リカさん、ウチには関連会社がたくさんありますけど、資金を譲渡した時の税金の扱いってどうなるんですか?
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会計コラム・第3回
強制適用のグループ法人税制とは?経営への影響やメリットを解説
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ウチの場合はみんな100%資本関係にあるから「グループ法人税制」が適用されるわ
だから損益は税金には考慮されないのよ -
100%資本関係? グループ法人税制? またわからないフレーズが…
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ちょっと!グループ法人税制は任意じゃなくて強制適用だから、しっかり知っておかないと!
さっきも言ったように税制面でのメリットもあるから、経営に与える影響も大きいのよ -
そうなんですか!グループ法人税制についてもっと教えて下さい!
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それじゃあ、今日はグループ法人税制について詳しく解説するわね
メリットだけじゃなくて、注意点も紹介するから最後までしっかりチェックしてね
すぐに役立つ!人事総務・経理コラム スーパー総務、岡本リカの人事・会計講座 会計コラム・第3回強制適用のグループ法人税制とは?経営への影響やメリットを解説
グループ法人における税制に「グループ法人税制」があります。グループ法人税制とは、グループ法人内の会社をひとつの団体として見なすことで、経営の実態に応じた課税を実現する趣旨の制度です。グループ法人税制は強制適用ですので、経営への影響をしっかり把握しておかなければなりません。グループ法人税制のメリットと注意点について解説します。
グループ経営とは
グループ法人税制を解説する前に、グループ法人税制が適用される「グループ経営」について確認します。
グループ経営とは、一般に「親会社」と「子会社もしくは関連会社」を含めた企業グループ全体で営業活動を行う経営モデルのことです。グループ内の会社は独立していますが、全体の統制を計ることでグループ利益の最大化を図ることが可能です。
本来グループ会社の親子関係はさまざまで、基本的には議決権を基準に関係性を判断します。
- 完全子会社 親会社が100%の議決権を有している
- 子会社 親会社が議決権の50%超を有している
- 関連会社 親会社が議決権の20%以上を有している
しかし、最終的には経営上の決定権、役員の派遣状況、資本などから実質的な支配権や影響力などにより判断されます。そのため、株式が基準を満たしていなくとも、子会社や関連会社となることがあります。なお、海外の会社が子会社となることもありますが、グループ法人税制は「100%の資本関係にある内国法人間」で適用されます。
グループ法人税制の概要とメリット
グループ法人税制の概要と、経営に与えるメリットを紹介します。
グループ法人税制の概要
グループ法人税制とは、平成22年度税制改正にて創設された税制で、それ以前からあった連結納税制度を発展させた形の制度です。グループ法人税制は、完全支配関係(100%の資本関係)にある企業グループを経済的に一体性のあるものとして課税を行うもので、経営の実態に応じた課税を実現できます。
グループ法人税制はグループ間における資産の譲渡、配当、寄付金(法人による完全支配関係に限る)などの取引について、同一法人内でなされたものと見なして、税務上は損益を認識しないというものです。
従来からあった「連結納税制度」との大きな違いは、制度が任意に選択できるかどうかです。連結納税制度は任意適用で、適用を希望する場合は事前申請が必要ですが、グループ法人税制は強制適用です。ただし、連結納税制度の適用会社は連結納税制度が優先されます。つまり、100%の資本関係がある企業グループが連結納税制度を選択していない場合には、グループ法人単体課税制度が強制適用されることとなります。
グループ法人税制の制度化により、連結納税を採用していないグループ法人も連結納税を選択している場合に近い取り扱いになった、と考えるといいでしょう。
グループ経営法人税制のメリット
先に述べたとおり、グループ間における資産の譲渡、配当、寄付金などの取引が、同一法人内でなされたものと見なされるため、グループ内の資金移動が容易になるのが大きなメリットです。具体的には以下のようなポイントでメリットがあります。
1.資産譲渡に係る譲渡損益の繰り延べ
- 固定資産
- 土地(土地の上に存する権利を含む)
- 有価証券(売買目的有価証券を除く)
- 金銭債権
- 繰延資産
※上記の内でも繰延資産対象外となる資産があります。詳細は法令などでご確認ください。
2.受取配当金の損益不算入
グループ法人内において配当の受け取りが行われた場合、負債利子を考えることなくその全額を損益不算入として処理可能です。なお。本優遇を適用されるためには配当の計算期間中、ずっと完全子会社化が継続している必要があります。
