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ChatGPTを活用してSF的物語をジェネレートする
DATE:2024.03.29
研究テーマ:人間拡張研究
こんにちは、SFプロトタイピングの研究を行なっている伊藤です。
SFプロトタイピングとは、SF的物語の制作を通じてありうる未来像を作り出し、その未来像を元に他者と議論・共有を行なう手法です。
ビジネスシーンでの活用が期待されるこの手法ですが、物語を作成することが得意でない方もいるかもしれません。
今回は、SFプロトタイピングにおいて誰でも簡単に物語が作れるようになることを目指し、ChatGPTを活用した物語作成について検証してみます。
制作の流れと「三幕構成」
SFプロトタイピングでは創作過程における自身の気づきも重要です。ChatGPTにただ小説を書かせるのではなく、あくまで支援の形で活用したいと思います。
また物語を作るにあたり、「三幕構成」をベースに制作を進めたいと思います。
三幕構成とは、問題提起・解決失敗・解決成功の3ブロックからなるシンプルな物語の構成です。
ここでの定義は、SFプロトタイピングの書籍である『未来は予測するものではなく創造するものである――考える自由を取り戻すための〈SF思考〉』よりお借りしています。
また、この本の著者である樋口恭介さんもChatGPTを用いたSFプロトタイピングの実施方法を検討されています。ご興味あれば検索してみてください。
今回は、ステップ1として「課題」「理想」を作り、ステップ2として「未来ガジェット」で物語をジェネレートするという流れで進めてみます。

1.「課題」と「理想」を明確にする
三幕構成における「問題」と「解決成功」に当てはめる要素として、「課題」と「理想」を作成していきます。
ここを明確にすることで、新たな気づきを得たり、物語を作りやすくなるでしょう。
今回は、筆者の個人的な課題「運動不足」・理想「適度な筋肉を手に入れる」を例に進めてみたいと思います。
筆者が挙げた課題・理想を詳細化するため、以下のプロンプトを作成しました。
プロンプト
#情報
私は筋肉がないため、適度な筋肉が欲しいと思っている。
あらゆる活動には体力が必要であり、また心の健康にも重要だからである。
しかし、デスクワークのため運動する機会もなく、趣味で体を動かすことも少ない。
週1でダンスを習ってみたいが、興味あるダンスジャンルはシャッフルダンスであって、それを習えるところはあるのだろうか。
何より、休日は遊ぶ予定があるので習い事を始められない。
---
#指示
以下の質問に回答してください。
- 私の課題について考察してください。
- 私の理想について考察してください。
- 詳細化したい任意の単語を3つ列挙してください。
【#情報】について
自身が理想とする状態について、あるいはそれに対する悩みについて書きます。
このプロンプトによるChatGPTの出力結果から気づきや修正点があれば、ここを追記・変更してより明確化していきましょう。
【#指示】について
指示の内容は、課題・理想を整理すること、またそれによって表面化していない自身の想いや課題に気づくことを目的としています。加えて、特定の言葉を再提示させることで、明確でない内容に気づくことも目的としています。
生成結果
考察:あなたの課題は、適度な筋肉をつけたいという欲求と、仕事や予定の都合上、適切な運動の機会が少ないことの間にあるようです。また、シャッフルダンスという特定のダンスジャンルに興味があるものの、そのスクールや教室があるのか、また週末に時間を作ることができるのか疑問を持っています。
考察:あなたの理想は、運動を通じて筋肉をつけることで健康を改善し、その中でも特にシャッフルダンスを学ぶことです。また、週末を習い事に費やすことなく、楽しみたいという希望もあります。
詳細化したい任意の単語:「適度な筋肉」「シャッフルダンス」「遊ぶ予定」
適当な文章が課題・理想に分かれて整理されました。
個人的に重要と感じた一文は「週末を習い事に費やすことなく、楽しみたいという希望もあります」です。私にとって週末の用事は、運動を始めるための課題などではなく、楽しむためにあるのだと再認識しました。
また、詳細化したい任意の単語として【適度な筋肉】【シャッフルダンス】【遊ぶ予定】が挙げられました。
私にとっての【適度な筋肉】は、一日中働ける体力を維持するなど健康的な生活・心身のための手段です。筋肉に憧れがあるわけではないので、必要最低限の【適度な筋肉】なのでしょう。
【シャッフルダンス】はそれが偶然運動であるため、どうせなら興味あることで筋肉を付けようと思いついたにすぎません。どちらかと言えば、技能や身体表現としてのダンスに興味があります。
【遊ぶ予定】は友人たちと毎月会うためにほぼ毎週入っています。遊ぶ予定というよりも、友人と会う予定という表現が正しいかもしれません。
