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IMS:「天才がいなくてもイノベーションは起きる」─ ISO 56001認証取得で「失敗から学ぶ速度」を上げる組織へ
・Innovation Story 17
#イノベーション・マネジメントシステム #ISO56001 #組織変革 #認証取得
IMS:「天才がいなくてもイノベーションは起きる」─ ISO 56001認証取得で「失敗から学ぶ速度」を上げる組織へ
#イノベーション・マネジメントシステム #ISO56001 #組織変革 #認証取得
「イノベーションは一部の優秀な人材の発想力によって生まれるもの」──そのように考えられることは少なくありません。しかし、個人の能力だけに依存していては、組織として継続的に価値を創出することは困難です。長きに渡り新規事業創出に取り組み、2024年にイノベーションラボラトリを発足させたNECソリューションイノベータが選んだのは、「天才を探す」ことではなく「仕組みをつくる」ことでした。
そして2026年、同社イノベーションラボラトリは、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の国際規格「ISO 56001」に基づく英国規格協会(BSI)の認証「BSI Kitemark™」(認証番号:KM842562)を取得しました。国際規格に基づくイノベーションの仕組み化に挑んだ道のりと、その過程で組織に起きた変化を、現場の声とともにご紹介します。
本稿では、イノベーションラボラトリのIMSチームの4名に話を伺い、IMS導入の背景、プロセス、そして認証取得がもたらした組織の変化を多角的に掘り下げます。

栗藤 高信/吉田 久美/有田 節生/池田 和典
イノベーション・マネジメント・システム(IMS)の導入推進および運用を担当。

栗藤 高信/吉田 久美/有田 節生/池田 和典
イノベーション・マネジメント・システム(IMS)の導入推進および運用を担当。
なぜ「天才頼み」ではダメなのか ー組織的イノベーションへの転換ー
新規事業開発は、しばしば特定の個人の発想力やカリスマ性に依存します。しかし、それでは組織としての再現性がありません。イノベーションラボラトリのディレクターである栗藤は「個人の力量だけに依存せず、組織的な活動としてイノベーションを推進できる仕組みを整備すること」をIMS導入の核心に据えました。
NECソリューションイノベータでは2015年より新規事業創出活動を開始し、約10年にわたる取り組みの中で、属人的なイノベーションの限界を実感してきました。技術起点で案件が進み、「本当に顧客課題が存在するのか」を確認しないまま開発が進んでしまうケース。成功と失敗のノウハウが個人に留まり、組織として蓄積されないケース。これらの課題に対する答えとして、2024年のイノベーションラボラトリ発足と同時にIMSプロセスの導入に踏み切りました。
組織の資料にも「天才のひらめきに頼らない」「個人の力に頼らない」という言葉が掲げられています。組織的にイノベーションを起こすという明確な意思表示です。
QMSからIMSへ ーパラダイムシフトの現場ー
NECソリューションイノベータは、ISO 9001(品質マネジメントシステム=QMS)に従った開発活動を長年運用してきた組織です。その経験がある中でイノベーションラボラトリがISO 56001(IMS)に取り組むことは、単なる規格の追加ではなく、根本的な思想の転換を意味しました。
ISO審査の実務を担当した有田は、その違いを端的に語ります。「QMSは再現性や安定品質を重視する。バグが出たらダメ、リスクを最小限にするという世界。一方、IMSは不確実性を前提とするため失敗が許容されます。非線形のプロセスで、一回やってダメだったら戻るし、また進める。何度でも挑戦していいというプロセスです」。
この違いは、PDCAサイクルの設計思想にも表れています。QMSのPDCAは品質の安定と欠陥ゼロを目指し、標準化と逸脱の排除が重視されます。リスクは基本的に「避けるべきもの」として扱われ、成功は「不適合ゼロ」で測られます。一方、IMSのPDCAは不確実性と共存しながら、仮説検証を繰り返し、組織としての学習速度を高めていくことを重視しています。成功の基準は「どれだけ失敗を避けたか」ではなく、「どれだけ価値のある学びを得て、それを次に活かせたか」なのです。
この転換は組織にとって容易ではありませんでした。「品質不具合を抑えるための管理」に慣れた組織が、「失敗から学ぶ速度を上げる」という価値観に切り替えるには、トップマネジメント自身の意識改革が不可欠でした。吉田は「プロセスは所詮プロセス。プロセスを守ることが目的ではない。あくまでも組織としてイノベーションを起こし、事業を創出するという目的があり、それを行う上での参照モデルとしてIMSがある」と語ります。このマインドセットの浸透が、IMS導入の成否を分けた最大のポイントでした。


