話の問いかけで人の思考を引き出す取り組みに挑戦しています。

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 藤波 理帆(ふじなみ りほ)

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ
加賀 茜(かが あかね)

教育領域を中心に、AIを活用したサービスの企画・検証に取り組んでいます。人とAIがともに価値を広げられる未来を模索中です。

イノベーションラボラトリ ビジネスラボラトリ第一グループ 加賀 茜(かが あかね)

INNOVATION STORIES/イノベーションストーリー

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