改めて単語が提示されたことで、その内容を考え直すことが出来ました。
【適度な筋肉】【興味としてのダンス】【友人との時間】が、【健康的な生活・心身】を実現するために都合よくつぎはぎに組み合わせて考えてしまっていたようです。
このように得られた気づきから、プロンプト修正と再生成を繰り返します。
自身の課題・理想が十分にブラッシュアップされるまで行いましょう。
今回は三回ほど繰り返して、最終的な課題と理想は以下のようになりました。
課題:時間が足りず健康とプライベートを両立出来ないため不健康な状態にある。
理想:いっそのことプライベートの時間は増やし、それを犠牲にせずに心身ともに健康な状態を維持したい。
最初の「運動不足/適度な筋肉を手に入れる」から離れ、より明確で本質的な内容になったと感じます。
2.「未来ガジェット」で物語をジェネレートする
「未来ガジェット」とは、現実には存在しないが未来にはありうるSF的な道具を指しています。
この言葉は、SFプロトタイピングの書籍である『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』で紹介される手法よりお借りしています。
ステップ1で明確化した課題・理想は、現実からフォアキャストされた内容でありSF的要素はありません。
ここにSF要素を加える目的で、解決方法にSF的エッセンスを組み込んだ「未来ガジェット」を採用しています。
また、必ずガジェットである必要はなく、課題解決の何らかの手段に置き換えて頂いても構いません。
では、未来ガジェットで物語を生成してみましょう。
課題に対して未来ガジェットを適用してみて、理想と異なる展開は「解決失敗」、理想と近い展開は「解決成功」に当てはめることが出来るはずです。
また今回は未来ガジェットを自身で考えていますが、ここもChatGPTで生成してみても面白いかもしれません。
まずは、解決失敗となる展開を作るプロンプトを作ってみました。
プロンプト
#情報
課題:時間が足りず健康とプライベートを両立出来ないため不健康な状態にある。
理想:いっそのことプライベートの時間は増やし、それを犠牲にせずに心身ともに健康な状態を維持したい。
未来ガジェット:セロトニン増幅キャップ:友人と会う時につけておくことで、幸福感が増す。それによって、例え友人と話しながら大変な運動をしていても全く苦にならない。
#指示
以下手順で、SF的ストーリーを作成してください。
- 未来ガジェットを用いて課題の解決を試みるストーリーを作成してください。
- ストーリーの結末が、理想とは異なる内容にしてください。
【#情報】について
課題・理想にはステップ1で作成した内容を入れています。
未来ガジェットには、課題を解決出来そうな思いつきのアイデアを入れます。ここでの未来ガジェットは、うまく行かなそうな物でも問題ありません。
【#指示】について
未来ガジェットで課題を解決する物語を生成するよう指示しています。
今回は解決失敗となる展開を作りたいため、物語の結末が理想と異なるように指定しています。
生成結果
タイトル:セロトニンの帽子
僕の日常は忙しさで溢れている。働いている時間は多く、休日も家事や育児に追われている。プライベートな時間を削ってまで、僕は日々を過ごしていた。だがその結果、体が辛いばかりでなく、精神的にも疲れ果ててしまっていた。
そんなある日、友人が僕に「ずっと忙しそうだね」と言い、小さな帽子を手渡してくれた。「これは、セロトニン増幅キャップって言って、使えばきみの生活が変わるかもしれないよ」と説明してくれた。これをつければ、幸福感が増すらしい。
果たしてそれは真実なのか?そんな疑問を抱きつつも、僕は友人の言葉を信じてキャップを試すことにした。
試しに週末のハイキングの時に着用してみると、自然と笑顔が爆発する。友人たちと過ごす時間が捧げられる短い休日の疲れを全く感じさせない。このキャップのおかげで幸せな時間を過ごせるようになった。僕はキャップを使いつつ、肉体的な運動を積極的に取り入れるようになった。ジムに通い始め、ランニングも欠かさず行うようになった。
キャップの効果は決して冗談ではなかった。毎日笑顔で、忙しさも感じなくなっていた。ただし、そこで僕は気がついた。僕が本当に求めていたものは何だったのかと。
プライベートの時間を増やし、健康な状態を保つこと。それは確かに大切だった。でも、僕が欲しかったのはただの「幸福感」ではなかった。友人と接する幸せ、子供と遊ぶ幸せ、家族と過ごす幸せ。その一つ一つが、僕にとって大切なものだった。
一方でセロトニン増幅キャップを着用すると、僕は自分がどれだけ辛くても、それを忘れてしまう。幸福感のみが、ひたすら増幅される。それは本来の僕の感情を自分自身が理解することを困難にさせ、なんとなく無感情にさせるような感覚であった
物語や登場人物の設定はイメージと異なりますが、理想と異なる展開を出力することが出来ました。