ISO 56001認証取得への道のり ーギャップ分析から認証取得までー
- 「自己診断ツール」としてのISO活用
イノベーションラボラトリがISO 56001に取り組む際、最初に行ったのはギャップ分析でした。興味深いのは、この時点では認証取得を決めていなかったということです。吉田はこう振り返ります。「ギャップ分析の目的は、自分たちのマネジメントシステムが世界標準に照らし合わせた時にどれだけ充足しているかを見ること。ISOはベストプラクティスを汎化したものであり、それに照らし合わせることで自分たちの現在地を知りたかった」。
外部コンサルタントの第三者評価視点による約70項目にわたる評価を実施した結果、多くの要求事項については既に実践できていることが確認されました。一方で、内部監査や知識マネジメントなど、仕組みとして明文化・体系化が必要な領域も明らかになりました。このギャップ分析の結果を踏まえ自然な流れの中で認証取得への挑戦が始まったのです。
- ドキュメント整理と体系化
審査に向けて最も大変だったのは、ドキュメントの整理でした。有田と池田はこう語ります。「ISO56001の各要素は、1年半ほどの運用で一通り揃っていたし、ある程度言語化もされていた。でもバラバラに分散していた。それを一つの体系に紐づけることが大変だった」。チームはIMSガイドラインマニュアルを作成し、「なんとなくやっていたこと」を形式知化しました。この作業自体が、組織知の循環を生み出す大きな価値だったと振り返っています。
- 最後の壁:内部監査の構築
最後まで解決に時間を要したのが、内部監査の仕組みでした。有田は次のように述懐します。「当初はあまり意識していなかったが、プロセスが本当に回っているかを自分たちでチェックする仕組みが必要だった。ノウハウがゼロの状態から、外部のコンサルティング会社のアドバイスを受けながら監査の項目を定め、クロス監査の体制を整えた。そして我々のメンバー二人で外部の監査員資格も取得して、ギリギリ審査に間に合わせた」。
- 認証取得 ── 「仕組み」が認められた瞬間
こうした取り組みの結果、イノベーションラボラトリはISO 56001の認証取得を達成しました。これは、約10年にわたる新規事業創出活動の中で培ってきたイノベーション活動の仕組みが、ISO56001の要求事項に適合していることが第三者機関によって確認されたことを意味します。しかし、IMSチームは「認証取得はゴールではなくスタートライン」という認識で一致しています。
吉田はこう語ります。「認証を取ること自体が目的ではなかった。自分たちがやってきたことを体系化し、世界標準に照らして検証するプロセスそのものに価値があった。そしてこれからが本番です。この仕組みを使って、実際に組織としてイノベーションを生み出し続けられるかどうかが問われる」。認証取得は、イノベーションを「属人的な挑戦」から「組織の営み」へと転換させた一つの到達点であり、同時に、次の段階への出発点でもあるのです。
IMSが変えた組織の行動 ー仕組みが文化を育てるー
- CPFの浸透 ── 「正しい問い」を立てる力
IMSが組織にもたらした最も大きな変化の一つは、新規事業開発の分野で広く活用されているCPF(Customer Problem Fit)の考え方が浸透したことです。CPFとは、ソリューションの正しさを問う前に、「そもそも、解決すべき『正しい課題』を定義できているか」を見極めるプロセスです。
IMSのフレームワークでは、イノベーション活動を「機会の特定」「コンセプトの創造」「コンセプトの検証」「ソリューションの開発」「ソリューションの導入」という5つのフェーズで構造化しています。その起点にあるのがCPFであり、続くPSF(Problem Solution Fit:解決策は課題に対応しているか)、PMF(Product Market Fit:市場で受け入れられるか)という3段階の適合を経て、初めて持続的な価値創出が可能になります。
以前の新規事業創出活動では、技術起点で案件検討が進むことがありました。しかし現在では「本当に顧客課題が存在するのか」を確認する議論が自然に行われるようになっています。ゲート審査も、「通るためにどうするか」という発想から、「学びを次につなげる場」という認識に変わりました。池田はこう語ります。「最初は審査に落ちたら困る、通るためにはどうしようと考えていたメンバーが多かった。でも今は、ダメだったらもう一回やればいい、失敗から何を学んだかが大事という雰囲気ができてきた」。