3.寄付金の損益不算入
100%支配グループの法人内において寄付をする場合、寄付金を支出する法人は全額を損金不算入として処理し、寄付金を受け取る側の法人は全額を益金不算入として処理します。
これらにより、グループ法人内の資金移動による課税が制限されます。グループ法人内における二重課税が回避されるため、親会社の管理によりグループ内で資金を調整することができます。子会社の利益を親会社にプールし、必要に応じて子会社に資金提供できるため、資金を弾力的に活用しやすくなるでしょう。
なお、上記3つについては、連結納税制度でも同様の取り扱いです。連結納税制度との違いについては、次の項目で紹介します。
グループ法人税制の注意点
グループ法人税制については複数の側面があるので、一概に「〇〇の場合はデメリットがある」とは言えません。そのため、経理業務において注意すべき点を2つの視点から述べます。
グループ法人税制の影響 連結納税との違いも
グループ法人税制はグループ法人間での取引を同一法人内のものと見なす趣旨の制度ですので、仮に子会社と親会社法人間で寄付をしても税額は変わりません。
さらに注意したいのが、大企業の子会社はグループ法人税制の適用によって大企業と同一とみなされることです。その場合、法人税の軽減税率や交際費などの損金不算入制度における定額控除制度など、中小企業向けの特例措置が受けられなくなります。強制適用だからこそ、経営への影響をよく確認しましょう。任意適用の連結納税との差異も知っておきたいところです。例えばグループ法人税制と連結納税の違いには、次のようなものがあります。
企業内損益通算
- グループ法人制度 不可
- 連結納税制度 可
グループ法人税制はグループ内における、「法人の欠損金額」と「他のグループ法人で出た利益」との通算(相殺)ができません。
なお、子法人の繰越欠損金については、子法人の所得の範囲内での使用が可能です。連結納税の場合は「完全支配関係が生じてから5年以内の子法人などの欠損金については切り捨てる」との但し書きがありましたが、グループ法人税制では但し書きはありません。
管理にかかるトータルコストが増加しがち
さらに、グループ法人税制は法人税制上の取り決めであるため、財務会計上の会計処理には影響が及びません。個別に財務諸表を作成する場合は、「財務会計上の利益」と「法人税務上」の利益に差異が発生する可能性があり、その場合は申告調整が必要です。繰延資産を例にすると、グループ法人税制上は譲渡損益が繰り延べられますが、財務会計上は「将来減算一時差異」として課税計算の対象となります。調整の手間が生じるため、取引後の処理には注意が必要です。
また、「繰延資産の譲渡損益繰り延べ」のメリットを享受するためには、グループ法人内の繰延資産のやりとりをしっかりと記録しておくことが不可欠です。管理の手間も考慮したうえでメリットを見極めましょう。
そもそもグループ経営では、一般的に子会社ごとに人事・総務・経理などを行うため、管理にかかるトータルコストは増加しがちです。グループ法人税制について考慮する場合は、グループ全体の連携や効率化も合わせて考えることをおすすめします。
グループ会社を運営するための経営管理
グループ法人税制では、資金移動におけるメリットがある一方、「グループ内通算ができない」「中小企業の優遇が適用されなくなる可能性がある」などの注意点があります。グループ全体のメリットとデメリットをよく比較することが重要です。
前述した「会計管理の処理が煩雑になる」「管理コストが増加する」などの注意点については、人的コストと管理コストの両面から考慮するといいでしょう。管理コスト負担が重い場合は、グループ内の会計システムを新しくして統一して解決を図っていきましょう。
グループ会社内で新しい会計管理システムを導入した場合には、次のようなメリットが期待できます。
- グループ全体にガバナンスを効かせることができる
- グループ全体における経理業務の効率化(個々の会社での業務&連携)
- グループ全体の経営状況を把握しやすくなる
- 今後M&Aを行うときに速やかに経営統合が可能
一方で導入コストが発生しますので、導入する際はメリットを活かせるシステムを選ぶことが大切でしょう。
グループ法人税制は経営管理の視点を忘れずに
グループ法人税制は強制適用となりますので、メリットと注意点をしっかり把握しておく必要があります。制度理解を深める過程で、グループの会計業務や連携上の課題が浮き彫りになることもあるでしょう。そのような場合、グループ全体にとってより良い改革を行ってきたいものです。事業再編M&Aのようなグループの拡大の際は、システム統合も行うことでグループ全体の経営管理体制も強化していくといいでしょう。
「SuperStream-NX」は、親会社の経理マンが複数の子会社の入力画面、検索画面を同時に立ち上げて処理したり、グラフや表で子会社の経理状況を容易にチェックしたりすることができます。そのため、グループ全体の経営状況を把握・分析がしやすく子会社にガバナンスを効かせやすいのが特長です。グループ会社の経営を包括的に把握したい場合は、導入を検討してみましょう。