私のプライベートの時間は、筋トレや仕事のつらさを忘れるためにあるわけではないですし、幸福感によってつらさを上書きすることが理想ではありません。
ともかく、「幸福感を増すことで運動して、本来の感情が分からなくなる」という解決失敗のアイデアが得られました。
今度は上記の内容を踏まえて、解決成功となる展開を作成したいと思います。
プロンプト
#情報
課題:時間が足りず健康とプライベートを両立出来ないため不健康な状態にある。
理想:いっそのことプライベートの時間は増やし、それを犠牲にせずに心身ともに健康な状態を維持したい。
未来ガジェット:全自動運動パジャマ:着用者が寝ている間に運動を行わせる。寝ている間に十分な負荷の運動を無意識で行うことができる。
#指示
以下手順で、SF的ストーリーを作成してください。
- 未来ガジェットを用いて課題の解決を試みるストーリーを作成してください。
- ストーリーの結末が、理想と近しい内容にしてください。
【#情報】について
プロンプトに入れる内容は前回と同様です。
ただし未来ガジェットについては、前回の出力内容を踏まえて変更しています。
今回は解決成功となる物語を出力したいため、前回新たに発生した課題も含めてうまく解決出来そうな未来ガジェットを入れてみました。
【#指示】について
こちらも前回と同様の内容です。
ただし今回は解決成功となる展開を作りたいため、物語の結末が理想と近くなるよう指示しています。
出力結果
タイトル:「全自動運動パジャマ、夜を駆ける」
都会の喧騒が休息を知る夜、アパートメントの一室でタケシは何気ない一日を終えてベッドに横たわった。厳しいプロジェクトの締め切りと家事、友達との交流・・・タケシは自分の時間に追われていた。しかし、彼は健康面での不安を覚えていた。忙しい日々で運動する時間は見つけられず、食生活も劣悪。そんな問題を考えて眠りにつくとき、タケシには秘密の武器があった。「全自動運動パジャマ」だ。
着たまま眠るだけで体に負荷をかけることができるそのパジャマは、現代人にとって理想的なアイテムだった。
夜中、パジャマは寝つくタケシに微弱な電流を流し、彼の筋肉を優しく動かしていた。眠る姿勢から正面を向いて両腕を振り上げる動作、そこから複雑に絡み合う動作へと進化していく。それはまるでダンサーが見せる華麗な振付のようでもあった。年齢や身体能力に合わせた適切な運動プログラムが、彼の体を睡眠中にきちんと動かしてくれていた。
タケシが目覚めるとき、彼は常に新鮮な感覚で一日を始めることができた。疲労感や筋肉痛は感じず、むしろ心地よい疲労感と達成感があり、より良い一日のスタートを切ることができた。彼の生活は劇的に変わった。健康的な体を手に入れたことで、前よりも多くの時間を楽しむことができるようになった。
自由時間はしっかり確保し、身体も心も健康な状態。忙しい彼の生活に、健康面での不安はもう無かった。
そして彼は振り返った、「全自動運動パジャマ」に感謝しながら。「もしもあれが無ければ、こんな素晴らしい日々は送れなかっただろう」と。
日々の忙しさを理由に自身の健康を省みずに慌ただしく過ごしていた彼が
途中までの出力となりましたが、よい感じの物語が出来たかと思います。
また、自身では思いついていなかった要素である「適切な運動プログラム」や「良い一日のスタート」、またテクノロジーの仕組みが含まれており新たな発想も促されます。
このように「解決失敗」「解決成功」にあたる内容を生成することで、三幕構成に当てはめて物語を作ることが出来るでしょう。
終わりに
今回の制作を通じて、三幕構成の物語を考えてみました。
第一章:仕事や趣味で時間が足りない伊藤は、運動や睡眠が十分にとれず健康とは言い難い。
第二章:友人との時間に運動を組み込むため、「セロトニン増幅キャップ」を試してみる。確かに運動していても幸福感を得られたが、友人と時間において自分の本当の感情が分からなくなりノイローゼとなる。
第三章:ノイローゼとなった伊藤は睡眠不足となるが、それを心配した友人に快眠できると噂の「全自動運動パジャマ」を勧められる。試しに使うと、寝ている間に運動ができ睡眠も深くなり、健康的な心身を取り戻す。もともとの運動・睡眠の課題も解決し、様々なことに活発的に取り組めるようになる。
SFプロトタイピングとしては、ここからさらに新しい課題(例えば、パジャマによる事故)を付け加えても良いですし、この内容で世界観を詳細化して小説を執筆しても良いでしょう。
制作の流れやChatGPTの使い方を工夫することで、気づきを得ながら未来像を作成する支援として十分に活用できると感じました。
SFプロトタイピングに興味があるものの物語が作れないという方は、ぜひ今回紹介した方法・プロンプトを用いて物語の制作に挑戦してみてください。
担当者紹介
研究テーマ:人間拡張研究
担当者:伊藤 右貴
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部
ha-contact@nes.jp.nec.com