- MVF表彰 ── 「意味ある失敗」を称える仕掛け
イノベーションラボラトリには「MVF(Most Valuable Failure)」という表彰制度があります。MVFは単に失敗を許容する制度ではなく、失敗から得られた学びを組織の資産として取り込み、次の価値創出につなげるための仕組みです。挑戦と学習を繰り返すイノベーション活動において、「何を成し遂げたか」だけでなく、「何を学んだか」を評価する文化を醸成することを目的としています。吉田はこう語ります。「失敗許容の文化は、言葉だけでは根付かない。具体的な仕掛けが必要だった。MVFは昨年度末に初めて実施したが、予想以上に多くの推薦が上がってきた」。
この取り組みはISO審査でもグッドポイントとして評価されました。挑戦して失敗をした人、かつその失敗から学習した人が表彰され、それが業績評価にも加味される。この具体的な仕組みがあることで、「失敗してもいい」が単なるスローガンではなく、組織の行動原理として定着しつつあるのです。IMSが求める「意味ある失敗」の文化──失敗そのものを肯定するのではなく、失敗からの学びを「評価されるべき成果」として扱う文化──が、MVFという仕組みを通じて具現化されています。
- 組織の「学習速度」── 失敗許容のその先へ
失敗を許容する文化は、それ自体が目的ではありません。イノベーションラボラトリが真に重視しているのは、「学習速度」です。栗藤はこう語ります。「事業創出のスピードよりも、学習速度の方を大事にしている。所長もそこがメインだと言っている」。ここでいう学習とは、顧客課題に関する仮説を検証し、その結果を次の意思決定に反映することを指します。
この考え方は、イノベーション活動の本質に根ざしています。限られたリソースの中で成果を出すためには、一発で正解を引き当てるのではなく、仮説検証の頻度を上げ、学びを素早く蓄積していくことが求められます。栗藤は続けます。「学習の頻度が上がれば上がるほど、全体としての事業創出スピードも上がる。同じ失敗を踏まなくなるからです」。
実際に、この学習重視の姿勢は組織の行動を変えつつあります。以前は仮説の精度が十分でない段階で事業化を検討するケースもありました。しかし現在では、プロジェクトメンバー自身が早い段階で適切な判断を下せるようになり、そうした事業案はほとんど見られなくなったといいます。これは、学習の蓄積が組織全体の判断の質の向上につながりつつあることを示していると言えるでしょう。
イノベーションラボラトリにとってIMSとは、「失敗から学ぶ速度を上げる仕組み」です。失敗を許容することは手段であり、その先にある学習の蓄積と循環こそが、持続的なイノベーションを可能にする原動力なのです。
- 学習する組織への変化 ── 知の循環と共有
IMSの導入は、「知識をどう蓄積し、共有し、再利用するか」という問いにも組織的な答えを与えました。プロジェクトごとに試行の背景・仮説・反応・気づきを記録し、成功・失敗を問わず仮説・検証結果・得られた知見を他チームと共有できる仕組みが整備されつつあります。
栗藤はIMSを「戦略・文化・学習を分断せずに結びつける組織のOS」と表現します。「戦略は方向性を与え、文化は行動を生み出し、学習は組織を進化させる。IMSはこの3つを同時に動かすための共通基盤として機能しています」。かつて個人の経験に留まっていた知見が、組織全体で活用できる形に変わりつつあるのです。


未来への展望
イノベーションラボラトリの取り組みは、華々しいイノベーション成果の物語ではありません。「大きなイノベーション成果はこれから」と率直に語る姿勢が、むしろこの組織の強さを物語っています。彼らが変えたのは、組織が学び続ける文化と仕組みそのものです。
ISO 56001の認証取得は、その仕組みが国際標準に照らして有効であることが認められた証です。しかし、認証はあくまで通過点です。ISO 56001は「失敗をなくす仕組み」ではなく「失敗から学ぶ速度を上げる仕組み」であり、この仕組みを使って実際にイノベーションを生み出し続けることが、これからの挑戦です。
今回の経験を通じて、私たちはIMSに取り組む際の最初の一歩は、認証取得を目指すことではなく、自組織のイノベーション活動を国際標準に照らし合わせて「自己診断」することに大きな価値があると感じています。多様なパートナーとの共創を通じて、社会課題起点の価値創出に挑戦し続けるイノベーションラボラトリの今後にご注目いただければ幸いです。この分野に興味をお持ちの企業や研究者の皆様と、共にイノベーションの仕組みを探究していけることを期待しています。
お問い合わせ:NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリ
ilab-contact@nes.jp.nec.com
イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
ディレクター
栗藤 高信(くりふじ たかのぶ)
入社後、システムエンジニアとして従事した後、全社の人材育成部門に転じる。以降、事業創出部門やデジタル事業の管理部門への異動を経ながらも、一貫して人材育成に携わり続け、幅広い人材育成施策の企画・運営を担う。現在はイノベーションラボラトリにて、イノベーション活動のマネジメントおよび支援業務のディレクションを担当する。

イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
マネージャー
吉田 久美(よしだ くみ)
入社後は官公庁領域のシステムエンジニアとして従事。以降、社内ビジネスコンテスト「BeNES」を含む社内新規事業開発の支援業務を経て、現在はイノベーションラボラトリにおいて新規事業開発に関する制度設計・運用および教育プログラムの企画・運用を担当している。

イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
プロフェッショナル
有田 節生(ありた せつお)
NEC入社後、FAシステム、通信キャリア向けシステム開発に約25年間従事。
2016年にNECソリューションイノベータ(当時のイノベーション戦略本部)に移籍し、以降、新規事業の投資・QMS関連の審査・運営に携わる。
2023年より同部門のInnovation Management System(IMS)の構築・運営を推進し、ISO56001認証取得に取り組んできた。

イノベーションラボラトリ 事業推進グループ
プロフェッショナル
池田 和典(いけだ かずのり)
大手物流企業のシステム子会社に約10年間、物流関連システムのソフトウェア開発に従事。2009年にNECソリューションイノベータ株式会社(当時の社名はNECソフト)へ転職し、以降10年以上にわたり、新規事業創出事業に携わる事業を担当。
2022年からは現在の事業推進グループにおいて、新規事業開発のメンター業務や事業性評価算出を担当。さらに、Innovation Management System(IMS)の定着推進や、ISO56001認証取得にも取り組んでいます。




















